この間、牛乳が苦手でお腹をすぐ下しちゃう…!みたいな話を会社の雑談で聞きました。その際、乳糖不耐症かもね~みたいなことを伝えたのですが、せっかくなのでもうちょい詳しく書こうかと思いまして…。
ということで今回は、乳糖不耐症についてご紹介します。



乳糖不耐症ってなに…?

皆さんや皆さんの身近にもいらっしゃるかもしれませんが、牛乳や乳製品を飲んだり食べたりすると、いつもお腹がぐるぐるになっちゃう人っていますよね…?その原因は乳糖不耐症の可能性が高かったりします。
牛乳や乳製品には、乳糖(ラクトース)ってのが入っておりまして、こいつを体内で分解するには、ラクターゼ(乳糖分解酵素)っていう酵素が必要なんですよね。ラクターゼは基本的に、乳児期にはたくさん持っているのですが、離乳とともに少なくなっていきます。これをラクターゼ非持続性と言います。逆に離乳期を過ぎて成人になってもラクターゼの生産量が落ちない人もいるんですよね。これをラクターゼ持続性と言います。
そしてラクターゼ非持続性の人はラクターゼが足んない状態なんで、牛乳でお腹を下すなどの乳糖不耐症を引き起こします
つまり、子どもの頃から牛乳ですぐお腹がぐるぐるになる又は、昔は平気だったのに成人になってから牛乳ですぐお腹がぐるぐるになるってのは、元々ラクターゼが少ないか、ラクターゼ非持続性だったってことになります。そして牛乳を大量に飲む(体内に乳糖をたくさん入れる)などをすると、乳糖を分解、吸収出来ず、お腹の調子がおかしくなるって感じで、トイレと仲良しにならざるを得ない状況が起きる訳ですね。嫌だな~。



世界の成人人口の65〜70%は乳糖不耐症…!但し、かなり偏りがある…!日本人は…。

では実際のところ、世界にはどれぐらい乳糖不耐症の方がいるのでしょうか…?
まず参考にしていきたいのが、2017年のジョンズ・ホプキンズ大学の研究になります。
このレビュー論文は、乳糖不耐症の人って世界中にどれぐらいいるの…?人種とかによって違うの…?ってのをまとめたものになります。
んで、まず大枠から見てみますと、

  • 世界の成人人口の65〜70%は、乳糖不耐症だった…!

とのこと。
つまり、10人のうち6,7人は牛乳でお腹がヤバくなりやすいってことですね。こうしてみると非常に身近な感じがしますねー。更にレビューによれば、人種によって乳糖不耐症はかな~り偏りがあるみたいです。なんでも、スカンディナヴィア半島(北欧の方)の人達は非常に乳糖に強い人(ラクターゼ持続性の人)が多いそうで、逆に東南アジアの人は非常に少ないらしい…。

この辺については2011年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどの研究が詳しくて、ラクターゼ持続性の人と地域の関係を見てみると、

  • 東ヨーロッパ・南ヨーロッパ:15〜54%
  • 中央ヨーロッパ・西ヨーロッパ:62〜86%
  • ブリテン諸島・スカンディナヴィア半島:89〜96%

って感じで、ヨーロッパ内でもこんなに差があるご様子。
因みにアジアに関してはデータが少ないそうなんですが、東アジア人(日本人)は乳糖不耐症がかなり多いそうです。
つまり、世界人口比率でみた場合65〜70%だけど、地域でみたら差が大きく日本人は特に乳糖不耐症が多い…!ってことですね。



なぜ地域によってここまで差があるのか…?

では、なぜここまで地域で乳糖不耐症の比率に差があるのでしょうか…?
2012年のケンブリッジ大学などの研究によると、ラクターゼ持続性の人達が多い地域は、生乳の利用が昔から多かったそうです。なんでも、狩猟採集民の生活から農耕メインの生活に変わったのがおよそ8000年前。この時にヨーロッパの方では搾乳可能な家畜(牛やヤギなど)の飼育が爆発的に増えたんだそうな。それと同時に生乳を食料として利用するようにもなったらしい。そしてある時、突然変異が生まれたそうで、それが成人になってもラクターゼを産生し続ける人、ラクターゼ持続性を持つ人だったそうです。つまり、ラクトースに対応できるよう進化した結果、ラクターゼ持続性の人が生まれたようです。
昔から酪農を行い生乳を飲む文化があった地域の人々は長い年月をかけて乳糖耐性をつけてきたけど、その文化がない、後から入ってきたところになればなるほど、耐性獲得に至るまでの時間が足りなかったみたいで、その結果、乳糖不耐症になることが多いみたいですね。なるほど…。
日本などの東アジアに酪農が入ってきたのは結構後からだったので、乳糖不耐症の人が多いのも納得ですね。


因みに北欧諸国にラクターゼ持続性を持つ人が多いのは、酪農や生乳を飲む文化が昔からあったからではなく、移住者が多かったからでは…?って説もあります。
2012年のトゥルク大学の研究によると、スウェーデンとフィンランドのラクターゼ持続性の人達の割合は、

  • スウェーデン:74%
  • フィンランド:82%

だったそうで、国民の大多数が牛乳でお腹が…!と無縁な暮らしをしていたそうです。
しかし、その理由を調べてみると、

  • スウェーデンやフィンランドでは、生乳を飲む文化がなく最近できたものであり、伝統的な食事ではなかった…!
  • 北欧では、酪農は珍しく生産量も少ない。故に普段から生乳を飲むことがなかった…!
  • 特にフィンランドは乳糖不耐症の人が少ないが、酪農・生乳を飲む文化は最近になって入ってきていた…!

という感じだったとのこと。
これらから、北欧が特に酪農、生乳を飲む文化が昔から盛んだったのではなく、酪農や生乳を飲む文化があった人達が北欧に移住したから、ラクターゼ持続性の人が多いのではないか…?とのことです。卵と鶏が逆だったみたいな感じですね。



乳糖不耐症の対策は…?改善するにはどうすれば良いの…?

最後に乳糖不耐症の対策と改善する方法について考えていきます。
まず、当たり前かも知れませんが対策としては、牛乳や乳製品を飲まない、食べないのが有効です。まぁ、牛乳(乳製品)についてはそんなにカロリーの質は高くないですしデメリットも見つかっておりますんで、無理して飲まなくても良いかな~と思います。
もちろんメリットもありますんで飲んでも問題ないですが、一度に大量に飲むのではなく、少しずつ飲む、間隔を空けて複数回飲むのが有効かと思います。また、ラクトースフリーの物を選んだりするのも有効です。その他にも例えばホエイプロテインならコンセントレートではなく、アイソレート、特にCFM製法のアイソレートを選ぶのが良いでしょう。

改善方法についてはなかなか難しそうなのが現状で、例えば2019年のヘルシンキ大学レビュー論文によると、食事から乳糖を取り除いてもラクターゼは増えないそうです。つまり、いくら牛乳や乳製品を回避しても、それで体内の酵素が増えて乳糖に強くなるということはないみたい…。アレルギーとは違うってことですね。悲しい…。
但し、希望のある話もありまして、

  • 腸内細菌により乳糖不耐症の症状が弱くなる可能性がある…!(結腸適応)

としています。
となると、普段から牛乳を飲む習慣をつけるのが有効になりそうですね。
また腸内環境を良くする対策が有効な可能性もありそうです。具体的には、


が良さそうな感じとなります。



数多の犠牲の果てに得られた能力が「牛乳を飲める力」だった…!

2022年のブリストル大学の研究によると、なぜ人類はラクターゼ持続性という進化をしたのか調べてみたそうです。
そもそも人類の農耕が始まったとされるのがおよそ1万年前で、そこから長い年月をかけて少~しずつ乳糖耐性をつけてきた…!というのが定説となっております。ではこれが本当かどうか詳しく調べてみよう…!となったのが今回の研究になります。
まず研究者たちは、ヨーロッパにある554か所の遺跡から、13,181点の陶器断片を回収。次に陶器に付着している脂肪の残留物をチェックして、乳製品がどの程度摂取しているかデータ取りをしたそうな。その後、9,000年間のどの時期にどれぐらい摂取されていたのかの詳細をまとめてみたそうです。つまり、考古学の観点からラクターゼ持続性を調べた…!ってことですね。
更に先史時代の1,700体以上のミイラからDNAを採取し、ラクターゼ持続性がどうやって広まっていったかもチェックしたらしい。こちらは遺伝子の観点からラクターゼ持続性を調べた…!ってことです。
では、考古学と遺伝子学の2つの側面から調べた結果どうなっていたかというと、

  • 農耕による乳製品の使用開始は、およそ9,000年前からだった…!
  • ラクターゼ持続性の人の登場は、およそ5,000年前だった…!
  • ラクターゼ持続性が広まったのは、およそ3,000年前だった…!

とのこと。
牛乳を飲み始めた時期とラクターゼ持続性の登場時期には随分とズレがありますねー。つまり、ラクターゼ持続性の人々は少~しずつ増えたんじゃなくて、ある時(5,000年前)を境に急に登場し、その後すごい勢いで広まっていった…!ってことですね。
う~ん…。従来の定説とは異なる結果だったとは…。

ではラクターゼ持続性の人が登場した5,000年前に何があったのかと言いますと研究者曰く、

  • ラクターゼ非持続性の人々は、飢饉や感染症が増加した環境下では生存に不利であり、そのため、先史時代のヨーロッパではラクターゼ持続性が急速に広まったのだろう

ということです。
太古の昔は当然今の時代のように食料が安定且つ簡単に手に入りませんでした。食料の保存技術もありません。また、当然現代よりも農作物の不作の年というのは起きやすいです。
となればたびたび襲ってくるのが不作による飢餓です。
そんな時、栄養価の高い牛乳を飲んでも、お腹がゴロゴロしてしまうとどうでしょう…?
牛乳が飲めないと食べ物がないんで死んでしまいます。
また、感染症による下痢状態の時に乳糖不耐症の下痢というダブルパンチを喰らったらどうでしょう…?
脱水症状が起きて、やはり死亡リスクは高まりますし、汚物による集団感染のリスクもアップしてしまいます。
研究者たちはこの新たな仮説の真偽を確かめるため、人口と人口密度、飢饉と感染症の関係を整理し、ラクターゼの保有量と比較してみたそうな。
結果は、仮説を裏付ける感じで、

  • 飢饉の場合、ラクターゼ保有量の多い人は689倍も増えていた…!
  • 感染症の場合、ラクターゼ保有量の多い人は289倍も増えていた…!

そうです。
つまり、飢餓や感染症による中で、生き抜くために急速で身に付けた能力がラクターゼ持続性「牛乳を飲める力」だったんですね。

多数の犠牲の代償が今日の牛乳を飲める力となった…!ってのはなんとも言えない気分のお話。
なんだか普通や安心した暮らしがある大事さ・ありがたさを感じました。



個人的考察

乳糖が含まれる食品は世の中に非常に多いので、是非、意識していきたいですね~。



参考文献