BDNFと統合失調症の関係の話の続きです。
前回は日本の研究を見てみましたが、今回は海外の研究を見てみましょうか。



統合失調症とBDNF、GDNF、NGF、Klothoの関係について調べてみた…!

2021年のサカリヤ大学の研究によると、統合失調症とBDNF(脳由来神経栄養因子)やGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、NGF(神経成長因子)、Klotho(抗老化ホルモン)の関係について調べてみたそうです。
そもそも統合失調症ってのは、妄想や幻覚といった陽性症状と感情が鈍くなる、社会とのつながりが面倒になる、うつ症状といった陰性症状がありまして、その結果、学習や記憶力、注意力、実行機能ワーキングメモリなどの多くの認知機能の低下が伴います。
そして統合失調症の発症の原因の一つが神経可塑性の低下です。神経可塑性(しんけいかそせい)とは、ストレスがかかった時に元に戻ろうとする力のことで、例えば心というゴムボールをストレスという力でへこませてもある程度なら戻る感じですな。しかしあまりにも強い力(ストレス)で押したり、ずーっと押し続けると(慢性ストレス)、へこんだまま戻らなくなってしまいます。また、ゴムボールの柔軟性がなくなり固くなった場合も押しても元に戻りづらくなります。そんな元に戻りづらくなることが神経可塑性の低下であり統合失調症なんですよね。
この辺については以前に熊野先生が分かりやすく例えていたのをご紹介していますので気になる方は以下の記事の「個人的考察」をご覧ください。


話しを戻しまして、この研究では、そんな統合失調症の患者さんと健康な方を対象にBDNFレベルなどをチェックしてみたそうな。
まず研究者たちはサカリヤ大学病院の精神科に入院している統合失調症の患者さんに協力を依頼。続いて統合失調症の患者さんと同じぐらいの年齢や学歴になるよう健康な方の協力者を募ったらしい。また、ホルモンや性別による変数を避けるため、男性のみを対象としたんだとか。
結果、18~65歳までの統合失調症の患者さん42名と健康な方43名(統合失調症の患者さんの平均年齢は37.47±10.72歳、健康な方の平均年齢は36.27±10.14歳)が参加したとのこと。
流れとしましては、実験開始1日目と最終日の20日目に統合失調症の症状や認知機能をチェックしつつ、採血を行ったみたいで、実験期間中に統合失調症の患者さんは通常の治療(薬物治療)を受けてもらったそうです。
因みに統合失調症の症状や認知機能をチェックは以下を用いたんだとか。

  • PANSS(陽性および陰性症状尺度):統合失調症や他の精神障害の陽性症状と陰性症状のチェックと重症度を評価するスケール。30個の質問を7段階で答えていく。
  • CGI(臨床全体印象尺度):様々な年齢層の全ての精神障害の経過を評価するスケール。症状の重症度や副作用の改善・重症度なんかもチェックする。
  • GAF(一般機能評価尺度):心理的機能、社会的機能、職業的機能を評価するスケール。現在や過去について1~100のスコアを与えてお医者さんがチェックしていく。
  • BPRS(簡易精神医学評価尺度):統合失調症と精神障害の症状と重症度、その変化を評価するスケール。18個の質問を0~6段階でチェックし合計点で重症度を見る。因みに15~20点は軽度、30点以上は重度となる。
  • ウエクスラー記憶検査III・視覚生成サブテスト:記憶力と視覚学習の認知評価するスケール。最高スコアは14とのこと。
  • ストループテスト:注意力の認知評価するスケール。文字に色がついておりその色を声に出して出来るだけ早く読んでいく。

最後にデータを統計処理した結果、

  • 統合失調症の患者さんの1日目の平均BDNFレベルは1.28±1.93ng/mlだった。
  • 統合失調症の患者さんの20日目の平均BDNFレベルは1.81±2.91ng/mlだった。
  • つまり統合失調症の患者さんが薬物治療を受けると、BDNFレベルが統計的に有意にアップした…!
  • 健康な方の1日目の平均BDNFレベルは5.01±4.60ng/mlだった。
  • つまり健康な方のBDNFレベルは治療前の統合失調症の患者さんよりも4倍近く高かった…!
  • また健康な方のBDNFレベルは治療後(20日目)の統合失調症の患者さんよりも1.7倍近く高かった…!
  • 健康な方は統合失調症の患者さんよりもBDNF、GDNF、NGF、Klothoレベルが全て高かった…!

とのこと。
やっぱり統合失調症の方はBDNFレベルが低く、薬物治療によってそれらが改善していくみたいですねー。それでも健康な方同様のレベルまで行くのは難しいみたいですが…。