アレ…?先週で「非常に難しい障がいである「境界性パーソナリティ障害」とその代表的な治療法である「弁証法的行動療法(DBT)」について学んでおきますかー」シリーズは終わったんじゃないの…?って思った方はいるかと思います。はい、境界性パーソナリティ障害と弁証法的行動療法との関係のお話は終わりました。
んがしかし、まだ皆さんに見てもらいたい研究がありまして、それが、

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)+境界性パーソナリティ障害に弁証法的行動療法(DBT)は有効なのか…?

ってのを調べた研究です。
そのため今回は番外編として見てみたいと思います。



PTSD(心的外傷後ストレス障害)+境界性パーソナリティ障害に弁証法的行動療法(DBT)は有効なのか…?

2024年のウィーン医科大学の研究によると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)+境界性パーソナリティ障害の方に弁証法的行動療法(DBT)は有効なのか系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
そもそも心的外傷後ストレス障害(PTSD)ってのは、戦争や性的暴行、大けがなど、トラウマになるような出来事・苦痛を詳細まで覚えており、それらを直接体験したり、見たり、繰り返し思い出したりして発症する精神疾患であります。そして各国における生涯有病率は3.9%とのことです。
んでPTSDは、介入が成功しないと慢性化するケースが多いらしく、その結果、


なんかの精神疾患を併存したり、症状が出たりすることも多いみたい。
特に境界性パーソナリティ障害との併存性(併存リスク・二次障害・併存疾患・重複障害)はかなり高く、

  • 境界性パーソナリティ障害患者の30~79%がPTSDの基準を満たしている
  • PTSD患者の22~24%が境界性パーソナリティ障害の基準を満たしている

って感じなんだとか。かなり関係が深いと言えますね。
んで、PTSDの治療法としては、エビデンスに基づく心理療法が一般的となっております。具体的には、エクスポージャー(暴露療法)を使った介入がPTSDの症状軽減に効果的とのこと。
但し、ここで難しいのが境界性パーソナリティ障害を併発している場合です。そもそもエクスポージャー(暴露療法)を含むPTSDの心理療法は、PTSDに効くよう設計していますんで、境界性パーソナリティ障害の治療に効くかはあやしいんですよ。
むしろ、境界性パーソナリティ障害は、激しく不安定な対人関係・感情、自傷行為、自殺行為、希死念慮がありますんで、トラウマに焦点を当てた治療は逆効果になる可能性が高いんですな。
対して、境界性パーソナリティ障害の治療に効果的なのは弁証法的行動療法(DBT)となります。しかしこちらもPTSDがあると、弁証法的行動療法の効果が低下し、自傷行為の軽減も少なくなる傾向があると出ているんですよね。
こんな感じで、重複障害を持つ場合、片方の障害に有効な治療法でも、もう片方の障害によって効果が軽減したり、なくなったり、逆効果になるパターンがあります。非常に難しい問題ですよね。
そこでPTSD+境界性パーソナリティ障害の方への新たなアプローチとして近年注目されているのが、

  1. DBT-PTSD:PTSDに対する弁証法的行動療法
  2. DBT PE:弁証法的行動療法長期曝露

の2つです。
これらはPTSD+境界性パーソナリティ障害の方への有効な治療法なんですよ。
まずDBT-PTSDなんですが、これは、認知行動療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、コンパッションフォーカストセラピーのテクニックを取り入れた弁証法的行動療法です。なんでも元々は小児期の性的虐待に関連したPTSDや感情調節障害のある人を対象とした12週間の専門的プログラムとして開発されたそうなんですが、その後、外来診療で使用できるよう改良され、プログラムを最長15か月にまで延長したそうな。
次にDBT PEなんですが、これは、PTSD+境界性パーソナリティ障害の方専用に特別に開発されたものでして、なんでも長期曝露と継続的な弁証法的行動療法を組み合わせてニーズに合わせたテクニックを一つにしたものなんだとか。DBT PEは通常1年以上の外来治療が一般的みたいなんですが、12週間の短期治療も実施されているとのこと。
因みにPEは、PTSDに対する非常に効果的でエビデンスに基づいたトラウマ治療プログラムらしく、個人を体系的かつ徐々に生体内・感覚的にトラウマ関連刺激に直面させることにより、トラウマ体験の感情的処理を強化するんだとか。なんだか難しい言い回しですが、要はすこ~~~しずつトラウマになっている刺激に向き合ってもらい、慣れてもらおう…!って感じです。
んがしかし、これらが良さそうな雰囲気はあるものの、その効果をチェックした包括的な分析は不足しているそうな。そこで今回、系統的レビューとメタ分析を行ってみることにしたそうです。
まず研究者たちは、2023年9月までに発表された該当研究をSCOPUS、PubMed、コクランで検索してみたそうな。すると合計253件の研究がヒットしたとのこと。また、その他の方法で2件研究を見つけられたんだとか。
次にこの中で被っている研究を除外、その後、基準に従い各研究の質をチェックしていったらしい。最終的に選ばれた研究は13件でして、総サンプル数は663人ということでした。
それではメタ分析の結果を見ていきましょう…!

【PTSD症状の重症度に対する効果】
  • 全体的な結果:重症度g=-0.69
  • DBT-PTSDの効果:重症度g=-0.67
  • DBT PEの効果:g=-0.80

【境界性パーソナリティ障害の症状に対する効果】
  • 全体的な結果:重症度g=-0.61
  • DBT-PTSDの効果:重症度g=-0.32
  • DBT PEの効果:g=-1.73

【抑うつ症状に対する効果】
  • 全体的な結果:重症度g=-0.62
  • DBT-PTSDの効果:重症度g=-0.57
  • DBT PEの効果:g=-1.03

【解離症状に対する効果】
  • 全体的な結果:重症度g=-0.17(有意ではない)
  • DBT-PTSDの効果:重症度g=-0.10
  • DBT PEの効果:g=-0.38
  • 全体的な結果(前後の変化):g=-0.72

【非自殺的自傷行為(NSSI)の頻度に対する効果】
  • 全体的な結果:重症度g=-0.91
  • 全体的な結果(前後の変化):g=-0.70

なんだか色々書きましたが、ポイントは、

  • DBT-PTSDとDBT PEの両方の介入は、対照介入と比較して、PTSDの重症度とうつ病軽減に中程度の効果がある…!

ってところです。
いや~素晴らしいですな~。
この結果に研究者曰く、

  • 私たちの研究結果は、PTSDに特化した弁証法的行動療法がPTSD症状とうつ病症状を同時に改善する可能性を浮き彫りにした

としています。
特化した専用の弁証法的行動療法なら、効果的に治療が出来そうですね…!



個人的考察

上記に限らず重複障害の場合、その両方の障害に対して治療しなければいけないので介入が難しいのが実情です。パターンも多い為、全て特化した専用の治療法を作るのは難しいかもしれませんが、認知行動療法をベースに色々工夫していくと良さげかもしれないな~と思いました。日々の支援でやっていきたいですね~。



参考文献