今回は、うつ病を持つ親の子どもにおける発達障害リスクについて調べた2024年の台北栄民総医院の研究を見てみます。



うつ病を持つ親の子どもにおける発達障害リスク

2024年の台北栄民総医院の研究によると、うつ病を持つ親の子どもにおける発達障害リスクについて調べてみたそうです。
先行研究では、うつ病を持つ親と子どもの発達障害リスクは関係性がありそうと出ておりました。但し、

  • 親がうつ病になると、子どもの発達障害リスクが高まるのか…?
  • 子どもが発達障がいを持っていると、親のうつ病リスクが高まるのか…?

っていう、因果関係はよく分かっていなかったんですな。
そこで今回チェックしてみることにしたとのこと。
この研究は「精神障がいの方の平均寿命は本当に短いのか?」など、当ブログで何度も登場している台湾国民健康保険データベース(NHIRD)を使ったと言うもの。余談ですが、台湾はここ数年、NHIRDを使ってあらゆる障害リスクを調べていて本当に勉強になります。
…話を戻しまして、このNHIRDってデータセットを使って、まずは1996年から2010年の間に生まれた子どもの中から、親が精神科医によるうつ病と診断された人をピックアップしていったそうな。またこの際、重複障害(統合失調症や双極性障害など他の主要な精神疾患)を持つ親は除外したらしい。
すると、

  1. 重度のうつ病を持つ親の子ども:7,593人
  2. 重度の精神疾患を持たない親の子ども(対象グループ):75,930人

の2グループを作る事が出来たんだとか。
次に1996年又は出生時から2011年末までこの2グループを追跡調査してみたそう。最後に集まったデータを統計処理したとのこと。
それでは結果です。

  • 発達障害名:重度のうつ病を持つ親の子ども:重度の精神疾患を持たない親の子ども
  • 自閉スペクトラム症:0.9%:0.5%
  • 注意欠陥多動性障害:6.5%:3.2%
  • チック症(思わず起こる素早い体の動き・声):0.9%:0.6%
  • あらゆる発達の遅れ(知的障害など):6.2%:4.4%

つまりあらゆる発達障害の発症率が高かったってことですね。
また、

  • 早産・低出生体重:3.3%:2.6%
  • 呼吸問題:3.6%:3.0%
  • 新生児黄疸:8.5%:7.5%

も高かったみたい。
続いて比較したリスク(ハザード比:HR)を見てみます。
重度のうつ病を持つ親の子どもは、重度の精神疾患を持たない親の子どもに比べて、

  • 自閉スペクトラム症:1.52倍
  • 注意欠陥多動性障害:1.98倍
  • チック症:1.40倍
  • あらゆる発達の遅れ:1.32倍
  • 発達性言語障害:1.17倍
  • 発達性協調運動障害(神経疾患や練習不足じゃないのに運動スキルの獲得・使用が困難で学校生活や遊び、日常生活活動に支障が出る状態):1.76倍
  • 知的障害:1.26倍

となっておりました。
では、因果関係はどうなのか…?ってことで、見てみたところ、出生前から親がうつ病を持っていた子どもは、そうでない子どもに比べて、

  • 自閉スペクトラム症:1.76倍
  • 注意欠陥多動性障害:1.95倍
  • チック症:1.52倍
  • あらゆる発達の遅れ:1.40倍
  • 発達性言語障害:1.29倍
  • 発達性協調運動障害:1.73倍

といった感じで診断リスクが高かったみたい。
一方で、出生後の親のうつ病は、子どもの

  • 注意欠陥多動性障害:2.00倍
  • あらゆる発達の遅れ:1.24倍
  • 発達性協調運動障害:1.78倍

しか関係がなかったんだとか。
因みに早産又は低出生体重と、

  • 注意欠陥多動性障害:1.35倍
  • あらゆる発達の遅れ:1.75〜2.38倍
  • 知的障害:2.18倍
  • 新生児黄疸と自閉スペクトラム症:1.39倍
  • 新生児黄疸と注意欠陥多動性障害:1.21倍

と関係があったようです。
ということでこの結果を踏まえてまとめてみると、

  • 親のうつ病は、子どもの発達障害と関係があり、特に注意欠陥多動性障害(ADHD)リスクが最も高かった(2倍)
  • 出生前の親のうつ病は、出生後の親のうつ病と比較して、子どもの発達障害と関係があった
  • 出生後の親のうつ病は、子どもの注意欠陥多動性障害と発達性協調運動障害のみ関係があった
  • つまり、うつ病を持つ親と子どもの発達障害リスクは、遺伝的要因(遺伝要因)の可能性が高そう
  • そのため、因果関係は、親→子どもの流れっぽい

となりましょう。
この結果から研究者は、うつ病の親を持つ子どもの発達状態を綿密にモニタリングする必要がある、としています。



個人的考察

こういった細かい事を調べる研究の積み重ねで徐々に見えてきているところがありますよね。



参考文献