今回はミネソタ大学の教授であったアンセル・キーズ(Ancel Keys)という研究者のお話でもしようかと。



「ミネソタ飢餓実験」を行ったのはアンセル・キーズ…!

極端な糖質制限ダイエット(ハード糖質制限ダイエット)はデメリットだらけ!」の記事内でご紹介したミネソタ飢餓実験は、実はキーズ教授らによって行われたものだったりします。
ミネソタ飢餓実験と呼ばれるこの半飢餓実験は、標準体重の参加者に超低カロリー食を与えて、体重(脂肪と筋肉の両方)を25%も落としたというヤバい実験です。
この研究でのポイントは、

  • 半飢餓状態での体重減少はある地点まで行くと横ばいになって変化がなくなり安定した…!
  • しかし、食事制限が解除されると、参加者は以前の体重に戻るのではなく、体重と脂肪量が急速に増加した…!
  • 参加者は明らかに食べ過ぎていたが、これは体重又は脂肪量(又は除脂肪量)を増やそうとする何らかの影響があったと思われる…!

って感じ。
ここから肥満がなぜ起きるのか…?を世界中で調べ出したと言っても過言ではないかと。
因みにこれらは後にキーズの1950年の書籍によってまとめられております。



「地中海式ダイエット」という言葉を作ったのもアンセル・キーズ…!コレステロールを食べるとコレステロールが増える説を提唱したのもアンセル・キーズ…!

U.S. News & World Reportで毎年上位の「地中海式ダイエット」ってなに?どうやるの?って話」の記事でご紹介した地中海式ダイエット。
実は、この「地中海式ダイエット」という言葉を作ったのもキーズ教授だったりします。代表的な研究はキーズ教授らの1986年の研究でして、7か国の研究で地中海式ダイエットが人間の健康に及ぼすメリットを報告したんですよね。
んがしかし、この研究にはキーズ教授のバイアスがめっちゃ入っておりまして、というのもキーズ教授は、食べ物に含まれる飽和脂肪酸(動物性の脂肪)が肥満や心血管疾患(CVD)など不健康をもたらす…!って考えを信じていたんですな。つまり、コレステロールを食べるとコレステロールが増える説を提唱したのもアンセル・キーズだったりします。
だから初期の地中海式ダイエットでは脂肪つまりコレステロールの摂取をかなり嫌がった仕上がりになっているんですよ。
そしてそれを証明するための上記の研究も、かなりずるい事をしておりまして、自分有利なデータが出た7か国のみを使っているんですよね。
そのため追試で食い違いが起きまくるんですよ。バーッと並べていきますとこんな感じです。

  • 2010年のメタ分析:347,747人の参加者を5~23年間追跡調査した結果、飽和脂肪の過剰摂取と、冠状動脈性心疾患(CHD)リスク、脳卒中リスク、心血管疾患(CVD)リスクの間に有意な関係は見当たらなかった。
  • 2013年のメタ分析:26件の研究(うち日本の研究7件)、総サンプル数1,800,418人のデータをまとめた結果、牛乳やチーズ、バターといった乳製品の摂取と全死亡リスクの間に有意な関係は見当たらなかった。肉と加工肉の摂取量が多いと全死亡リスクが有意に高くなっていた。しかし、肉、牛乳、チーズ、その他の乳製品の摂取量が多いことと心血管疾患による死亡リスクの間に有意な関係は見当たらなかった。加工肉の摂取量が多いことと心血管疾患による死亡リスクの間には有意差があった。
  • 2016年のメタ分析:15件の研究、総サンプル数476,569人のデータをまとめた結果、飽和脂肪の摂取量が多いほど脳卒中リスクが低下していた。飽和脂肪の摂取量が多くて東アジア人、男性、BMIが24未満の人だと脳卒中リスクが低下していたが、東アジア人以外、女性、BMIが24以上の人だと脳卒中リスクが低下しなかった。また、1日25gを超える摂取量だと保護効果がなかった。
  • 2018年の昭和女子大学のメタ分析:日本人と日本人以外を対象にした該当研究を分けてメタ分析した。結果、飽和脂肪を日本人が摂取すると脳内出血リスクや虚血性脳卒中リスクが低下していた。但し、日本人以外は関係がなかった。
  • 2020年のメタ分析:高飽和脂肪と低飽和脂肪を比べた14件の研究(総サンプル数598,435人)と用量反応関係を調べた12件の研究(総サンプル数462,268人)をメタ分析にかけてみた結果、食事で飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、脳卒中リスクが低下していた。飽和脂肪酸の摂取量が1日当たり10g増加するごとに脳卒中の相対リスク(RR)が6%も低下していた。

以上から、キーズ教授の飽和脂肪の摂取が死亡リスクや心血管疾患の発症リスクを上げるというのは間違いだったと分かるかと。
但し、誤解してはいけないのは、あくまで飽和脂肪の部分が間違いだっただけであり、数多の研究から地中海式ダイエットは健康に良いのは間違いありませんので悪しからず。