前回、SSRIとSNRIってなに…?って話をご紹介しました。
今回はこれらの基になっているセロトニン仮説をガッツリ調べた研究をご紹介します。



セロトニン仮説(カテコールアミン仮説・モノアミン仮説)ってなに…?

前回の最後の方でチラッと書きましたが、セロトニン仮説(カテコールアミン仮説・モノアミン仮説)とは、うつ病はセロトニンの活性又は濃度の低下によって起こっているという仮説のことを言います。分かりやすく言うと、うつ病は脳内のセロトニンが足りないから起こるのだ…!っていう説のことですね。
んで、そもそもカテコールアミン仮説やセロトニン仮説は、1960年代に生まれたもので、1965年の研究1967年の研究がその始まりだとされています。そしてこの仮説を基に様々な研究がなされ、1990年代にSSRIが登場、一気に抗うつ薬が普及していきます。
今なお支持されるこのセロトニン仮説ですが、ここ最近あやしいんじゃないか…?という研究がいくつか出てきております(2019年のコペンハーゲン大学病院の研究など)
とはいえ大多数の研究者が支持しているのも事実…。
…ってことで、半世紀以上前に登場したセロトニン仮説を支持する派と支持しない派がいるのが現状です。また薬と併用、又は薬に頼らない方法も模索されておりまして、認知行動療法なんかがその代表例であったりもします。



セロトニン仮説をガッツリ調べてみた…!

そして今回、このセロトニン仮説をガッツリ調べた研究が発表されました。
2022年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究によると、セロトニン仮説は今でも結構支持されているけど、本当にうつ病が脳内のセロトニン濃度や活動量の低下と関連しているのかをアンブレラレビューで調べてみよう…!となったそうです。
アンブレラレビューとは、過去のメタ分析を統合して大きな結論を出すというもので、かな~り質の高い研究となっております。
まず研究者たちは、該当する研究を探すためPubMedやEmbase、PsycINFOを用いて2020年12月までに発表されているものを検索したそうな。結果361件の論文がヒットしたそうで、更にその中から基準を満たす17件の研究をピックアップしたとのこと。
因みに研究の内訳は、

  • 系統的レビュー・メタ分析:12件
  • 共同メタ分析:1件
  • 大規模なコホート研究のメタ分析:1件
  • 系統的レビュー・ナラティブシンセシス:1件
  • 遺伝子関連研究1件
  • アンブレラレビュー:1件

って感じだったそうです。
んで、気になる結果が、

  • セロトニン代謝産物(5-HIAA)を調べた2つのメタ分析(サンプル数1,002人)では、うつ病との関係性は見当たらなかった…!
  • 血中のセロトニン量を調べた1つの大規模なコホート研究のメタ分析(サンプル数1,869人)では、うつ病との関係性は見当たらなかった…!また、セロトニン濃度の低下が抗うつ薬の使用と関係していた…!
  • セロトニン受容体を調べた2つのメタ分析(サンプル数最大561人)とセロトニントランスポーターとの結合を調べた3つのメタ分析(サンプル数最大1,845人)では、結合が減少するかも…?という微妙で一貫性のない証拠しかなかった…!(うつ病患者のセロトニンシナプスの利用度が増したことと一致するが、抗うつ薬使用の影響は確実に除外できなかったので詳しくは不明とのこと)
  • トリプトファン不足(セロトニンはトリプトファンから作られる)を調べた1つのメタ分析では、基本的に健康な566人を対象とした場合、効果が見られなかったが、うつ病の家族歴を持つ75人の場合、小さい効果があったという証拠があった。342人を対象とした系統的レビューとその後の10件のサンプル(407人)では効果が見られなかった…!
  • 2007年以降、トリプトファン不足の系統的レビューは発表されていなかった。
  • セロトニントランスポーター遺伝子に関する最大で最高品質の2つの研究・1つの遺伝子関連研究(サンプル数115,257人)と、1つの共同メタ分析(サンプル数43,165人)では、うつ病との関係、遺伝子型、ストレス、うつ病間の相互作用を示す証拠が見つからなかった…!

だったみたい。
つまり、何が言えるのかというと、

  • 様々なセロトニン研究の分野でセロトニンとうつ病との間に関係性があるという一貫した証拠はなかった…!
  • うつ病のセロトニン仮説の証拠はなかった…!
  • それどころか、抗うつ薬を長期で使用することにより、セロトニン濃度が低下してしまう恐れがあるという証拠があった…!

って感じ。
う~ん…。ここまではっきり結果が出てしまうと、うつ病のセロトニン仮説はかな~りあやしい感じですねー。



個人的考察

今回のアンブレラレビューの結果はセロトニン仮説支持派にはなかなか辛い結果となりました。当ブログで以前プラセボ効果によって服薬する薬の効果が3倍変わるって研究をご紹介しましたが、プラセボなどの変数があったりしてなかなか難しい分野みたいですね。
うつ病と腸内細菌・腸内環境は深く関係がありそうだったり、慢性炎症との関係もありそうなんで、もしかしたら、うつ病ってのはいろんな要素が複雑に絡み合って出た結果なのかもしれないな~と思いました。
自閉症・アスペルガー症候群が自閉スペクトラム症と呼ばれるようになったように、うつ病などの精神疾患もスペクトラムなのかな~とか愚考しております。



参考文献