この記事は、当事業所の社内研修で行いたかったが時間の都合上出来なかった内容を載せている物になります。
具体的には認知行動療法マップ(CBTマップ)の「認知行動療法の共通基盤マニュアル」を私なりにまとめたものです。
それでは続きをどうぞー。



スキーマ

スキーマ(schema)とは、自分、他者、自分を取り巻く世界に対して持っている考え方のパターン(思考の大枠、思考のクセ、鋳型、心の中のルールや法則)であり、その人の考えや行動に影響を与える情報処理の基本的なテンプレートのことを言う。例えば、「~しなければならない」、「~すべきだ」、「こういうものだろう」のように自分自身で思っていることがスキーマである。
ある出来事があるとスキーマにより、ネガティブな自動思考が起きる(下記画像参照)


スキーマは、その人の根底にある中核信念と、ある状況において生じる媒介信念に分ける事が出来る。

【中核信念(core belief)】
中核信念(core belief)とは、その人の広範に影響する、変容が難しい自己、他者、世界に関する考えのことを言う。中核信念は、大きく以下の3つに分けられる。

  1. 私は出来が悪い(helpless schema)
  2. 私は好かれ辛い(unlovable schema)
  3. 私は価値がない(worthless schema)

因みに中核信念を変える事はほぼ不可能だと考えられている。

【媒介信念(intermediate belief)】
媒介信念(intermediate belief)とは、比較的特定の状況における、条件つきのルール、構え、思い込みのことを言う。「もし~だったら」の形で表現される(if~then statements)。例えば、

  • いつも喜ばせていなければ、相手に拒絶されてしまう
  • 新しいことに手を出したら、自分は必ず失敗する

のように考えてしまう感じ。
媒介信念は中核信念に比べ変えられる可能性はあるものの難しい



スキーマを知る必要性と見つけ方(下向き矢印法)

スキーマはその人の認知や行動を理解する手掛かりになる。また、スキーマはその人の世界観に深く根差していて簡単には変えることが難しいため、治療の初期にはスキーマに近い認知を修正しようとしないなど、治療を進める上での手掛かりにもなる
スキーマを見つけるには、本人への聞き取りや自動思考パターンの把握、経歴の振り返りなどがある。また下向き矢印法を使う事も有効となる。下向き矢印法は特定の内容について次々質問し、深掘りしていく方法のことを言う。
例えば、

  1. 利用者:事業所でAさんは私には言わず、他の利用者と食事に行ったんです。
  2. 支援者:それはどういうことでしょうか…?もう少し教えていたただけますか…?
  3. 利用者:私だけ、食事に誘われなかったということです。
  4. 支援者:それはつらいですね…。〇〇さんだけ誘われなかったということは、あなたにとってどういうことを意味するのでしょうか…?
  5. 利用者:私がAさんに好かれていない、ってことです。
  6. 支援者:仮に、あなたがAさんに好かれていない、ということが事実だったとして、それは あなたにとってどういう意味をもっているのでしょうか…?
  7. 利用者:つまり、私は誰にも愛されない人間だってことです→スキーマ

下向き矢印法の用紙は以下の記事からダウンロードできる。




スキーマが見つかったら

スキーマが見つかったら、それを利用者と共有します。共有することにより、様々な場面での自動思考に気付きやすくなります。また、自動思考の内容が本当か客観的に見直しやすくなります(たとえば、自動思考が、スキーマに影響されて出てきた、事実に基づかないものである可能性を検討しやすくなる)
スキーマの修正は難しいので、それよりもマインドフルネスアクセプタンスの要素を取り入れた技法を行っていくのが良いと思う。
具体的には、


などがおすすめ。



スキーマ(中核信念・媒介信念)を考える・見つける・対策するトレーニング

最後にスキーマ(中核信念・媒介信念)を考える・見つける・対策するトレーニングとして事例を挙げておく。


事例①

Aさんの基本情報は下記となる。

  • 両親と妹、弟。祖父母健在。商売をしている父親は、男の子を望んでいた。
  • 長女である本人が生まれてガッカリした面はあるが、小さい頃から優秀であったことから期待が大きかった。
  • 両親の期待通りに勉学に励み、地元の高校を優秀な成績で卒業して国立大学へ進学した。成績はよく、友人関係も特に問題なかった。
  • 大学卒業後、電機メーカーに総合職として就職。現在までに数回異動はあったが、特に問題なく働いてきた。ずっと一人暮らしをしている。
  • 2か月前に健康機器部門に異動した。新しい分野でわからないことが多く、1か月前に上司から「わからないのなら早く言いなさい、それではだめだ」と言われ落胆した。

主な出来事と認知療法のABC分析(A出来事→B自動思考→C結果)は下記となる。

【出来事①】
  • A出来事:異動の際、前の上司から、現在の上司に「この子はできるよ」と紹介され、「期待しているよ」と言われた。
  • B自動思考:前の職場と同じことを求められても、自分には応えられない。新しい上司の期待にこたえられない。
  • C結果:不安により、勤務時間を越えて仕事をする。

【出来事②】
  • A出来事:仕事でわからないことについて、同僚の一人(一般職)に質問したら、わからないと言われた。
  • B自動思考:私は嫌われている。自分で解決しないといけない。
  • C結果:悲しみ、孤独感により他の人に相談せず、自分ひとりでこなそうとする。

【出来事③】
  • A出来事:産業医面談で精神科を紹介された。
  • B自動思考:精神科なんて情けない。自分がきちんとしていればこういうことにならなかったはずだ。
  • C結果:悲しい、恥ずかしいにより、家で一人でくよくよする。受診を躊躇する。

上記から考えられるスキーマは下記となる。
  • 優秀でなければ愛されない。
  • 常に相手の期待に応えなくてはならない。
  • 何でも自分でやらないといけない。

スキーマだと思われる理由は下記となる。
  • 幼少期、勉強や手伝いをすることで、両親にかわいがられ、「優秀でなければ愛されない」「常に相手の期待に応えなくてはならない」と考えるようになった。その考えは、本人の勤勉さや責任感の強さをもたらし、学校や前の職場での高い評価につながって来たが、「評価されること」に対する過敏さにもつながっている。
  • 異動の際に、上司から「できる人」「期待している」と言われたことが、本人の「常に相手の期待にこたえなければならない」という考えと結びつき、過度のプレッシャーにつながり、精神変調をきたすようになった。
  • 同世代の同僚がおらず、「自分ひとりで仕事を仕上げなくてはならない」という考えもあるので、周囲に相談できず、孤立感を深めている。
  • 未経験の仕事であるにもかかわらず、着任当初から「十分な実績を上げなければいけない」「仕事のことがよくわからない自分はだめだ」と考え、自信を喪失している。
  • 休みの日にも仕事のことを考えてしまい、楽しみの時間を持てなくなっている。

各対策例は下記となる。

【遅刻対策】
  • 適切な睡眠・生活に関する心理教育を行う(テキストを用いる)
  • 活動記録表を用いて、生活リズムを整える。
  • 薬物療法も考慮する、服薬管理を行う。

【仕事対策】
  • 問題解決技法を習得し、仕事を効率よくこなす方法を身につける。
  • アサーションを含む上手なコミュニケーション技術を身につけ、上司や先輩・同僚と上手にコミュニケーションをとり、手助けを得られるようにする。
  • コミュニケーションにおける非機能的な認知(無意味な考え)を同定し(気付き)、必要に応じて認知再構成を行う。

【自信対策】
  • うつ病の心理教育を行う(テキストを用いてもよい)
  • 認知再構成を用いて、自分を責める考え方への対処法を学ぶ。
  • 活動記録表や行動活性化の技法を用いて、小さくても達成できる事項を増やす。
  • 自信とは何かを学ぶ

【楽しみ対策】
  • 活動記録表や行動活性化の技法を用いて、楽しみの時間を持てるようにする。
  • 認知再構成を用いて、楽しむことを阻む考え方への対処法を学ぶ。


事例②

Bさんの基本情報は下記となる。

  • Bさんは二人兄妹。上に兄がいる。
  • 幼少期から真面目で物事には一生懸命取り組む。
  • 男子は良い学校に行って良い就職を、女子は家を守るもの、という考えの両親のもとで育った。
  • 高校卒業後、進学を考えたが、両親に反対されて進学を諦め、地元の銀行に事務職として就職した。
  • 22歳で職場の同僚と結婚して退職。24歳で長男出産。子供3人。長男は就職し独立。次男は他県の大学へ進学して一人暮らしをしている。長女は大学受験を控えた高校生。
  • 現在は、夫と長女と三人暮らし。
  • 他人から何か依頼されると断れず、無理をしてでも引き受けてしまう。
  • 人当たりがよく、友人が比較的多い。
  • 一年ほど前に近所に住んでいる母が体調を崩し、自宅と実家を行き来して世話をする生活となる。
  • 春から娘が受験生となり、介護と娘のサポートに追われる日々となった。
  • 半年前、母に呼ばれて急いで実家に向かう途中に過呼吸症状が出現した。内科を受診するが検査では異常なく、「ストレスのせい」といわれた。過呼吸症状は一度きりであったが、「また苦しくなったらどうしよう」という心配が消えず、必要最小限の買い物や実家に出向く以外は外出を控えて家で過ごすことが多くなった。また、眠りが浅く、疲れやすくなった。
  • 家事をこなすことが難しくなり、このままではいけないと思って精神科を受診した。主治医より服薬を勧められたが抵抗があり、カウンセリングを勧められ、認知行動療法の導入となった。

主な出来事と認知療法のABC分析(A出来事→B自動思考→C結果)は下記となる。

【出来事①】
  • A出来事:母の薬を取りに行った際、隣の店で必要なものを買うのを忘れた。
  • B自動思考:自分は頭も要領も悪い。こんな状態では、受験本番の際、きちんと娘の世話をしてあげられないのではないか。
  • C結果:落ち込み、がっかり、不安により、自分を責める。

【出来事②】
  • A出来事:友人にランチに誘われた。
  • B自動思考:出かけている間に母に呼び出されるかもしれない。そうしたら、友人に迷惑をかけてしまう。娘が勉強を頑張っているのに、私だけ楽しんではいけない。
  • C結果:不安、自責感、絶望感により、誘いを断ってしまう。

【出来事③】
  • A出来事:長女の成績が良くなかった。
  • B自動思考:私のサポートが足りないせいだ。もっと私が支えなければいけない。このままでは娘が受験に失敗してしまう。
  • C結果:何に手をつけたらよいかわからず、そわそわする。

上記から考えられるスキーマは下記となる。

  • 自分は要領がよくないので、いつもちゃんとやらなくてはいけない、手を抜いてはいけない。
  • 人に頼ってはいけない。
  • 家庭内のことはすべて妻が切り盛りするべきだ。
  • 常に、家族の要望に応えられるようになければいけない。

スキーマだと思われる理由は下記となる。

  • 自信がなく、自分の能力が低いという認識が根本にある。せめて家庭内のことをきちんとするのが自分の役目、という思いが強く、人に頼らず一人でこなそうとする傾向がある。過呼吸様発作を起こし、自身の健康面への不安が高まり、外出を含め活発に動くことへの恐怖感が生じるようになった。
  • 家事に加えて、受験生の娘の世話と母の介護がありオーバーワークになっている。家庭のことは自分一人でこなさなくてはならないという重いのが目に、夫に全く頼らず一人でこなそうとしてさらに過労になっている。娘の健康管理に緊張感を持つようになったのに加え、母の体調も芳しくなく呼び出される頻度が増え、常に気が張った状態である。オーバーワークと外出恐怖のために、友人との懇談や趣味の機会がなくなり、気分転換がさらに難しくなっている。

各対策例は下記となる。

【薬物療法】
  • 抗不安薬や睡眠薬により、過緊張を緩和し、睡眠を支援する。

【環境調整】
  • 夫と相談して家事を少し分担する。母の介護サービスを検討する。

【行動活性化】
  • 活動記録表をつけ、優先順位をつけて負担を減らし、楽しみの時間を持つようにする。

【自動思考記録表】
  • 自動思考記録表を用いた認知の修正と自己評価の回復を行い、頼ることへの罪悪感を軽減させる。



個人的考察

以上「スキーマ」でした。
次回は「アサーション(アサーティブ・コミュニケーション)」をご紹介します…!



参考文献