精神障がいの方はメンタルが落ちると反芻思考(ネガティブループ)が起きてしまうことがあります。これは障がい者支援をしている方であれば一度は体験しているはず…。
そして、アドバイスをしても話が入っていかないなんてこともあって困る方は多いのではないのかな~と思いました。
というのも、実はあったんですよね~私のところでも…。
その時の対応は他スタッフが行っていたのですが、困っていたので私が途中から入ることに…。つまり今回は実践編ってことですね~。
最初は主に使ったテクニックをご紹介し、その後、実際に利用者(障がい者)の方へ行った対応方法を書いておきます。



世の中で一番大事な失敗の許されない交渉をしている人は誰なのか

「交渉」と聞くとよく営業の方などがするイメージがありますが、世の中で一番相手と交渉がうまい人は誰なんですかね~。そして、失敗が許されない交渉とはどのようなことなのか…。
私が考えるにそれはネゴシエーター(テロリストと交渉する人)ではないかと思いました。だって失敗=大惨事ですからね。そりゃあ、プレッシャーは半端ないでしょうし、是が非でも成功を勝ち取りたいでしょうからそこから学べる教訓はきっと役に立つはず…!
と、いうことで、今回はFBIネゴシエーターが学ぶ自分の印象を良くする方法を紹介していきたいと思います。



FBIネゴシエーターから学ぶ交渉の5段階モデル

FBIの交渉官が明かしている行動を変えさせるための5段階モデルというものがございまして、今回はこちらをご紹介していきたいと思います。
5段階モデルは

①傾聴
②共感
③ラポール
④影響
⑤交渉成功!


からなります。これだけだとわかりづらい、勘違いしやすいため一つずつ説明したいと思います。それぞれの説明は以下のようになります。

①傾聴:自分の話を聞いてくれていると意識させます。

②共感:相手の考え方がどんな思考や立場からきているのかを理解することです。

③ラポール:自分が相手の立場を理解したことに対して、相手もこちらの立場を理解してくれる状態のことです。
これはわかりづらいので補足説明を加えると、ある種の信頼感を結んでいる状態のことを言います。例として、
「俺だって上司に言われて仕方なく…。俺の立場も考えてよー」
すると相手は、
「自分の事を分かってくれているから自分も相手を分からないと…!」
って感じになる状態をいいます。

④影響:いったん相手の信頼を得たら、問題解決のための論理的な道筋を立てて、提案しても拒否され辛くなることをいいます。

⑤交渉成功:こちらの提案を相手が飲んでくれることをいいます。

失敗する人はいきなり「④影響」をしてしまうことが多いのですが、重要なのは「①傾聴」です。理由はここをクリアするとあとはスムーズに進むからです。



傾聴の基本と応用

「傾聴」の基本は以下のようになっております。

A)絶対に相手の話に口出ししない
B)反論しない
C)評価しない
D)返答は 「うん」「なるほど」と短くする
E)定期的にうなずく
F)相手が言った内容を要約して伝える
G)手短かな質問をくり返して、相手に聞いている印象を与える


これが基本になります。
さらに「傾聴」の応用が、

イ) オープンクエスチョンで質問する:イエスorノーの質問はダメ。とにかく相手から新たな情報を引き出せるような質問をしていくのがポイント。
ロ)間を意識して作る:ずっと一方的にしゃべり続けるのは難しいので、上手く会話の間を作ると、交渉が前へ進みやすくなる。また、すぐに返答しないで2秒間程おきつつ、理解している表情を浮かべるのもポイントとのこと。
ハ)あいづちはつねに短く:「はい」「なるほど」「そうですね」「わかります」などの短いあいづちを使う。相手は「話を聞いてくれている…!」という印象を持ってくれる。
ニ)相手の語尾を真似する:相手が最後に言った言葉をくり返す。つまり、バックトラッキングをするってことですね~。例えば、相手が「辛い…。」と言ってきたら、「そっか、辛いんだね…。」と言う感じ。
ホ)相手の感情に言葉をつけるラべリングですね。「それは辛くなるわ~」みたいな感じで相手が思った感情に言葉をつける事を言います。すると、相手の信頼度が増すんですよねー。因みに否定は逆効果です。

という感じです。
基本的に相手が話し続けられるようにしていこうと意識していくとよろしいかと思います。また、この傾聴ではコミュニケーション力アップにもつながるかと思いますんで、かなり勉強になりますね~。やっぱり命の左右を決める交渉官はレベルが違いますな~。



傾聴の注意事項

そんな大事な傾聴ですが、注意事項もあります。それは反論や否定はしませんが、かといってなんでも「肯定をしろ!」って意味ではないということです。あくまで反論や否定はせずに傾聴をしていくのが目的なのでここで肯定してしまうとその悪い行為に同意してくれた…!って感じになってしまいまずい方向へ進んでいく可能性がありますからね。



実践から見てみよう…!

では、次に上記を踏まえて今回あった実践を見てみましょう。まず、今回は私が駆け付けた時はAさんは黙っていてどういう状況かわかりませんでした。ここからスタートです。

Ⅰ 最初に「Aさんは、どうしたいんですか?」と話し掛けました。その理由は、上記でいう「①傾聴」の部分に当たります。更に掘り下げると、
イ) オープンクエスチョンで質問する」
を行っていることがわかるかと思います。

Ⅱ Ⅰの質問した後、Aさんが黙り込んだ時に長い時間の沈黙がありました。ここでは上記でいう「①傾聴」の部分に当たります。更に掘り下げると、
A)絶対に相手の話に口出ししない
B)反論しない
ロ)間を意識して作る
を行っていることがわかるかと思います。あせらず、相手が何か言うまで傾聴ですね。

Ⅲ 「ネガティブが止まらない」と言う言葉が出ました。また、その後、Aさんに止まらないネガティブについて聞いてみました。更にネガティブについて具体的に掘り下げていきました。ここでは具体的な話をすることによって「①傾聴」「②共感」をより印象付けることができます。つまり、

A)絶対に相手の話に口出ししない
B)反論しない
C)評価しない
ハ)あいづちはつねに短く

を行っているって感じですね。

それと実はネガティブについてしっかり考えることは非常に効果がありまして、これはメタ認知療法(認知行動療法の一つ)のところで登場した「コントロール喪失実験」というテクニックになります。ネガティブを考えないようにしようとせず、しっかり向き合って考えことによって、ネガティブが増幅せずに済むって方法ですね。
また、エクスプレッシブライティングでも説明した通り、ネガティブの沼にハマると極端になりやすいので、しっかり0、100じゃないよ~ってことにも気づいてもらいます。

Ⅳ もう退勤時間のルールで自力で帰れない場合は親へ連絡をしないといけない。だけど、本人は望んでいない。だから、ギリギリまで待つよ。だけど、時間になったら残念だけど電話をするね。本当はしたくないんだけどね…と話しました。これは「③ラポール」と「④影響」になります。
更に帰ることについて最後に「あとは自分で決めていいよ」と言いました。これは以前にご紹介したBYAFメソッドと言われるテクニックです。軽くおさらいすると、BYAFメソッドは説得や頼みごとをした最後に「でも、自分で決めた方が良いよ」というだけで説得や頼みごとに応じる可能性が2倍になるという最強の説得術の1つとなります。

Ⅴ 以上のようなテクニックを使い、本人は自分の意志で自分で帰宅をしました(「⑤交渉成功」になります)



個人的考察

今回は実際に私が対応したときのことを思い出しながら書いてみました。5段階モデルは非常に役立つテクニックですし、ネガティブについてじっくり考えることは良い事だということを知ってほしかったこと、BYAFメソッドを含めた実践での使用をそのまま書いてみたく今回の形としました。
少しでもご参考になる部分があれば幸いです。



参考文献