【加筆内容】全米医学アカデミーから学ぶ慢性的な睡眠不足のデメリット「パフォーマンス&安全性&機能と生活の質&経済的な影響編」
今年(2023年)の4月末頃、
- 全米医学アカデミーから学ぶ慢性的な睡眠不足のデメリット
この記事は、2006年にアメリカ医学研究所(IOM、現全米医学アカデミー(NAM))が発行した「Sleep Disorders and Sleep Deprivation: An Unmet Public Health Problem」に掲載されてある睡眠不足のデメリットをガッツリと紹介したものです。
2006年と聞くと古い感じがしますが、実際は差に非ず、今でも通用する内容ばかりとなっており、とて~~~も参考になるんですよ。参考文献も、これでもか…!というほど詰め込んでおり、エビデンスもバッチリなものとなっております。
んで、前回は80ページ近くある第3章の慢性的な睡眠不足と睡眠障害がもたらす健康への様々な影響を書いたところで、力尽きた次第であります。いや、マジで大変だったんですよ(笑)
ということで、充電期間を経て、今回は、第4章のパフォーマンス&安全性&機能と生活の質&経済的な影響についてポイントをバーッと見ていきたいと思います…!
全米医学アカデミーから学ぶ慢性的な睡眠不足のデメリット「パフォーマンス&安全性&機能と生活の質&経済的な影響編」
睡眠不足や睡眠障害は、目に見えない睡眠状態の影響であるにも関わらず、死亡率や病気の発症率、パフォーマンス、事故や怪我、機能と生活の質、幸福度、経済面など公衆衛生のほとんど全てにおいて悪影響を及ぼします。では、具体的にどのぐらいの悪影響なのか早速、第4章のパフォーマンス&安全性&機能と生活の質&経済的な影響を見ていきましょう…!睡眠不足と認知パフォーマンスの低下の関係
まずは睡眠不足による認知パフォーマンスへの悪影響を大まかにつかみたいと思います。睡眠不足は勉強や仕事など様々な環境での認知パフォーマンスの低下をもたらしまして、具体的には注意力や記憶力、複雑な意思決定などの低下が起きるそうです。
更に詳しくは2005年のペンシルベニア大学の研究や2009年のペンシルベニア大学の研究が参考になりまして、睡眠不足による認知パフォーマンスへの悪影響をまとめてくれているんですよね。
それが以下になります。
ということでまさにグダグダになるみたいです。
- マイクロスリープ(日中に数秒間寝てしまう)が起こる。
- 集中力や注意力が不安定になり、ミスが増える。
- 時間のプレッシャーがある時は認知ミスが増える、自分のペースでタスクを行った時は認知スピードが落ちる。
- 反応速度が遅くなる。
- 短期記憶とワーキングメモリが低下する。
- 拡散的思考(アイディアを思いつく能力)が低下する。
- 認知課題の学習(学校の勉強を覚えるなど)が低下する。
- 前頭前野が関わる機能(思考や感情、記憶、創造性、行動のコントロールなど)が低下する。
- 効果的ではない解決策にこだわりやすくなる。
- 行動の効果を持続するために、余計な努力をしなければならなくなる。
- タスクが上手くスタートできても、時間が経つにつれ、パフォーマンスが低下する。
- 状況認識力が低下し、必要でない事をしてしまう事が多くなる。
ということでまさにグダグダになるみたいです。
ぜひ注意していきたいですね~。
実験期間は14日間で、睡眠不足とパフォーマンスの関係を見比べてみた結果、
そうです。
睡眠不足のダメージは徹夜レベルと同等なのに、自分では気付けないってのがすごいですねー。
また2003年の別の研究では、健康な66人の参加者を対象に以下の4グループにランダムに振り分け毎日寝てもらったそうです。
実験期間は7日間で、睡眠不足とパフォーマンスの関係を見比べてみた結果、
そうです。
2つの研究から、睡眠不足で注意力と反応速度は確実にダウンしますし、睡眠不足が続けば続くほど、そのパフォーマンス低下も大きくなっていくみたいですね。まさに睡眠負債ですな。
因みに2000年の研究によると、睡眠不足による認知機能低下は、前頭葉の代謝低下が原因っぽいです。
一応1998年の研究によれば、
っていう結果が出ていたり、1998年の研究や2003年の研究、別の2003年の研究でも、
睡眠不足で認知パフォーマンスは低下する…!続けば続くほど低下する…!睡眠不足のダメージは徹夜レベルと同等…!なのに自分では気付けない…!回復にも時間がかかる…!
2003年の研究によると、健康な48人の参加者を対象に以下の3グループにランダムに振り分け毎日寝てもらったそうです。- 1日4時間睡眠グループ
- 1日6時間睡眠グループ
- 1日8時間睡眠グループ
実験期間は14日間で、睡眠不足とパフォーマンスの関係を見比べてみた結果、
- 睡眠不足が続くとパフォーマンスの低下も大きくなっていった…!
- 1日6時間睡眠以下の人のパフォーマンス低下は、2日完全に徹夜した人のパフォーマンスと同じぐらいだった…!
- にもかかわらず、本人は、自分のパフォーマンスが低下していることにほとんど気付いていなかった…!
そうです。
睡眠不足のダメージは徹夜レベルと同等なのに、自分では気付けないってのがすごいですねー。
また2003年の別の研究では、健康な66人の参加者を対象に以下の4グループにランダムに振り分け毎日寝てもらったそうです。
- 1日3時間睡眠グループ
- 1日5時間睡眠グループ
- 1日7時間睡眠グループ
- 1日9時間睡眠グループ
実験期間は7日間で、睡眠不足とパフォーマンスの関係を見比べてみた結果、
- 睡眠不足が続くとパフォーマンスの低下も大きくなっていった…!
- 特に1日3時間睡眠のパフォーマンス低下率がヤバかった…!
- 実験終了後も3日間追跡調査してみたところ、少しずつ回復はしていたが、それでもスタート時のレベルに戻るには至らなかった…!
そうです。
2つの研究から、睡眠不足で注意力と反応速度は確実にダウンしますし、睡眠不足が続けば続くほど、そのパフォーマンス低下も大きくなっていくみたいですね。まさに睡眠負債ですな。
因みに2000年の研究によると、睡眠不足による認知機能低下は、前頭葉の代謝低下が原因っぽいです。
睡眠不足と学校成績の関係
次に睡眠不足と学校成績の関係をみていきます。…といっても学校成績と睡眠不足の関係を調べるのは超難しいらしくて、なんでも様々な要素が複雑に絡み合っているためはっきりとしたことが言えないみたいなんですよね。一応1998年の研究によれば、
- 睡眠不足は若者の注意力や認知機能に影響を与える…!
っていう結果が出ていたり、1998年の研究や2003年の研究、別の2003年の研究でも、
- 睡眠時間の短さと学校成績の低下は関係している…!
とは出ているそうです。
しかし、因果関係が良くわからない、つまり、睡眠不足だから成績が悪いのか、成績が悪いから睡眠不足になるのかが謎なんですよね。まぁ、良くても現状維持か悪くなるしかないと思うのでやはりしっかり寝ておきたいところです。
睡眠不足と仕事のミスの関係
睡眠不足と学業の関係は変数が多すぎていまいちはっきりとした結果は分からなかったのですが、睡眠不足と仕事のミスの関係についてはどうなのでしょうか…?この関係を調べるのによく参加者として選ばれるのが医療関係者です。医療はミスが命取りになる仕事なんですが、一方で長時間労働や夜勤があるなど、睡眠不足に陥りやすい仕事でもあるんですよね。
例えば2002年の研究によると、研修医ってのは他の仕事に比べ特に長時間労働が多いそうです。そして、研修医の最初の1年間は、研修医は3日おきに徹夜(24時間シフト)で働くことが結構あるそうで、1週間96時間労働ってのが結構普通みたいです。
そうなれば当然、睡眠不足による医療ミスは起きやすくなります。
んで、2004年の研究によると、集中治療室での研修医のインターン(長時間労働)と医療ミスについて調べてみたそうです。なんでも集中治療室の勤務は勤務時間が最も長く、ミス率も最も高いんだそうな。
この研究では634人を対象に、合計2,203日分のデータを集めたとの事。因みにミスについては、診断ミスや手順ミス、投薬ミスなど種類ごとに細かく記録したそうです。
結果、
- 残業や夜勤が多い場合、研修医のインターン時の投薬ミスは約21%も増えていた…!
- 更に診断ミスに至っては少なくとも5倍も増えていた…!
- 重大な医療ミスの発生率は22%も高かった…!
そうです。
また2001年の研究や2003年の研究によれば、睡眠不足の外科研修医は、手術のシミュレーションで最大2倍もミスが増えていたそうです。
更に2004年の研究によると、5,600人の研修医を対象に、勤務時間と医療ミスの関係について調べてみたそうです。
すると、
- 週80時間以上働いた研修医は、週80時間未満の研修医よりも、重大な医療ミスを起こす可能性が50%も高かった…!
とのこと。
他にも2004年の研究では、看護師を対象に勤務時間と医療ミスの関係について調べてみたそうなんですが、やはり結果は似ていて、
- 8.5時間勤務よりも12.5時間勤務の方が3.3倍も医療ミスが多かった…!
とのこと。
因みに看護師のほぼ40%が12時間勤務をしていると報告していたそうです。睡眠時間を直接調べてはいませんが、疲労が主な原因である可能性は高いそうです。
睡眠障害と認知パフォーマンスの関係
ここからは睡眠障害と認知パフォーマンスの関係をいくつか下記に挙げておきます。睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、子どもでも起きる事がありまして、2002年の研究や2004年の研究によると、発達や認知、行動、学校成績に悪影響を及ぼすと言われております。また2002年の研究によると、重度の睡眠時無呼吸症候群の子どもはそうでない子供に比べて、神経行動学的リスク(感情、行動、学習の問題)が約3倍も多いそうです。成人の睡眠呼吸障害と認知障害
1987年の研究や1991年の研究、1995年の研究、1997年の研究、1997年の別の研究といった横断研究では、成人の睡眠障害が認知機能障害と関連していることを示しているそうです。また1996年の研究によると、認知機能障害は、部分的に仕事の質やパフォーマンスを低下させると出ていたり、事故や怪我を増やしたり、生活の質が低下すると出ているので、やはり注意していきたいところ。
更に、2000年のメタ分析では、重度の睡眠時無呼吸症候群を持つ人は認知機能障害がかなりあるそうで、特に注意力や実行機能(複雑なタスクを計画したり整理する能力)への影響がすごく、それよりも低いものの記憶力への悪影響もあったそうです。
睡眠不足と安全性
睡眠不足と事故や怪我の関係を見る際に最も身近なのが自動車事故です。2002年の研究によると、ニュージーランドに住む571人を対象に、運転中の急な眠気について詳細な質問に答えてもらったそうです。
すると、重大な交通事故による怪我の約20%は、アルコールと関係がなく、ドライバーの眠気が関係していたそうな。
そして入院または死亡を含む自動車衝突事故の大きな原因は、
- 睡眠不足
- 午前2時~午前5時までの運転
だったそうです。
また、他の研究でわかったのが、睡眠不足による運転パフォーマンスへの影響は、飲酒運転と同程度だということです。例えば、1995年の研究によると、1990年~1992年までにノースカロライナ州で確認できた自動車衝突事故をチェックしてみたそうです。
居眠り運転による衝突事故と飲酒運転による衝突事故の割合を見てみると、重傷の場合は同じぐらいのパーセンテージだったそうな。
詳しく見てみると、
- 全ての原因の衝突事故→居眠り運転13.5%:飲酒運転17.8%
- 自動車衝突による死亡事故→居眠り運転1.4%:飲酒運転2.1%
って感じ。
更に、2001年の研究では、睡眠不足の人や飲酒した人に実験用コースを運転してもらったそうです。
結果、
- 運転パフォーマンスはどちらも同じぐらい低くなっていた…!
とのこと。
他にも1999年の研究なんかでは、徹夜明けの状態の運転パフォーマンスは血中アルコール濃度が0.07%の場合に見られる状態と同じぐらいだったそうなんで、やはり睡眠不足のパフォーマンス低下による事故は非常に気を付けるべき問題みたいです。
因みに睡眠障害と安全性にも関係がありまして、1999年の研究によると、睡眠時無呼吸症候群の人はそうでない人に比べ、交通事故に遭うリスクが2倍だそうです。そして1997年の研究によると、睡眠時無呼吸症候群の症状が重くなればなるほど、交通事故のリスクも高くなっていくそうな。
睡眠不足と仕事中の安全性
次は睡眠不足と仕事中の事故の関係について見ていきましょう。2002年の大規模な研究によると、睡眠不足による疲労は業務中の怪我や死亡リスクを高めるそうです。
例えば2003年の大規模な前向きコホート研究では、オランダの企業で働く7,000人以上の労働者を対象に仕事中の事故発生率を調べてみたそうな。
実験期間は1年間で結果、
- 1年間で負傷した労働者は108人だった。
- 睡眠不足による疲労が溜まれば溜まるほど事故発生率も高くなっていた…!
- 他のリスクを調整しつつ、睡眠不足による疲労度が特に高い労働者とそうでない労働者を比べてみると、事故発生率が70%も高かった…!
そうです。
また2002年の別の研究でも慢性的な不眠不足の労働者は、そうでない労働者よりも、仕事中の事故や怪我がはるかに多かったそうです。
因みに睡眠障害と事故については、例えば、2002年の大規模な前向きコホート研究で調べております。
この研究は、スウェーデンに住む約50,000人を対象に20年間、睡眠障害と仕事中の事故の関係について調べてみたそうです。
すると、
- 睡眠障害がある人はそうでない人に比べ、仕事中に事故で死亡するリスクが約2倍(1.89倍)だった…!
そうです。
また2001年の研究では、いびきや日中の過度の眠気を報告する労働者は、仕事中に事故に遭う可能性が約2倍だったとのこと。
安全に過ごすためにも睡眠はしっかりとっておきたいですね…!
睡眠不足と安全性の対策
睡眠不足と安全性の対策としては、事前に計画された昼寝(仮眠)が良いそうです。例えば、1986年の研究では、飛行機の乗組員に40分間の仮眠をとってもらったそうなんですが、眠気が減り覚醒状態が改善したそうです。
また、2004年の研究では、高速道路をパトロールするイタリアの警察官を対象に夜勤前に仮眠をとってもらったそうです。すると、夜勤中の自動車事故リスクが低下したそうな。
一番の対策は夜にしっかり寝るというのは、言うまでもありませんが、どうしても…と言う際は昼寝を取り入れて見てもよろしいかもしれませんね。
睡眠不足と機能・生活の質の関係
睡眠不足と機能・生活の質への悪影響は様々な研究から証明されております。2001年の研究や2004年の研究、2005年の研究、2005年の研究、1995年の研究、1997年の研究、2002年の研究と一般の方を対象とした多数の研究で睡眠問題は、健康や機能、生活の質への悪影響と関係していたそうです。
因みに生活の質のチェックにはSF-36ってのを使います。SF-36は健康関連QOLをチェックするアンケートで、質問の数は全部で36項目あります。
この回答で以下の8つの尺度が分かるようになっております。
- 身体的機能
- 身体的健康問題による制限
- 体の痛み
- 一般的な健康イメージ
- 日々の活力
- 社会的機能
- 感情的健康問題による制限
- メンタルヘルス
これら生活の質は、2003年の研究によれば、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの人は低い傾向にあるそうです。
また、2005年の大規模な研究によると、約80,000人を対象に夜間の睡眠時間と生活の質についての関係を調べてみたそうなんですが、SF-36を答えてもらったところ、
- 回答者の約26%が頻繁に睡眠不足(過去30日間で14日以上の睡眠不足)だったと答えていた…!
- 頻繁に睡眠不足の人たちは、そうでない人たちよりも、SF-36の8つの項目それぞれで機能や生活の質が低いと答えていた…!
とのこと。
やはり睡眠不足でQOLは下がるみたいですね。更に1999年の研究や2001年の研究、2002年の研究によると、不眠症は生活の質への悪影響がある…!と出ているそうです。
上記の2001年の研究では、重度の不眠症の人についても調べているんですが、それによると、SF-36の8つの項目全てで、生活の質が低かったそうな。
因みにこの結果は、約3,500人の患者さんを対象とした上記の2002年の研究によれば、うっ血性心不全やうつ病の患者さんの評価と同程度だったとのこと。
個人的考察
他にもエビデンスは低い物や間接的な影響ではあるものの、睡眠不足によって家族の幸福度が下がったり、医療の利用による経済的負担があるなどが挙げられておりました。
やっぱ睡眠の質にはこだわっていきたいですね~。
やっぱ睡眠の質にはこだわっていきたいですね~。