前回までは、ゲーミフィケーションを使うと健康面の改善がよりうまく進むよ…!って研究を見てみました。
今回からは、ゲーミフィケーションって勉強とか仕事に使えるのかを調べた研究を見ていきます。



皮膚科を目指す医大生の勉強にゲーミフィケーションが役立つのか調べてみた…!

2021年のコロラド大学ナラティブレビューによると、皮膚科を目指す医大生の勉強にゲーミフィケーションが役立つのか調べてみたそうです。
そもそもゲームベースのアプローチであるゲーミフィケーションは、医療分野の教育において注目が高まっているんだそうな。例えば、2010年のボストン大学の系統的レビュー2010年のプリマス大学の研究によれば、ゲーミフィケーションは学生などが勉強してスキルアップしたり、自信をつけたりするのに安全でリスクの低い環境(例えば、手術の練習をゲームを用いてするなど)を提供できるそうな。確かに自動車教習所でやったアーケードゲームみたいなのとかそうですよね。
また最近ではデジタルゲームが広く普及し、趣味として楽しまれることが多くなっているんで、学生や一般の方はゲームに慣れている人が多く、学びに使うにはうってつけな環境ということです。実際、2015年のATスティル大学の研究2013年のフライブルク大学の研究なんかを見てみますと、視覚や聴覚、運動感覚などを使う勉強を楽しんで行いたい場合、従来の教育カリキュラムよりもゲーミフィケーションを用いた教育カリキュラムの方が皆に好まれていたらしい。
ではどうやって勉強にゲーミフィケーションを取り入れるかですが、大枠は2002年の研究が参考になるそうです。この研究では、学習におけるインプット→プロセス→結果のゲームモデルっていう一般的モデルを作っておりまして、

  • インプット:勉強内容とゲームデザイン(ゲーム要素)を混ぜる=つまり勉強にゲーミフィケーションを取り入れるってことですな
  • プロセス:学んだ内容について判断・行動・フィードバックを反復勉強するというゲームサイクルが起こる=つまり勉強でRPGのレベル上げ(レベリング)のようなことが起こるってことですな
  • 結果:スキルアップ(実技試験で問われるスキル)や医学知識の習得(筆記試験で問われる知識)、プロ意識の向上(学んだことに対して自信がつく)が起きる=つまり勉強した本人にとって望ましい結果が出るってことですな

のようになっております。
図にすると以下な感じですね。


そして2017年のカーディフ大学の研究を見てみますと、てんかん患者さんにゲーミフィケーションを用いることによって(この研究では「スクルの輪」を取り上げていた)、

  • クイズや毎日のヒントを出して教育を促せる
  • 服薬遵守などにおける習慣化を目指せる

そうです。
この辺は今までに見てきた研究で納得できますな。
ここまでゲーミフィケーションが使えそうだと分かってきている中で、じゃあ、一般的な医学研修や皮膚科の医大生の教育、皮膚科の患者さんサポートにおけるゲーミフィケーションについてどうなのか今回チェックしてみることにしたみたい。因みになぜ皮膚科なのかと言いますと、視覚的で手順的な医療分野であるため、ゲーミフィケーションによるアプローチをたくさん取り入れやすいからなんだそうな。
ということでまず研究者たちは、2021年1月から2月にかけて該当する査読済み論文をPubMedやGoogle Scholar、Research Gateで検索してみたそうな。次にその中から重複したものなんかを除いていったらしい。
最終的にピックアップされた研究は、

  • 一般的な医学教育におけるゲーミフィケーションの研究:6件
  • 皮膚科におけるゲーミフィケーションの研究:7件

って感じだったそうです。
因みにゲーミフィケーションは新しい分野で研究数が少なく、また、皮膚科に絞ると全然研究がなかったみたいで、今回は一般的な医学教育の研究も見てみたとのこと。
では、レビューのポイントを見ていきましょう。
まずは一般的な医学教育におけるゲーミフィケーションの研究から。

  • 一般的な医学教育におけるゲーミフィケーションの研究の一例として2017年の研究が挙げられる。この研究はWebベースの多肢選択式問題を学生に解いてもらうもので、毎日問題に答えるか、複数の問題に連続して正解すると、達成バッジをもらえるというものだった。また2018年のアメリカ医師会(AMA)の記事によると、webベースのみだったがAndroidやiPhoneのスマホアプリもリリース予定ということ。更にチーム課題でのボスバトル機能やチームランキングの表示機能などもつくみたい。
  • 国際泌尿器科学会(SIU)の2020年の記事によると、公式教育用ゲーム「SIU uRCADE」ってのを2019年にリリースしたらしい。「SIU uRCADE」はWebベースのゲームで膀胱がんと腎臓がんについて勉強できるようになっているそうな。因みに記事によれば圧倒的な需要があったらしい。
  • 2020年のスタンフォード大学の研究によると、VR(Oculus Goを使ったみたい)を使って大量殺傷事件の治療訓練を行ってみた。高校での銃乱射事件後のけが人の治療という想定で207人に参加してもらった。参加した人達にアンケートを取った結果、魅力的で楽しいと答えた人が多かった。因みにその時の様子は以下な感じとのこと(これは楽しく学べそう…)


  • 2018年のトーマス・ジェファーソン大学の研究では、脱出ゲームを用いて医療グループのチームワークやコミュニケーションアップを計ってみた。グループでパズルを解き、制限時間内にタスクを完了するというゲームは、救急医療研修医のチーム構築とマルチタスクのスキルを向上させた。これらのゲームは、チームワークなど、大学で教えるのが難しい能力をアップさせる効果的なアプローチである可能性がありそうとのこと。
  • 2019年のモンテフィオーレメディカルセンターの研究2015年のワシントン大学の研究によれば、既存の教育カリキュラムにゲームベースの要素をプラスしても効果があったそう。外科研修医のパフォーマンスをポイントに変換してチームでランキングを競い合う形式にしたことで、研修医の満足度やトレーニングスコア、試験の合格率がアップしたとのこと。
  • 2021年のオタワ大学の研究ではビデオゲームベースのトレーニングで医学生の外科手術スキルがアップするのか系統的レビューで調べてみた。16件の研究がピックアップされ、575人の参加者を対象に先行研究結果をまとめてみた結果、ビデオゲームベースのトレーニングは、特に腹腔鏡手術やロボット手術における外科技術教育に効果を発揮するみたい。

まとめると、ゲーミフィケーションは、従来の教育にプラスすることで、相乗効果を生み、楽しく効果的に勉強できるようになるみたい。
次に皮膚科の医大生の教育、皮膚科の患者さんサポートにおけるゲーミフィケーションの研究なんですが、こちらは検索した文献全体でたった7件しかなかったそうです。
研究者曰く、

  • 現時点では、皮膚科に特化したゲーミフィケーション研究はほとんど存在せず、そうした研究の多くはサンプル数が少ないか、研究デザインが不十分であるものだった。例えば、ゲーミフィケーションを行わなかったコントロールグループがない物が多い。サンプル数や効果サイズの少なさ、研究デザインの不十分さは、報告されたエビデンスの質に悪影響を及ぼしていた

とのこと。
皮膚科におけるゲーミフィケーションの影響は更なる研究が必要って感じですね。う~ん。残念…。



個人的考察

ということで皮膚科に特化した結果は分からなかったものの、一般的な医学教育におけるゲーミフィケーションは良さそうな感じ。特にモチベーション・楽しさ・成績がアップするみたいなんでやっぱ勉強に取り入れていきたいですな。
また、今回の研究によれば、筆記試験・実技試験、グループワークみたいなものと幅広く使えそうなんで、医療教育に限らず、広く一般の勉強に使えるかと思います。



参考文献