今回は、弁証法的行動療法(DBT)の効果を長期的に調べた研究を見てみましょう。



境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)と一般精神科治療の効果について3年間(治療1年、退院後2年)の追跡調査を行ってみた…!

2012年のトロント大学依存症・メンタルヘルスセンター(camh)の研究によると、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)と一般精神科治療の効果について3年間(治療1年、退院後2年)の追跡調査を行ってみたそうです。
そもそも境界性パーソナリティ障害に対する認知行動療法やその他の治療が良いのは分かりつつあるものの、長期的な効果を調べた研究は少なかったりします(1年未満の物がほとんど)。また、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法の効果を調べたものも追跡期間が1年以下ばっかなんですよね。
そこで以前に行われたのが2009年のトロント大学依存症・メンタルヘルスセンター(camh)のRCTになります。この研究は、2003年から2006年にかけて行われたもので180名を対象にしております。この方々は、平均年齢30.4歳、女性の割合86.1%、3分の2(65.0%)が失業中、大学に行ったことがある人は42.2%となっておりまして、ランダムに以下の2グループに分けて治療を行ったんですな。

  1. 弁証法的行動療法グループ:90名
  2. 一般精神科治療グループ:90名

それぞれのグループで1年間の治療を行ったそうです。治療後(=退院後)、更に1年間様子を見てみたんだとか。つまり、合計で2年間の追跡調査を行ったってことですね。
その結果、

  • 両グループの参加者は、自殺・非自殺の自傷行為、医療の利用(救急外来の受診、入院日数、向精神薬の使用)、症状悪化(苦痛、抑うつ、対人関係問題、怒りなど)が有意に改善した…!
  • 両グループ間で臨床結果に差はなかった…!

とのこと。
一般的な治療(薬物治療)と同程度の効果が弁証法的行動療法にあったってのはすごいですね~。
んで、本研究では、この効果が治療2年後(つまりスタート時から見て3年後)でも継続するのかチェックしてみたそうです。フォローアップは全部で4回行われたそうで、治療開始から見て18ヶ月後、24ヶ月後、30ヶ月後、36ヶ月後にチェックしたんだとか。
4回のフォローアップ評価、全てを終えられたのは87名(48%)だったそうなんですが、これらのデータを統計処理した結果、以下のことが分かったそうです。

  • 両グループとも、退院後2年間の中で、ほとんどの項目に於いて同等かつ有意に改善していた…!
  • 自殺・非自殺の自傷行為を含むいくつかの項目においても、当初の治療効果が弱まっていなかった…!
  • 抑うつ、対人関係問題、怒りについては更に改善していた…!
  • 退院後2年間の中での寛解率は62%だった…!

1年間、入院して弁証法的行動療法か一般精神科治療をしっかり受けると、その効果は2年後まで続いているんですねー。素晴らしい…!
但し、注意点もございまして、

  • 寛解率は3分の2(62%)であり、生活の質も有意に向上したが、にもかかわらず、36ヶ月後でも53%の方は就労も就学もできず、また、39%の方は障害年金を受給していた

とのこと。
境界性パーソナリティ障害の症状は改善しているものの、社会への復帰まで行けたのは半分ぐらいの人たちみたいですね。



個人的考察

ということで、1年間弁証法的行動療法を行えば、その後2年間症状が改善しそうな感じ。治療の難しい境界性パーソナリティ障害でこれだけ効果があるのは素晴らしいと言えましょう。



参考文献