精神障がいの方の平均寿命は本当に短いのか?」の続きです。
今回ご紹介するのは、精神障がいが平均寿命を下げている要因を探った研究です。具体的には、社会経済的地位(SEP)が原因なんじゃないか説を調べたものになります。
それでは早速見てみましょう。



精神障がいと死亡リスクにおける社会経済的地位(SEP・社会的経済的地位)との関係性

2024年のオーフス大学の研究によると、精神障がいと死亡リスクにおける社会経済的地位(SEP・社会的経済的地位)との関係性について系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
そもそも今まで見てきたとおり、残念ながら精神障がいを持つ方は一般人口よりも早期死亡リスクが高く、平均寿命も短い傾向にあります。一方で社会経済的地位が低い場合も死亡率が高く、平均寿命も短い可能性があるんですよね。
そして先行研究により、社会経済的地位が低いと精神障がいの発症リスクが高くなる事も分かっているんですな。
具体的な研究を挙げていきますと、


って感じです。
んがしかし、ここまで傍証はそろっているものの、精神障がいと死亡リスクにおける社会経済的地位の関係を直接調べた系統的レビューとメタ分析はなかったそうな。そこで今回研究者たちはチェックしてみることにしたらしい。
まず最初に1980年1月1日から2023年4月3日までに発表された該当研究をMEDLINE、PsycINFO、Embase、Web of Scienceで検索してみたそうです。更にGoogle ScholarとWeb of Scienceの検索にヒットした研究の参考文献・引用文献もチェックしたとのこと。すると全部で28,415件もの研究が見つかったんだとか。次にこの中で被っている物を除外、更に基準に従って質の低い物も除外していったそうで、最終的に71件の研究に絞り込んだとのこと。
では結果の前にこの71件の研究の特徴を見ておきましょう。

  • 総サンプル数:400万人以上。
  • 研究の地域:56件(79%)が高所得国だった。主に北欧(26件・37%)とイギリス(11件・15%)の研究だった。
  • 研究デザイン:51件(72%)はコホート研究だった。20件(28%)は症例対照研究だった。
  • 追跡期間:41件(58%)が10年を超えていた。

それでは結果を見てみますかー。

  • 社会経済的地位レベルによる精神障がいと死亡率の関係は、ほぼ全てのリスク比(RR)で1より大きかった。つまり精神障がいを持つ方の死亡率は社会経済的地位レベルに関係なく高かった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の全死亡率はRR2.23だった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の自然死以外の死亡率はRR8.02だった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の自然死の死亡率はRR2.56だった。
  • 最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の全死亡率はRR2.17だった。
  • 最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の自然死以外の死亡率はRR5.16だった。
  • 最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方の自然死の死亡率はRR2.07だった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの統合失調症を持つ方の全死亡率はRR4.03だった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルのうつ病を持つ方の全死亡率はRR1.78だった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルのアルコール依存症を持つ方の全死亡率はRR1.72だった。
  • 但しいずれも最も低い社会経済的地位レベルの方と各障がいの間に明確な差はなかった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方は、最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方に比べて、全死亡率が21%(RR0.79)も低かった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方は、最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方に比べて、自然死の死亡率が27%(RR0.73)も低かった。
  • 最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方は、最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方に比べて、自然死以外の死亡率が18%(RR1.18)も高かった。
  • つまり最も高い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方は、最も低い社会経済的地位レベルの精神障がいを持つ方に比べて、全死亡率、自然死による死亡率は低かったが、自然死以外の死亡率は高かった。

なんか予想とちょっと違う結果になっていますねー。
まとめると、

  • 精神障がいは確かに死亡率を上げていた
  • 但し社会経済的地位レベルは関係なかった
  • 詳しく見てみると、社会経済的地位レベルが高い方が全死亡率、自然死による死亡率は低くなりそうだった
  • 但し社会経済的地位レベルが高い方が自然死以外の死亡率は高くなりそうだった

のような形となります。



個人的考察

もしかしたら、社会経済的地位が高い方は自殺などが多く、社会経済的地位が低い方は精神障がいによる心血管疾患の発症など他の健康リスクが基で亡くなるケースが多いのかな~と愚考しておりました。



参考文献