この記事は、当事業所の社内研修で行いたかったが時間の都合上出来なかった内容を載せている物になります。
具体的には認知行動療法マップ(CBTマップ)の「認知行動療法の共通基盤マニュアル」を私なりにまとめたものです。
それでは続きをどうぞー。



認知行動療法の基礎知識と全体像

認知行動療法は、

  1. 利用者(障がい者)の認知(情報処理のプロセス、つまり考え方ですな)や行動に焦点をあてながら、
  2. 利用者の抱える問題に対して、
  3. 利用者と支援者で一緒に相談しながら目標を設定し、
  4. 目標の達成を妨げる問題の解決を図る、
  5. 短期の構造化された、
  6. 目標志向型の精神療法

となっております。
そして認知行動療法は、うつ病不安障害強迫性障害心的外傷後ストレス障害(PTSD)摂食障害パーソナリティ障害統合失調症など多くの疾患や障害に対して有効であることが示されており、また、精神医療分野のみならず、身体疾患、生活習慣、産業保健分野、教育分野、司法矯正分野など多岐にわたって活用されているそうです。
但し、ここでも基礎基本が重要で、認知行動療法においても他の多くの精神療法と同じように、共感性、誠実さ、温かさ(敬意)などの精神療法の共通要素が不可欠なんだとか。また、こういった共通要素を土台とすることにより、はじめて認知行動療法特有の技法は効果を発揮するそうです。

次に認知行動療法の全体像を把握しておきます。
最初に行う事は、そもそもどのような問題が利用者の症状の発現や持続に関与しているのか、どのような経験やスキーマ(思考の大枠、思考のクセ:良い面も悪い面もある)が現在の問題に影響しているのか捉える必要があります。問題の根本を探るってことですね。
具体的には、

  1. 利用者の考えや思い込み(バイアス)を利用者と支援者が一緒になって科学者のように検証していくエクスプレッシブライティングの記事で書いた「評論家みたいに客観的視点で見解をする」ってのと同じ感じ)
  2. 利用者が自分自身で答えにたどりつけるよう、ソクラテス式問答(=ソクラテス式問答法)を用いて話していく
  3. 過去についてではなく『今・ここでの問題(here-and-now problem)』に目を向けてもらえるよう話していくマインドフルネスの考え方を取り入れる感じ

を意識して行っていくと良さそうです。
続いて収集した情報を基に「認知行動モデル」に当てはめて行き、仮説を立てていきます。
認知行動モデルは、ある『出来事』をきっかけとして瞬間的に頭に生じてくるイメージや考え(認知、自動思考ともいう)が、気分や感情、行動、身体的な反応に相互に影響を与えあうことを言います。
具体的には、認知療法のABC分析(ABC理論)に当てはめていく感じでして、

  1. 一連の反応を引き起こす出来事(A:Acting Events)があり、
  2. これに対する思考や信念といった認知的変数(B:Belief)によって、
  3. 気分や行動といった反応(C:Consequences)につながる

といった流れです。
そして気分、認知、行動、身体症状の反応のうち、

  • 気分と身体の反応:意識的に変える事は難しい…!
  • 認知と行動の反応:意識的に変える事ができる…!

ので、この認知と行動を変えていくようにしていきます(だから認知行動療法と言う)。但し、認知と行動が変われば、気分や身体症状も当然改善していきますんで、結局全てがプラスの方に変わっていく事になるんですな。
認知行動モデルのイメージは下記画像のようになります。


ではここでABC分析の事例も併せてチェックしておきましょう。
例えば、「職場や事業所内での友達やグループの食事に自分だけ誘われなかった」という場面(A:出来事)を想定してみます。このような状況に出くわすと、「私はみんなから嫌われている」という考え(B:自動思考・認知)が浮かびます。その結果、不安や抑うつ、悲しみといった気分が強くなり、「職場や事業所での仕事が手に付かない」という行動(C:反応)が起きてしまいます。
図にすると以下な感じですな。


またここから、「私はみんなから嫌われている」と思う(自動思考・認知)と、

  • 職場や事業所でのコミュニケーションが減る
  • 職場や事業所に行きづらくなる

などの行動につながります。
それが更に状況を悪くしたり、「自分はだめだ」という認知をさらに強めたりしてしまいます(いわゆる反芻思考(ネガティブループ)ですな)
イメージは下図な感じです。


認知行動モデルに基づいた治療では、上記のような状況を4つの側面(気分、認知、行動、身体症状)で評価し、認知の妥当性(本当にその考えしかないのか)を検討したり、非機能的な行動(やらない方が良い行動)を修正したりすることをします。要は考え方の幅を広げるってことですな。
上述の例であれば、

  • 食事に誘われなかったのは本当に自分だけだったのか…?
  • 誘われなかった理由は「自分は皆から嫌われている」以外には考えられないのか…?
  • 例えば、職場や事業所の人たちは、利用者が業務に余裕がないことを知っていてあえて誘わなかった可能性はないのか…?

など、状況を客観的に見直しし、「適応的」で「機能的」な考えや行動をとることを支えるようにしていきます(考え方を捉え直すってことで前に紹介した「リアプレイジング」ですな
因みに注意しておきたいポイントとしては、状況を踏まえずにやみくもに「ポジティブに考える」ことではないということです。これは逆効果になりかねないので気を付けて行きたい所でして、詳しくは、


当たりをご覧いただくと理解が深まるかと思います(個人的にはリフレーミングして活かす方向でいくと良いと思う)
最後に認知についてもうちょい詳しく見ておきます。
認知行動療法では、認知について、大きく2つのレベルを想定しておりまして、

  1. 自動思考:日々のさまざまな場面で瞬間的に頭の中を素早く通過する認知のこと
  2. スキーマ:情報処理の基本的なテンプレートのこと。中核信念や媒介信念ともいう。「~しなければならない、~すべきだ」と自分自身で思っていること

となります。
いずれも重要なポイントなんでぜひ押さえておきたいですね。上記も踏まえて、仮説→検証→修正→仮説…のように繰り返していきます。その後、具体的なテクニックを用いて、認知的・行動的介入をしていきます。イメージとしてはこんな感じですね。

※アジェンダ→話題、テーマ、話し合いのテーマのこと。

認知行動療法の全体像と流れは以上な感じで、これを基本的に週1回、1回30~50分程度で、合計6~20回程行っていきます。そして最終的には利用者が「自分自身の治療者になる」ことを目指していきます。



個人的考察

以上「認知行動療法の基礎知識と全体像」でした。
次回からは各障がいへのアプローチについて見ていきます。



参考文献