精神障がいや発達障がいを発症した方がいた場合、その家族のリスクはどうなのか? その13
「精神障がいや発達障がいを発症した方がいた場合、その家族のリスクはどうなのか?」シリーズの続きです。
統合失調症・強迫性障害の患者さんにおける親の精神疾患リスク
2024年の義守大学の研究によると、統合失調症・強迫性障害の患者さんにおける親の精神疾患リスクについて調べてみたそうです。
そもそも2019年のアンリモンドール大学病院のレビュー論文によれば、統合失調症は強迫性障害との併存率が高いそうな。
もうちょい細かいデータを見てみると、
- 2013年のアムステルダム自由大学のメタ分析:統合失調症の患者さんにおける強迫性障害の有病率は12.3%
- 2019年のケープタウン大学の研究:一般人口における強迫性障害の有病率は2~3%
だったみたい。
つまり4~6倍程高そうな感じですね。
んで、この原因についてなんですが、脳の構造があやしいそうな。例えば2003年のゲハメンタルヘルスセンターの研究や2017年のCAMHの研究では、脳をスキャンした結果、尾状核、眼窩前頭皮質(腹内側前頭前野)、前帯状皮質、視床背内側核などで機能的・構造的な類似性が見つかったとのこと。また2018年のステレンボッシュ大学の研究によると、統合失調症と強迫性障害の遺伝子研究で、ドーパミンやセロトニンなんかも調節機能の遺伝子が共通していたんだとか。更に2019年のトロント小児病院の研究では、ゲノムデータを照らし合わせた結果、統合失調症と強迫性障害にはいくつかの共通変異があったみたい。
そして注意しなければいけないのは、特定の統合失調症の治療薬です。2014年のキャンベルファミリーメンタルヘルス研究所の研究や2009年のソウル大学校の研究によると、第二世代抗精神病薬(SGA・非定型抗精神病薬)は統合失調症の患者さんにおける強迫性障害の発症誘発因子と考えられているそうで、そのメカニズムは遺伝子配列の変異によるものとのこと。つまりクロザピン(クロザリル)なんかは、強迫性障害が二次障害として発症しやすいってことですね。
一方で2011年のティラトカーメルメンタルヘルスセンターの研究によると、強迫性障害は、統合失調症の前症状っぽいんですよね。
…っとこんな感じで、かなり密接な関係がありそうなんで、この度、詳しく調べてみることにしたそうです。
この研究は、何度も登場している台湾の国民健康保険のデータベース(NHIRD)を使ったと言うもの。そもそも台湾の国民健康保険は強制加入とのことで、全ての台湾に住む人(2,300万人以上)のデータが入っているんだとか。
今回使用したデータセットの期間は2001年1月1日~2011年12月31日の間でして、この間に統合失調症のみ、強迫性障害のみ、統合失調症+強迫性障害と診断された12歳~17歳の子供と18歳~64歳の人をピックアップしたらしい。
すると、
- 統合失調症のみの患者さん48,201名
- 強迫性障害のみの患者さん17,809名
- 統合失調症+強迫性障害の患者さん3,803名
- 主要な精神疾患のない対照群の人698,130名
が見つかったそうです。
次にこの方々の特徴なんですが以下のようになっておりました。
- 統合失調症のみの平均年齢:35.5歳
- 強迫性障害のみの平均年齢:30.69歳
- 統合失調症+強迫性障害の平均年齢:31.63歳
- 主要な精神疾患のない対照群の平均年齢:34.06歳
- 統合失調症のみの男性:56.2%
- 強迫性障害のみの男性:57.1%
- 統合失調症+強迫性障害の男性:63.1%
- 主要な精神疾患のない対照群の男性:56.8%
- 統合失調症のみの診断時の年齢:27.81歳
- 統合失調症が二次障害として診断された時の年齢:24.17歳
- 強迫性障害のみの診断時の年齢:25.21歳
- 強迫性障害が二次障害として診断された時の年齢:25.03歳
- 統合失調症と強迫性障害が同時に診断された割合:43.8%
- 統合失調症→強迫性障害の順に診断された割合:36.5%
- 強迫性障害→統合失調症の順に診断された割合:19.7%
それではこれらのデータを統計処理した結果を見てみましょう。
- 統合失調症のみ、強迫性障害のみ、統合失調症+強迫性障害の全てにおいて、対照群よりも主要な精神障害リスクが高かった(OR範囲1.50〜7.83)
- 強迫性障害リスクが最も高かったのは、強迫性障害のみの親だった(OR7.83)
- 次に強迫性障害リスクが最も高かったのは、うつ病(OR2.56)の親で、その次が双極性障害(OR2.45)だった。
- 統合失調症リスクが最も高かったのは、統合失調症のみの親だった(OR5.61)
- 次に統合失調症リスクが最も高かったのは、双極性障害(OR3.20)の親で、その次がうつ病(OR1.96)だった。
- 統合失調症+強迫性障害の患者さんでは、親の強迫性障害リスクが最も高く(OR6.01)、次が統合失調症(OR4.06)の親で、その次が双極性障害(OR3.48)だった。
統合失調症のみ、強迫性障害のみ、統合失調症+強迫性障害の患者さんの全てで、親の統合失調症リスク、双極性障害リスク、うつ病リスク、物質使用障害リスク、アルコール依存症リスク、強迫性障害リスクが高かったみたいですね。
それとこの研究では他にも分かったことがありまして、
- 統合失調症と強迫性障害の診断順を踏まえると、統合失調症→強迫性障害の順に診断された、強迫性障害→統合失調症の順に診断された、統合失調症と強迫性障害が同時に診断された、に関係なく、親の統合失調症リスク、双極性障害リスク、うつ病リスク、強迫性障害リスクは高かった
とのこと。
この辺を見ても、統合失調症と強迫性障害はかなり関係が深く、そして家族歴に於いても関係が深そうですね。
因みに研究者によれば、
- われわれの知る限り、本研究は、統合失調症の患者さんの親は強迫性障害リスクが高く、強迫性障害の患者さんの親は統合失調症リスクが高いという双方向の因果関係を示した初のコホート研究である
そうです。
個人的考察
統合失調症や強迫性障害を持つ方の親の精神疾患リスクも高いんですね。