小児・青年(ADHD・ASDを持つ方を含む)の睡眠障害に対する心理教育・睡眠習慣(睡眠衛生)・睡眠環境改善・認知行動療法の効果について現時点の最大規模の研究を行った!
睡眠障害は基本的に薬物治療を行っていきますんで、医療の分野と言えましょう。
但し、薬を使わない介入(非薬理学的介入)ってのもありまして、こちらは福祉の分野でもサポートできそうなんですな。
じゃあ、薬を使わない介入の効果ってどうなのか…?って疑問が湧きます。
特に大人を対象にしたものはいくつもありまして、例えば「本当に効果のある不眠症対策は何なのか?」の記事を見ると参考になるんですが、子どもや若者、更にADHDやASDを持つ子供や若者だとどうなんだ…?ってなるとゴニョゴニョ…ってなっちゃうんですよ。
そんな中、その辺をガッツリ深掘りしたアンブレラレビューが発表されました。過去最大規模の研究でして、現時点(2024年時点)でのまとめと言えるでしょう。
小児・青年(ADHD・ASDを持つ方を含む)の睡眠障害に対する心理教育・睡眠習慣(睡眠衛生)・睡眠環境改善・認知行動療法の効果について現時点(2024年時点)の最大規模の研究を行った…!
2024年のサウサンプトン大学の研究によると、小児・青年の睡眠障害に対する薬を使わない介入の効果についてアンブレラレビューを行ってみたそうです。
なんでも子どもの睡眠障害ってのは結構多いらしく、20~30%の方が経験するそうな。また、睡眠障害を幼少期に経験し、思春期まで続くことがあるみたい。
そしてADHD(注意欠陥多動性障害・注意欠如多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症・自閉症スペクトラム障害)など、身体的・精神的・神経発達的に障がいのある子どもは、睡眠障害の発生率がさらに高くなってしまうとのこと。
そんな睡眠障害ですが、様々な問題が起きることは有名な話。
バーッと例を挙げていくと、
- 健康状態が悪化する(小児肥満リスクの増加を含む)
- 学校成績が低下する(認知機能障害の発生を含む)
- 社会的問題が発生する(行動や感情の問題を含む)
- ADHDの症状(不注意・多動性・衝動性)が悪化する
って感じですね。
また周囲のサポート者(主に親や家族、介護者、支援者など)に、睡眠不足や生活の質の低下、全般的な機能の低下なんかも起こるとのこと。
因みに小児・青年に最もよくみられる睡眠障害は慢性不眠症でして、睡眠障害国際分類第3版によれば、
- 少なくとも3ヶ月間、週3晩以上、入眠困難、睡眠維持困難、及び/又は早朝覚醒がみられる状態
と定義されているんだとか。
じゃあ、睡眠障害の治療にはどんなのがあるんだ…?ってことで、最も一般的なのはメラトニンなんかを使った薬物療法でしょう。メラトニンは安全性も高いですしね。ただ、小児・青年の睡眠障害だと、薬以外の治療法を第一選択肢とする専門家もいるみたい。
薬以外の治療法ってのは、具体的に言いますと、
- 心理教育:睡眠障害に対する正しい知識や情報を提供し、対策法を学んでもらう
- 睡眠習慣(睡眠衛生):生活習慣や睡眠環境を整えて睡眠の質や量をアップしてもらう
- 睡眠環境の改善:寝室の静けさや温度、明るさ・ブルーライト、食事(カフェインやアルコールを含む)、運動などを見直し改善してもらう
といった本人や周囲のサポート者にアプローチする行動介入、
- 認知行動療法:特に不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)
- 光療法:太陽光を朝起きたらしっかり当たる、更に日中しっかり当たる、夜はなるべくブルーライトに当たらないと意識して、概日リズム(体内時計)を整え、睡眠パターンを再調整する
- その他:ウェイトブランケットや本人の感覚ニーズに合わせた枕やマットレスの使用
などです。
このようなアプローチの効果はメタ分析や系統的レビューでも調べられていたんですな。但し、それらの知見をまとめたものはこの時点ではなかったらしい。そこで今回初めてアンブレラレビューを行ってみることにしたんだとか。
まず研究者たちは、2024年1月24日までに発表された該当するメタ分析や系統的レビューをMedline、Embase、APA PsycINFO、コクラン、Web of Science、CINAHLで検索してみたそうな。すると合計13,827件の研究がヒットしたとのこと。続いてこの中で重複している研究や質の低い研究を除いていったらしい。
最終的に残ったメタ分析や系統的レビューは93件でして、これらのデータをまとめてみたそうです。
んで、まず光療法やその他に書いたものの効果なんですが、調べた研究が少なくまとめた知見を出すことが出来なかったらしい。そのため、行動介入や認知行動療法の知見をまとめたとのこと。また、心理教育のほとんどは親や保護者がメインでして、一部のみ学校で児童・青少年を対象にしていたそうです。
では効果がどんな感じだったか見てみましょう。
まずは主観的な評価の場合の結果です。
【睡眠障害の正式な診断を受けていない睡眠問題のある小児・青年に対する行動介入】
- 夜間覚醒が改善した(SMD=-0.33、低いエビデンスレベル)
- 睡眠時間が改善した(SMD=-0.10、低いエビデンスレベル)
- 全体的な睡眠障害が改善した(SMD=-0.37、低いエビデンスレベル)
- 気分・うつ症状が改善した(SMD=-0.80、低いエビデンスレベル)
- 母親の睡眠の質が改善した(SMD=-0.57、低いエビデンスレベル)
【睡眠障害(主に不眠症)と正式に診断された小児・青年に対する行動介入】
【ADHDの小児・青年に対する行動介入】
- 夜間覚醒が改善した(SMD=-0.97、非常に低いエビデンスレベル)
- 睡眠効率(実際に寝ている時間の割合)が改善した(SMD=-0.49、非常に低いエビデンスレベル)
- 入眠潜時(ベットに入って眠りにつくまでの時間)が改善した(SMD=-0.57、非常に低いエビデンスレベル)
【ADHDの小児・青年に対する行動介入】
- 就床抵抗(ベットに入るのを嫌がること)が改善した(SMD=-0.27、低いエビデンスレベル)
- 夜間覚醒が改善した(SMD=-0.44、低いエビデンスレベル)
- 睡眠時随伴症(睡眠に入るとき、睡眠中、または睡眠から覚醒するときに好ましくない行動をする事)が改善した(SMD=-0.44、低いエビデンスレベル)
- 睡眠不安(不安で眠れない・寝る時に不安になること)が改善した(SMD=-0.29、低いエビデンスレベル)
- ADHDの症状が改善した(SMD=-0.18、低いエビデンスレベル)
- 睡眠障害が改善した(SMD=-0.49、低いエビデンスレベル)
- 生活の質が改善した(SMD=-0.37、低いエビデンスレベル)
【ASDの小児・青年に対する行動介入】
- 睡眠障害が改善した(SMD=-0.70、非常に低いエビデンスレベル)
続いて客観的な評価の場合の結果です。
【睡眠障害(主に不眠症)のある小児・青年に対する行動介入】
- 睡眠効率が改善した(SMD=-0.63、低いエビデンスレベル)
ちょっとポイントをまとめてみますと、
- 小児・青年(ADHD・ASDを持つ方を含む)の睡眠障害に対する行動介入や認知行動療法(非薬理学的介入)の知見をまとめたら小~中程度の効果があった…!
- 但し、いずれも低い又は非常に低いエビデンスレベルだった…。
って感じ。
個人的考察
とりあえず効果がありそう…!って認められたけど、個々の研究の質が低く、まだまだはっきりは言えない感じですね。
まぁ、やっておいて損はないかと思います。
参考文献
リンク