コーネル大学のブライアン・ワンシンク博士から学ぶ心理的ダイエット入門
って書籍をご存知でしょうか…?今は絶版になってしまったみたいなんですが、2007年に発売されたコーネル大学のブライアン・ワンシンク博士の名著になります。これは通常ダイエットと聞いて目が行きがちな運動や食事ではなく、心理面からダイエットについて考え、攻めて行こうという面白い内容の本です。
当ブログで以前に紹介した習慣化のテクニックや悪習慣にも関係ある内容ですし、より詳しく言うならレスポンデント学習やオペラント学習、つまり、随伴性形成行動や臨床行動分析などの考え方にもつながっていく内容です。そして、自分が習慣化やダイエットに取り組んだときにも非常に参考にした内容という、まさに実践にも役立つ内容であります。
環境が人を太らせる…!
まずは「そのひとクチがブタのもと」に書かれ、ハース兄弟の名著「スイッチ! 「変われない」を変える方法」の冒頭にも引用されている有名な研究をご紹介します。2000年のある土曜日の午後1時5分、シカゴの映画館にペイバック(下記参照)を人々は見にきたそうです。
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上映前、映画館に訪れたお客さんに無料でソフトドリンクとポップコーンを渡したそうです。その際、上映後の帰りにアンケートに答えてもらう約束をしたんだとか。
実はこのポップコーンには仕掛けがあって、めっちゃまずいらしいんですよ(笑)。なんでも、5日前に作られたポップコーンでしけって発泡スチロールのような食感とのこと。
そして、ポップコーンを配った際にもランダムに2グループに分けたそうで、一方のグループにはMサイズの特大容器(食べきることは不可能)でポップコーンを渡し、もう一方のグループにはLサイズの超特大容器(食べきることは不可能)でポップコーンを渡したそうです。つまり、一人では食べきれない量のポップコーンを全員に配り、分け合う必要をなくしたってことですね。
訪れたお客さんには実験の真意を伝えず、ここまで周到に準備までして何を調べたかったかというと、
- 超特大容器に入った食べきれない量のポップコーンをもらった人の方が、特大容器に入った食べきれない量のポップコーンをもらった人より、多く食べるのか…?つまり、大きい容器を渡された人ほど、多く食べるのか…?
ということです。
因みに上映前後で容器の重さを量って比べてみたとのこと。
んで結果が、
- Lサイズの人は、Mサイズの人より53%も多く食べていた…!(=173kcalも多く摂取していた…!)
- 21回も多く容器に手を突っ込んでいた…!
そうです。
無意識に1.5倍以上も多く食べていたんですねー。怖っ…。
上記の内容から分かる通り、別にポップコーンがおいしくて手が進んだわけではなく(発泡スチロールのような食感)、ましてや、食べきろうという気持ちがあったわけでもありません(どちらの容器も食べきれないほど大きかった)。ランダムに行ったため、空腹か満腹かも変わりません。つまり、ただ、容器が大きかっただけで、お腹が減っていなくても、まずくても、人は無意識に1.5倍以上も多く食べてしまうってことです。
でも、この事実を観客たちに話しても信じないし、容器の大きさで食べる量が変わる訳がないと笑っていたそうです。
この実験はシカゴ以外でも行っておりまして、ワンシンク博士が行った2005年の研究によると、人は好きな食べ物程、食べ過ぎてしまうと信じているけど、一方で、パッケージや容器のサイズなどの環境は非常に強力だから、まずい食品でも摂取量を増やすことができるんじゃないか…?ってのを調べたそうです。まぁ、上と同じですね。
実験はフィラデルフィアの映画ファン158人(男性57.6%・平均年齢28.7歳)を対象に行われ、中型の容器(120gの容器)か、大型の容器(240gの容器)に入ったポップコーンを無料でランダムに配ったそうです。因みにこちらの実験では、新鮮なポップコーンと14日前に作ったポップコーンという名の何か(笑)をランダムに配ったそうな。
つまり、グループは全部で4つで、
- 中型の容器(120gの容器)に入った、新鮮なポップコーンをもらったグループ
- 中型の容器(120gの容器)に入った、14日前に作ったポップコーンをもらったグループ
- 大型の容器(240gの容器)に入った、新鮮なポップコーンをもらったグループ
- 大型の容器(240gの容器)に入った、14日前に作ったポップコーンをもらったグループ
って感じ。
これで映画を見てもらって、どれぐらい食べたかを調べたそうです。
結果は、
- 大型の容器(240gの容器)に入った、新鮮なポップコーンをもらったグループの人は、45.3%も多くポップコーンを食べていた…!
- 14日前に作ったポップコーンでも、中型の容器よりも大きな容器をもらった人の方が、33.6%も多くポップコーンを食べていた…!
そうです。
研究者曰く、食品がまずくても、容器のサイズの影響は非常に強力であるため、大きなパッケージや容器は食べ過ぎにつながる可能性がある。逆に考えれば、生野菜など、たくさん食べるのが難しい健康食品の消費を増やすことができるかもしれないとのことです。
以上からも分かる通り、人間が如何に環境によって食欲を左右されているか分かるかと思います。また、逆に環境を上手く利用すれば、健康的な食生活を無意識に送れるようになれるとも言えます。
心理的な側面から切り込んだダイエットもなかなか面白いですよね…!
食べたいから食べるのではない…!目の前にあるから食べてしまう…!
環境によって食欲が左右され、上手く使うと無意識に健康的な食生活を送れるようになることも分かったところで、「そのひとクチがブタのもと」の具体的なテクニックを見ていきたいと思います。
栄養バランスを整える…!
2つの同じ皿を用意し、一つにはサラダだけを盛る。もう一つにはタンパク質と炭水化物を半分ずつ盛ると良いそうです。これは「皿」という環境からはみ出さないようにすることによって、栄養バランスが崩れないようにするためだとか。
環境の枠を決める…!
袋や箱から直接食べないで、しっかり容器に出すのも大事とのこと。そうすることによって、食べる総量を最初に決めることが出来るということで、まさに環境の枠を決めようって話ですね。
環境のミニマム化を図る…!
冒頭で紹介した通り、容器が大きいだけで人はより多く食べてしまいます。そのため、容器を小さくし環境のミニマム化を図るのが良いそうです。そうすれば無意識に食べる量は減るそうな。
メニューの品数を少なくする…!
以前に書いた通り、食事のメニューが豊富であればあるほど食欲が増してしまいます。つまり、象を刺激してしまうってことですね。ともなれば、やるべきことはただ一つ。食卓や冷蔵庫にたくさんの種類の食べ物を置かないことです。目のつくところに食べ物を置かない、買いだめしない…!
悪習慣のところで書いた通り、そもそも目の前にあるから無意識に食べてしまうし、買いだめしているから取りに行って食べてしまうんです。つまり、家に食べ物を置いてなければ外に買いに行く手間が発生し、結果、間食を防止できるって寸法ですね。ということで、視界と室内に食べ物を置くのはやめましょう。
マインドレス・イーティングをしない…!
マインドレス・イーティングとは、ながらで食べる事を言います。例えば、テレビを見ながら食べたり、スマホを見ながら食べるって感じのことですね。これも冒頭の方で紹介した研究の通り、無意識に食べる量が増えてしまうので注意が必要です(もちろん野菜を食べる時だけ使うなどするのはありかもしれませんが)。反対に、マインドフル・イーティングで食べると良いとのこと。更にワンシンク博士曰く、テレビを見る時間が長い人ほど、肥満率が高いそうです。ながら~は食べ過ぎる傾向が非常に高そうですねー。
因みにセットポイントのところで紹介したTEDトークに出ていた神経科学者サンドラ・アーモットさんも、脳科学の視点からみてマインドレス・イーティングを避け、マインドフル・イーティングをするのは良いとおっしゃっておりましたよね…!
薄味で食べる…!
食事報酬が高くなる原因として、塩や砂糖などがありますが、これらは報酬系を刺激しやすいんですよね。そして、当然、塩や砂糖などを使った濃い味付けの物は、報酬系をガンガン刺激しますんで、過食にまっしぐらとなります。代表的な物は加工食品やソフトドリンクですね。そのため、薄味で食べるとむやみやたらと報酬系を刺激せずに済みますんで、食欲の暴走を抑えられます。
ということで、ポイントを一言でまとめると、
- 環境を整え、食事は食事の時間に食事だけに集中すべし…!
って感じになります。
買物に行く前に健康食をちょっと食べよう…!
最後にちょっとしたテクニックがありますのでご紹介しておきます。これは、ワンシンク博士の2015年の研究で、参加者120人を対象に以下の3グループにランダムに分けたそうです。
- ひとかけらのリンゴを食べてもらう
- ひとかけらのクッキーを食べてもらう
- 何も食べない
その後、スーパーに買い物に行ってもらい、最後に買ったものを調べたとのこと。
すると、リンゴを食べたグループは、
クッキーよりも28%も野菜やフルーツを多く買っていた…!
何も食べないグループより25%も野菜やフルーツを多く買っていた…!
そうです。
また次の実験では、リンゴかクッキーを食べた参加者に、架空の食料品店で好きなものを選んでもらったそうです。
すると、やっぱり結果は同じで、
- リンゴグループは、全体的に低カロリーな食品をチョイスした…!
- クッキーグループは、全体的に高カロリーな食品をチョイスした…!
そうです。
ワンシンク博士も、買い物前に健康食(フルーツや野菜など)を食べておくと、(無意識に)健康に対する意識を持ちつつ買い物ができるので良いよーとおっしゃっております。
また、これらは実験室や実際のスーパーと、どちらの環境でも同じような結果だったようなんで、現実世界でも無意識に起こり得る話だと思います。
因みに、健康的なイメージの物をみるだけでも違うみたいなんで、食べるのが難しければ、ネットで画像検索して、見てから買い物に行くのもありかもしれません。
個人的考察
ワンシンク博士は2007年にイグノーベル賞(栄養学賞)を受賞していたりもします。
んで、その時の2005年の研究がまた面白くて、54人の参加者に内緒で、無限に湧き出るスープを飲んでもらったんですよね。すると、無限に湧き出ないスープを飲んだグループに比べて、より多くスープを飲んでいたんですよ。でも、やっぱり、多く飲んでいた人に事実を言っても信じず、また、満腹感も感じ辛かったみたいです。つまり、無意識に食べてしまうし、それに対して満腹感も得られないってことでした。やっぱ、環境と食べる時は食べることに集中するってのが大切みたいです。
もし、ダイエットをお考えの方がおりましたら、運動や食事制限など、辛い種目を選ばずに、まずは無意識に痩せられるよう、ここら辺から手を付けてみてはいかがでしょうか…?精神的な負担が少なく、習慣化もしやすいので、良いんじゃないかな~と思いますので…。
参考文献
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