【加筆内容】精神障がいの方の平均寿命は本当に短いのか? その16
統合失調症における死亡率の系統的レビュー・メタ分析
2022年のシャリテ大学の研究によると、統合失調症の患者さんにおける死亡率について系統的レビュー・メタ分析を行ってみたそうです。
統合失調症は精神疾患の中でも最も死亡リスクが高いと言われるものの一つでして、平均寿命も15~20年も短いと言われております。ただ、その理由ははっきり分かっていないんですな。そこで今回研究者たちは、統合失調症の患者さんと対照群を比較した全死亡率・原因別死亡率と死亡リスクの増加・軽減要因をチェックしてみることにしたんだとか。
ということでまず最初に2021年9月9日までに発表された該当研究をMedline、PubMed、PsycINFOで検索しつつ更に手作業でも探してみたそうな。すると合計8,345件の研究が見つかったとのこと。次にこの中で被っている物、質の低い研究を除いていったそうで、最終的に135件の研究を選ぶことが出来たらしい。
この135件のうち、統合失調症の患者さんの総サンプル数は4,536,447人、対照群(一般人口の総サンプル数)は1,115,600,059人って感じでした。
また細かく比較したサンプル数を見てみると、
- 統合失調症の患者さん(3,494,716人)と一般人口(1,097,856,754人)を比較した
- 統合失調症の患者さん(29,616人)と合併症を合わせた一般人口(17,733,923人)を比較した
- 統合失調症の患者さん(19,011人)と他の精神疾患(3,827,955人)を比較した
- 統合失調症の患者さん(994,273人)の2グループ内で、リスク要因と保護要因、死亡率を比較した
そうで、サンプル数の多さ、比較方法とかなり細かい内容となっております。
更に研究は割と世界中から選ばれておりまして、日本の研究も2つ選ばれておりました(以下)
では、系統的レビューとメタ分析の結果を見てみましょう。
- 統合失調症はどの対照群と比較しても全死亡率が有意に高かった(RR2.52)
- 統合失調症の患者さんは一般人口と比較して全死亡率が大幅に高かった(RR2.94)
- 新規(初期段階)での統合失調症の患者さんを対象にした2つの研究では、一般人口と比較して全死亡率が最も高かった(RR7.43)
- 身体疾患(急性心筋梗塞、糖尿病など)を合わせた対照群と比較すると、統合失調症の患者さんの死亡率は軽減されたが依然として有意だった(RR1.66)
- 統合失調症の患者さんは急性心筋梗塞を合わせた対照群と比較して、全死亡率が有意に高かった(RR1.82)
- 統合失調症の患者さんは糖尿病を合わせた対照群と比較して、全死亡率が有意に高かった(RR1.91)
- 統合失調症の患者さんは脳卒中を合わせた対照群と比較して、全死亡率が有意に高かった(RR1.35)
- 統合失調症を他の精神疾患と比較した場合、双極性障害(RR1.26)を除いて、全死亡率に有意な増加は見られなかった。
- 統合失調症と物質使用障害(アルコールや薬物なんかの依存症)があると、全死亡率が上がっていた(RR1.62)
- 統合失調症は一般人口と比較して、自殺による死亡率が大幅に高かった(RR9.76)
- つまり、自殺が統合失調症の患者さんの死亡率を上げる最大の要因であることを意味している。
- 統合失調症は一般人口又は身体疾患を合わせた対照群と比較すると、自然死(自殺、事故、中毒による死亡を除く)の死亡率が高かった(RR2.00)
- 統合失調症は一般人口又は身体疾患を合わせた対照群と比較すると、心血管疾患・脳血管疾患の死亡率が高かった(RR2.03)
- また統合失調症の患者さんは一般人口と比較して、肺炎(RR7.00)、感染症(RR3.84)、内分泌疾患(RR3.80)、呼吸器疾患(RR3.75)、泌尿生殖器疾患(RR3.33)、糖尿病(RR3.16)、胃腸疾患(RR2.86)、神経疾患(RR2.35)、肝疾患(RR1.96)、がん(RR1.33)による死亡率が有意に高かった。
- 更に統合失調症の患者さんは一般人口と比較して、外傷・中毒(RR9.06)、原因不明の非自然原因(RR8.42)による死亡率が有意に高かった。
- 新規の統合失調症の患者さん・既往歴のある統合失調症の患者さんにおける抗精神薬の使用は非使用と比較して、全死亡率の低下と関係していた(RR0.71)
- 新規の統合失調症の患者さん・既往歴のある統合失調症の患者さんにおける抗精神薬の使用は非使用と比較して、自殺関連死亡率は関係なかった(RR0.73)
- 新規の統合失調症の患者さん・既往歴のある統合失調症の患者さんにおける抗精神薬の使用は非使用と比較して、自然死の低下と関係していた(RR0.76)
- 新規の統合失調症の患者さん・既往歴のある統合失調症の患者さんにおける年齢別の全死亡率は、40歳未満の患者の方が40歳以上の患者よりも有意に高かった(RR3.93)
先行研究同様、統合失調症の患者さんは全死亡率が高く、自殺が特に目立つ感じですね。また比較的若い方(40歳未満)の全死亡率が高いのも同様みたいです。
そして個人的に勉強になったのは新規(初期段階)での統合失調症の患者さんの全死亡率が7.4倍も高いこと。この結果から研究者も、
- 迅速かつ正確な診断を下して、続いて効果的な治療を開始することが極めて重要だ
としています。初期の診断の正確さと治療の開始がカギですね。
それともう一つポイントだったのが、新規の統合失調症の患者さん・既往歴のある統合失調症の患者さんの抗精神薬の使用は非使用と比べて全死亡率を下げると言うことです。
んで、上記には書いていませんが、それぞれの薬のどれが良いのかも調べてくれておりまして、ざっくりまとめると、
- 第二世代抗精神病薬(SGA)
- 第二世代抗精神病薬の長時間作用型注射剤(SGA-LAI)
- クロザピン(クロザリル)※但し適応があれば
は病気の全段階において一貫して長期に使用することで死亡率を低下できるそうです。
理由は心血管疾患による死亡を含む様々な死亡に対して予防効果があるからとのこと。またクロザピンは心血管代謝への副作用が高い抗精神病薬だけど、それでも全死亡率を減らすことができることを示したそうで、心血管代謝関係の死亡率の上昇は避けられないものの、全死亡率は減少できるみたいです。
一方で、第一世代抗精神病薬(FGA)は統合失調症における自殺関連の死亡率と自然死による死亡率を増加させていたらしく、研究者は、避ける必要があるとしています。
個人的考察
統合失調症では、早期診断、治療、しっかり服薬が死亡率を下げる要因となりそうでした。やっぱりお医者さんの指示通り、服薬はしっかりした方が良さそうですね。