このシリーズも今回で一旦最後です。
それでは見ていきますかー。



親の精神疾患と子の大うつ病リスクについて

2025年のトゥルク大学の研究によると、親の精神疾患と子の大うつ病リスクについて調べてみたそうです。
大うつ病は一般的な精神疾患であり、その生涯有病率は15~18%と推定されております。また遺伝率は40%とのことです。そして発症には、遺伝要因と環境要因の相互作用によって引き起こされると言われております。
そんな大うつ病ですが、先行研究により強い家族性がみられております。但し、研究者によれば、親の精神疾患について、たくさんの種類を挙げつつ、子どもの大うつ病との関連性をチェックしたものはこれまでなかったそうな。また、親の精神疾患が子どもの発達段階によってどのように影響するかもほとんど分かっていなかったらしい。
更に出生前に親が精神疾患を診断されていたかもチェックすることで、逆因果関係によるバイアスを防ぐことができる可能性があったそうな。因みに逆因果関係ってのは子どもの結果が親の精神疾患に及ぼす影響のことであり、こちらもこれまでの研究ではほとんど取り上げられてこなかったみたい。
そのため、今回は以上を踏まえた形で調べてみることにしたんだとか。
この研究は、フィンランドの国家登録簿(CRHC)を使用したもので、対象となった人達は、1987年1月から2007年12月の間にフィンランドで生まれたすべての子ども達1,240,062人となっております。
この中から、大うつ病になった子どもと対象グループとなる子どもをピックアップしていったらしい。すると、

  1. 大うつ病の子ども:37,677人
  2. 対照グループの子ども:145,068人

となったそうです。
次にこの子ども達の親の精神疾患についての情報を入手、更に両親の最初の精神疾患の診断のタイミング(子どもが生まれる前・生まれた後)もチェックしたんだとか。
最後に集まったデータを統計処理してその傾向を見てみたそうです。
んでまず大うつ病の子ども達の情報なんですが、以下のようになっておりました。

  • 大うつ病診断時の平均年齢:16.23歳(範囲5~25歳)
  • 男女比:65.52%が女の子だった。
  • 両親ともに精神疾患と診断された子どもの割合:12.43%
  • 母親のみ、精神疾患と診断された子どもの割合:21.72%
  • 父親のみ、精神疾患と診断された子どもの割合:15.99%

続いて親の精神疾患診断と子の大うつ病の関係を見てみます。

  • 両親ともに精神疾患を持つ場合の子どもの大うつ病リスク:OR4.50
  • 母親のみ精神疾患を持つ場合の子どもの大うつ病リスク:OR2.66
  • 父親のみ精神疾患を持つ場合の子どもの大うつ病リスク:OR1.95

つまり、両親ともに精神疾患を持つ場合の子どもの大うつ病リスクが最も高く、また、母親の方が父親よりも影響が強かったってことですね。
次に男の子と女の子で違いがあるのかですが、両親とも・母親のみ・父親のみの全ての場合に於いて、

  • 男の子の方が女の子よりも大うつ病リスクが高かった

とのこと。
つまり、親が精神疾患を持っていた場合、うつ病になりやすいのは男の子の方が高いと…。
続いて精神疾患別の影響を見てみます。
まずは大きな結論なんですが、

  • 母親と父親における全ての精神疾患カテゴリーで、子どもの大うつ病リスクが増加していた

とのこと。
因みに精神疾患のカテゴリーは、統合失調症および統合失調感情障害、その他の精神病、双極性障害、単極性うつ病およびその他の気分障害、不安障害、強迫性障害のない不安障害、強迫性障害、摂食障害、パーソナリティ障害、アルコールや薬物依存症・乱用、ADHD、ASD(自閉症スペクトラム障害)、素行症、限局性学習症(LCD、旧学習障害:LD)、知的障害って感じで、主要な精神障がいから発達障がい、知的障がいと多岐にわたっておりました。
んで父母による違いの上位トップ3は以下な感じとのこと。

【母親の診断】
  1. 統合失調症・統合失調感情障害:OR2.51
  2. 単極性うつ病:OR2.19
  3. ASD:OR1.92


【父親の診断】
  1. 統合失調症・統合失調感情障害:OR2.0
  2. 素行症:OR1.90
  3. 単極性うつ病:OR1.57

これらの診断を受けていると、子どもの大うつ病リスクは特に高かったみたい。
次は、両親が何らかの精神疾患診断を受けている場合、子どもの年齢で大うつ病発症リスクが違うのかの結果です。

  • 5~12歳:OR7.66
  • 13~18歳:OR4.13
  • 19~25歳:OR3.37

つまり、子どもはより幼い時に大うつ病を発症することが多いようです。因みに男の子・女の子別に見ても同様の結果だったらしい。
続いて子どもが生まれる前に精神疾患の診断を受けた場合の子どもの大うつ病リスクの結果です。

  • 子どもが生まれる前に母親が精神疾患の診断を受けていた場合:OR2.31
  • 子どもが生まれる前に父親が精神疾患の診断を受けていた場合:OR1.89
  • 子どもが生まれる前に両親が精神疾患の診断を受けていた場合:OR3.50

つまり、子どもが生まれる前に精神疾患の診断を受けた場合、子どもの大うつ病リスクは高まる感じですね。
もうちょい情報を見てみると、

  • 子どもが生まれる前に両親・母親のみ・父親のみが精神疾患と診断された場合、子どもの全年齢層において、大うつ病リスクが有意に高かった
  • 5~12歳で初めて診断された年齢層は、13~18歳・19~25歳よりも高かった

とのこと。
ということで色々書いてきましたが、まとめると、

  • 母親と父親、両親の精神疾患診断は、子どもの大うつ病と関係があった(生まれる前の診断を含む)
  • 母親の方が父親よりも影響が強かった
  • 男の子の方が女の子よりも大うつ病リスクが高かった
  • 親の精神疾患カテゴリーに関わらず、子どもの大うつ病と関係があった
  • 親の精神疾患は、大うつ病の早期発症とより強く関係があった

のようになりましょう。
この結果に研究者曰く、

  • 本研究は子どもの大うつ病が、これまで知られていたよりも、もっと広範囲の親の精神疾患と関連があることを示している

としています。



個人的考察

大うつ病の発症は、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合い、相互作用によって発症しているのがこれらを見ても分かりますね。



参考文献