障がい者支援の研修で必ずといっていい程登場する「デマンドとニーズ」って結局何なの?ポイントはなに?って話
当事業所で最近、相談支援従事者研修を受けた方がおりまして、また、ちょうど最近、昔自分が受けた時の研修資料を整理する機会がございました。
その時、あ~これって基本だけど書いていなかったな~ってのを見つけたんですよね。
それがデマンドとニーズです。
デマンドとニーズってなに…?
支援員をしていると必ずといっていい程登場するのがこのデマンドとニーズ。もうすでにご存知の方がほとんどかもしれませんが、それぞれの意味は下記な感じ。
- デマンド(フェルトニーズ):利用者の主観的欲求や要望のこと。はじめに確認できる希望や課題であり、目の前の望みなど。聞き取りの際にでてくる「こうなりたい…!」や「こうしてほしい…!」というのがコレ。
- ニーズ(ノーマティブニーズ):利用者における客観的必要性のこと。デマンドの背景にある本音の希望であり、利用者の真のニーズ。利用者自身やその家族が気付いていないパターンもある。
んで、よ~く言われるのが、デマンド=ニーズじゃないよ…!、だから取り違えないで…!ってこと。この辺がごちゃごちゃになると結構大変なんですよね~。
例えば、
- 体調が良くないのに焦って無理矢理就職しようとする。
- 正社員で完全週休二日制で、残業なしで給与はこれぐらいの仕事にしか就きたくないという。
- 本人の障がい特性をみると事務職は全く合っていないのに家族が事務職の就職をガンガン推し進めてくる。
みたいな感じのものがデマンドとして出ることがございます。しかし、上記をそのままニーズとして受け取ると、まぁ、支援は上手くいきません(笑)
そこで大事なのがニーズ。本人や家族が求めている真のニーズとはなんなのかを推察し、提案、納得していただき方向性を決めていきます。
上記の例で言うと、
- 無理矢理就職パターン→なぜそこまで就職に焦っているのかを探ると実は違う問題などがでてくるときがある。例えば金銭管理が上手くいかなくてついつい散財してしまいお金がないってのが問題だったってパターンがあったりする。その場合は金銭管理の練習を一緒にしたり、金銭管理を手伝ってくれる人に頼んでみたり(家族やグループホームに住んでいたら頼んでみたり)、障害年金の申請を検討してみたりして金銭面の安心感を得たいという真のニーズを汲み取って支援してみる。
- 高待遇の求職先のみ求める→なぜそこまで正社員や完全週休二日制などにこだわるのかを探っていく。例えば、メディアの影響で不安感が増強しすぎてしまい、安定=正社員を激しく求めているパターンや、以前の就職先で休みがほとんどなかったのでその反動で異常に休みにこだわってしまっているパターンがある。まずは、本当に安定=正社員なのかを一緒に考えたり、高待遇の求職先をみつけるのに時間がかかることや、一番の目的が就職をすることなのか、例え見つからなかったとしても高待遇の求職先を探し続けるのが目的なのか、正社員であればどのような仕事でもいいのかなど優先順位の明確化を一緒に行ったり、不安や過去のトラウマに関して共感や対策を一緒に考えることを提案するなど伝えてみて真のニーズを探る。
- 障がい特性上、苦手な仕事を家族がガンガン推し進めてくる→本人はどう思っているのか聞き取りつつ、本人と家族のズレについて情報共有していく。そもそもなぜ「事務職」などにそこまでこだわるのかを探っていく。実は家族が事務職の仕事をしていた(事務職しかやったことがなかった)からや、事務職=楽なイメージを持っているなど意外な価値観で決定しているパターンもある。家族に本人の能力を伝えて理解を求めつつ、何よりも本人を置き去りにしないで本人のニーズを探るのが重要。
と、まぁ、こんな感じですかね。
デマンドからニーズを探るのは支援での大きなポイントであり、腕の見せ所でもあります。
デマンドとニーズのポイント
次にデマンドとニーズのポイントを書いておきます。
- 利用者やその家族と支援者は、目標や支援の方向性などに関する内容でズレが生じることが多々ある(デマンドとニーズにズレが起きることは良くある)。場合によっては支援を進める上で家族などが大きな障壁となることもある。
- 利用者やその家族からの過度な要望や、支援に対する過度な期待をされることがある。つまり、無茶ブリ的なデマンドを求めてきたり、宝くじで大当たりなレベルの理想のデマンドを期待されることなどがある。
- 上記を踏まえずに利用者やその家族のデマンドをそのまま受け入れると、支援や目標設定、社会生活などに影響を及ぼすことがある(例えば体調が非常に悪いのに就職したいをそのまま進めていき、体調が更に悪化。長期入院してしまうなど)
- そのためデマンド=ニーズとして捉えることが、必ずしも利用者のニーズの実現に役立つアプローチとは限らない。
- ニーズを満たすためには、利用者の要望を単に聞けば良いのではなく、利用者から得た表現や表出された要望を通じて、その奥にある真のニーズを探ることが非常に重要。
- 発見した真のニーズは、支援者や各専門職種によるチームアプローチを行うと良い。
となります。
上記は全て基礎・基本ですが、だからこそ、押さえておいて損はないかと思います。
ニーズをもう少し深掘りしてみると…。
最後にニーズをもう少し深掘りしてみようと思います。デマンドからニーズを導き出すってのは理解できたと思うのですが、これがなかなか難しいもんでして、実際、試行錯誤の連続だったりします。
では、どのようなときにニーズが見えてきやすいのか…?って話ですが、以下の時に意識すると良い感じ。
- 面談や面接
- 家庭訪問
- 周囲からの情報収集
- 環境
- 生活水準
- ふとしたときの会話(雑談)
- アセスメント結果
- 自己理解・自己受容
- 自立への可能性
- 利用者の強み・強さ
- 生産活動中の様子
- デマンドに寄り添った支援を試してみた時の感触から
などなど。
そこから、ニーズに近づくには支援員が分析して
- 本人に必要な事
- 本人が満たさなければいけない物
- 本人の課題
を出します。
そして、上記3つから目標と支援の方向性を把握しつつ、必要な量の支援を導き出します。これがニーズですね。
ここで注意したいのが自分のニーズを表現できない人の場合、ほとんどは家族や職員などの「願い」がニーズになってしまうので、その人が本来必要なニーズを満たされないばかりか、その人の負担になる場合もあるってこと。ここは悩ましいところですが、折衷案(妥協点)を導くためには、本人の意思や自己決定を尊重しつつ、主訴に基づいたニーズ設定を意識するのがよろしいかと思います。
個人的考察
本人のことを深く知るのがニーズであり、就労支援では、働く(暮らしていく)にはどうすればいいのかを考えると、自ずとニーズは見えてくるかと思います。
余談ですが、超ベテラン風な人(社会福祉士や精神保健福祉士を持っていて経験も豊富な相談支援専門員らしい)でも、普通にデマンドとニーズを知らないのか、全く無視してデマンドで押し切ろうとするヤバい相談員なんかもいますんで、利用者が不幸にならないようにしていきたいもんです…。チームアプローチを無視して独断で推し進めていき、利用者・支援員が振り回される場合もありますので、くれぐれもご注意を…。