これまで様々な国の知的障がいと平均寿命を見てきましたが、この分野の研究は遅れているのが実情です。
この辺は2015年のランカスター大学の系統的レビューなんかが詳しくて、国レベルで見ても世界的に見ても、知的障がいを持つ方の死亡率や死因などについて積極的に研究されていないんですな。
んで、日本も実はその国の一つだったりします。この分野における日本の研究は非常に遅れておりまして、そもそも研究がほぼなかったりするんですよ。
そんな中でもかろうじてある研究を今回ご紹介しておきます。



日本人における重度知的障がいを持つ方の寿命について調べてみた…!

2009年の美幌療育病院の研究によると、日本人における重度知的障がいを持つ方の寿命について調べてみたそうです。
重度知的障がいを持つ方は、IQが35未満の方を言いまして、寝たきりや、サポートにより座ったり、はったり、歩いたりすることが出来る場合が多かったりします。そんな重度知的障がいですが、日本では乳児期に検査し、診断される場合がほとんどです。そして、その後の生存率についてはほとんど報告がないんだとか。そこで今回研究者たちは調べてみることにしたらしい。
この研究は日本重症心身障害福祉協会のデータベースを使ったものでして、こちらには日本の全ての私立・公立施設から毎年重度知的障がいを持つ方のデータが送られ記録されているんだとか。因みにデータは個人が特定できないよう配慮されているそうで、日本の施設に入所している重度知的障がいを持つ方の40%~60%のデータが集まっているらしい。
んで、このデータベースで1961年から2007年の間に119の施設に入所していた16,409人分のデータを使い、

  • 今回の対象機関である1961年から2003年のデータのみをピックアップ
  • 2003年の死亡者データベースを使う
  • バイアスリスクの排除
  • 重度知的障がい・最重度知的障がいを持つ方をピックアップ

などしたそうです。
最終的なサンプル数は3,221人だったそうで、これらのデータを用いて統計処理してみたんだとか。
その結果、

  • 3,221人のうち2,645人が生存し、576人の方が亡くなっていた
  • 追跡不能となった参加者の割合は27.6%だった
  • 全参加者の20歳時点での生存率は79%だった
  • 座る事が出来なかった方は、座る事が出来た方よりも生存率が低かった
  • 座る事が出来なかった方の中では、IQが低い方の方が生存率が低かった(=重度知的障がいを持つ方よりも最重度知的障がいを持つ方の方が生存率が低かった)
  • 2歳未満で死亡した乳児と観察期間が2年以下の人を除外した場合で調べてみたが、結果は変わらなかった
  • 主な死因は呼吸器疾患と心血管疾患だった

とのこと。
先行研究同様、寿命は短くなってしまうみたいでして死因も同様でした。
更に10歳、20歳、30歳、40歳時点での生存率もチェックしておきますと以下のようになっておりました。

【全死亡と観察期間】
  • 10歳:20歳:30歳:40歳
  • 91%:79%:72%:64%

【2歳未満で死亡した乳児と観察期間が2年以下を除く】
  • 10歳:20歳:30歳:40歳
  • 91%:78%:72%:65%

この結果に研究者曰く、

  • 日本の公立及び私立の医療施設に入所している重度知的障害者の生存率を推定した。予想通り、生存率は一般人口よりもはるかに低く、身体障害が重度な人ほど低かった。座れるかどうかは生存率にとって重要な因子であり、これはこれまでの報告と完全に一致する結果だった

としています。
重度知的障がいや最重度知的障がいを持つ方々は座位が保てるかどうかが寿命に大きく影響するみたいですね。



個人的考察

主な死因が呼吸器疾患と心血管疾患だったことを踏まえると、心肺機能の強化が寿命を延ばすポイントになるのかな~と愚考しておりました。
因みに重度知的障がいや最重度知的障がいを持つ方で運動したい場合、リバウンドセラピー(トランポリン)が良さそうな感じなんですが、日本で出来るところがあるのだろうか…。



参考文献