最近はあまり見かけなくなったんですが、一昔前、ジムに行くとコンプレッションウェアやコンプレッションタイツを着用している方が大勢おりました。
厳密には違うのかもしれませんが加圧シャツと言われるものもこれに類するものでして、これらは体にフィットする素材(主に水着で使われるような素材)を用いて作られており、結果、

  • 運動パフォーマンスがアップする…!
  • 筋肉の回復スピードがアップする…!
  • 痩せる…!
  • 姿勢が良くなる…!

などといったメリットがあるなんて話がございます。
でもこれって本当か…?ってことで早速研究を見ていきましょう…!



コンプレッションウェアは運動パフォーマンスと運動後の回復に役立つのかレビューしてみた…!

2013年のヴッパータール大学レビュー論文によると、コンプレッションウェアは運動パフォーマンスと運動後の回復に役立つのか先行研究を見直ししてみたそうです。
まず研究者たちは、2011年7月にPubMedやMEDLINE、SPORTDiscus、Web of Scienceといったデータベースを用いて、該当する先行研究を検索してみたそうです。
またその際に査読済み論文であることもチェックしつつ、最終的には30件の研究がピックアップできたらしい。
これらからコンプレッションウェアが、

  • 持久力にどう影響するのか…?
  • 筋力にどう影響するのか…?
  • 運動中や運動後の回復にどう影響するのか…?

なんかをスケールを用いつつチェックしたそうです。
結果は、

  • 運動パフォーマンスにおいては、10~60m程の短距離走、垂直ジャンプの高さ、心肺機能には小さな効果があった…!
  • 運動後の回復においては、特に垂直ジャンプなど、最大筋力と最大パワーの回復において小~中程度の効果があった…!
  • 他にも筋肉疲労や筋肉痛、血中乳酸の減少、体温の上昇が確認された…!

って感じ。
どうやら短時間でより大きな力を使うスポーツだと効果を発揮しやすいみたいですね。
まぁ、それでも効果量が小~中ってことなんで、微妙な感じですが…。



コンプレッションウェアを使っても筋肉の血流量はアップしないしエネルギーの輸送スピードも上がらないしグルコースの取り込みもアップしない…!

2013年のヴッパータール大学の研究によると、コンプレッションウェアが血流をアップさせたり、グルコースの取り込みを増加させたりするのか調べてみたそうです。
そもそも骨格筋の血流ってのは、筋肉の老廃物やエネルギーを運ぶだけじゃなく、代謝にも重要でして、運動の開始時から運動中に上がることが分かっております。因みに運動開始から約30秒で増加していくみたいです。また運動の回復にはグリコーゲンを使います。
一方コンプレッションウェアは、

  1. パフォーマンスをアップさせる…!
  2. 筋肉回復スピードをアップさせる…!

と言われております。
ということは、コンプレッションウェアを着ることで、筋肉の血流やグルコースの取り込みがアップしているかもしれないってことですよね。ということで今回ここんところを調べてみたそうな。
実験は健康な男性6名(平均体重72±4kg、平均身長181±7cm、平均年齢22±2歳、VO2max54±6)を対象に以下の手順で運動をしてもらったそうな。

  1. 10分間のウォームアップ
  2. 限界まで高強度でエアロバイクを漕ぐ
  3. 1分間の休憩
  4. VO2maxの75%でエアロバイクを漕ぐ

併せて、実験開始・終了時に筋肉の血流量とグルコース取込量の測定を太ももの筋肉を使ってチェックしたらしい。因みに上記からも分かる通りコンプレッションウェアはレギンスタイプの物を使ったみたい。
最後に集まったデータを統計処理した結果がこちら。

  • スタート時(運動をしていない状態)でコンプレッションウェアを着用しても血流量は変わっていなかった…。
  • 運動後の回復時、筋肉の血流量は、太もものある部位ではコンプレッションウェア着用の場合(3.16)もそのままの場合(3.94)もスタート時と比べてアップしていた。但し、太ももの別の部位では両方とも変わらなかった…。
  • 運動後の回復時、筋肉の血流量をコンプレッションウェア有り無しで比べてみたが、低下又はあんま変わらなかった…。
  • スタート時及び回復時のコンプレッションウェア有り無しで比べてみたが、血流量に違いはなかった…。

つまり、コンプレッションウェアを使っても筋肉の血流量はアップしないし、そのため、エネルギーの輸送スピードが上がる訳でもグルコースの取り込みがアップする訳でもなかったってことですね。



長距離ランナーがコンプレッションウェアを使っても意味なし…!

2015年のインディアナ大学の研究によると、長距離ランナーがコンプレッションウェアを使った場合、ランニングパフォーマンスがアップするのか調べてみたそうです。
この研究は男性の長距離ランナー16名が参加したもので、以下の2つの方法で走ってもらったそうな。

  1. 下半身用コンプレッションウェア(コンプレッションタイツ)を履いて走る
  2. 普通に走る

ランニングはラボ内で行われておりまして、トレッドミルで233m/分、268m/分、300m/分の3パターンで走ってもらいつつ、酸素の消費量などを測定したんだとか。
その結果、

  • どの速度でもコンプレッションウェアを着けようが着けまいが酸素の消費量に違いはなかった…。
  • 最高速度以下のランニングのエネルギーも変化がなかった…。

とのこと。
つまり、コンプレッションウェアは意味なしって結論ですね。但し個人差が結構大きかったらしいんで、まだまだ望みはあるとのことでした。
確かに駅伝とかでコンプレッションウェアを身に付けている人は見ませんよね…。やはりそんな上手い話はないのかもしれませんな。



コンプレッションウェアは疲れを感じにくくする効果がちょっとだけある…!

2016年のカールスルーエ工科大学の研究によると、ランニングをするときコンプレッションウェアを着た方が良いのか調べてみたそうです。
今まで見てきたとおり、コンプレッションウェアのパフォーマンス研究って矛盾した結果が出ており、本当のところはよく分からなかったんですよ。そこで研究者たちはコンプレッションウェアのランニングパフォーマンスと回復スピードの効果について系統的レビューを行ってみることにしたんだとか。
まず最初に該当する先行研究をPubMedやMEDLINE、SPORTDiscus、Web of Scienceといったデータベースで検索したそうな。続いてヒットした研究が査読済みか、質の高い研究かなどをチェックしていったらしい。
最後に精査した研究結果をまとめてみたところ、以下のことが分かったそうです。

  • コンプレッションウェアのランニングパフォーマンス(VO2maxや血流量、乳酸濃度、心拍数、体温、ランニング後の筋力パフォーマンスなど)を400m走、5kmラン、10kmラン、15kmラン、ハーフマラソンで調べた研究があったが、いずれも統計的に有意な結果はなかった…。
  • 疲労までの時間や筋損傷については小程度のプラスの効果があった…!
  • 深部体温に中程度の影響があった。
  • 運動後の脚の痛みと筋肉疲労の始まりの遅さには大程度のプラスの効果があった…!

つまり、コンプレッションウェアは疲れを感じにくくする効果がちょっとだけある…!って感じですね。
う~ん。正直この結果だとプラセボなのか本当に効果があるのかよく分からん感じですな。



コンプレッションウェアを着ると運動の筋肉ダメージが効率よく回復するのかメタ分析・系統的レビューで調べてみた…!

2016年のバスク大学の研究によると、コンプレッションウェアを着ると運動の筋肉ダメージが効率よく回復するのかメタ分析・系統的レビューで調べてみたそうです。
コンプレッションウェアは効果がある…!って研究と、ない…!って研究があるんで先行研究を集めて大きな結論を出して見ようって感じですな。
ということでまず研究者たちは、PubMedやコクラン、Web Of Science、Scopusといったデータベースを用いて該当する研究を検索してみたそうな。続いてその中から質の高い研究をピックアップしていったらしい。
最後に精査した研究をメタ分析・系統的レビューしてみた結果、以下のような答えに行きついたんだとか。

  • 質の高い研究が少なかった…。
  • バイアスリスクもかなり高そうだった…。
  • 個々の研究結果のバラバラさも激しかった…。

そもそも良い研究が全然ないみたいですねー。
まぁ、プラセボを排除しづらい分野なんで仕方ないですな…。
ではその中でまとめた結果を見てみましょう。
コンプレッションウェアを着てみると、

  • クレアチンキナーゼ(筋肉のダメージ度と回復度)は変わらなかった(SMD=-0.02:9件の研究)
  • 血中乳酸濃度(疲労度)が増加していた(SMD=0.98:5件の研究)
  • 乳酸脱水素酵素(糖質をエネルギーに変える)が減少していた(SMD=-0.52:2件の研究)
  • 筋肉腫れが減少していた(SMD=-0.73:5件の研究)
  • 知覚が減少していた(SMD=-0.43:15件の研究)
  • 筋パワーの回復が早かった(SMD=1.63:5件の研究)
  • 筋力の回復が早かった(SMD=1.18:8件の研究)

まぁ、一応コンプレッションウェアを着ると、運動による筋肉ダメージの回復に役立ちそうかな…?って感じですね。パッとしませんが…。



RCTのメタ分析・系統的レビューで時間経過によるコンプレッションウェアの効果をチェックしてみた…!

2022年の東北大学RCTのメタ分析・系統的レビューによると、運動中又は運動後にコンプレッションウェアを着ることで筋肉ダメージの回復が促進されるのか調べてみたそうです。
まず研究者たちは、PubMedやSPORTDiscus、Web of Science、Scopus、EBSCOhostといったデータベースを用いて該当する研究を検索したそうな。すると910件もの研究が見つかったとのこと。
続いてこの中から、重複している研究や質の低い研究を除外していったそうで、最終的に19件の研究が選ばれたんだとか。因みにこの19件は全て査読済みであり、ランダム化比較試験となっております(クロスオーバーデザインのものもあった)
19件の研究の運動の種類は柔道やマラソン、ハンドボールなど様々でして、総サンプル数は350人、そのうち男性が251人で女性が99人となっておりました。また平均年齢は24.5±5.5歳で、平均身長は174.4±5.3cm、平均体重は73.1±7.5kgだったみたい。
これらの研究をメタ分析にかけつつ、系統的レビューとしてまとめてみたそうです。
それでは結果を見てみましょう。

  • コンプレッションウェアを着た場合と着なかった場合を比較した結果、どれだけ時間が経とうが筋力に影響はなかった…!

つまりコンプレッションウェアは意味なし…!ってことですね。やっぱりか…。
もうちょいデータを詳しく見てみると、

  • 直後から24時間以内:SMD=- 0.02(-0.22~0.19)
  • 24時間後から48時間以内:SMD=-0.00(-0.22~0.21)
  • 48時間後から72時間以内:SMD=-0.03(-0.43~0.37)
  • 72時間後から96時間以内:SMD=0.14(-0.21~0.49)
  • 96時間以上:SMD=0.26(-0.33~0.85)

って感じ。
この結果に研究者曰く、

  • 仮に運動の種類や体の部位、コンプレッションウェアを着るタイミングを変えつつ、運動中又は運動後にコンプレッションウェアを着ても、運動の筋力回復は促進しないだろう

としています。
ということで質の高い研究の結果、コンプレッションウェアは効果がないかプラセボだったっぽいですね。残念。



メタ分析・系統的レビューを用いてコンプレッションウェアで血流が変わるのか様々なタイミングで調べてみた…!

2023年のビクトリア大学メタ分析・系統的レビューによると、コンプレッションウェアで血流が変わるのか様々なタイミングで調べてみたそうです。
そもそも従来から言われておりますコンプレッションウェアのメリットの根底には血流量の変化が関係している可能性が高いんですよね。
そこで研究者たちは、

  1. 安静時・運動前
  2. 運動中
  3. 運動終了直後
  4. 運動後の回復期間中

っていうそれぞれのタイミングで血流量がどう変化しているのか測定した研究結果をまとめてみることにしたんだとか。
まず該当する研究をピックアップするべくScopusやSPORTDiscus、PubMed(MEDLINE)なんかのデータベースを用いて先行研究を検索してみたそうな。その結果、899件もの研究が見つかったとのこと。
続いてこの中から基準を満たす質の高い研究を精査していったそうで、最終的には22件の研究が選ばれたらしい。
この22件の研究をメタ分析にかけてみた結果、コンプレッションウェアを着ると、

  • 全体の末梢血流(SMD=0.32)、静脈血流(SMD=0.37)、動脈血流(SMD=0.30)の全てで小さな効果があった…!
  • 安静時・運動前においては、末梢血流(SMD=0.18)は効果なし、静脈血流(SMD=0.31)は小さな効果あり、動脈血流(SMD=0.12)は効果なしだった…!
  • 運動中のおいては、末梢血流(SMD=0.44)、静脈血流(SMD=0.48)、動脈血流(SMD=0.44)の全てで小さな効果があった…!
  • 運動終了直後においては、末梢血流(SMD=-0.04)、静脈血流(SMD=-0.41)、動脈血流(SMD=0.12)の全てで効果なし又は逆効果だった…!
  • 運動後の回復期間中においては、末梢血流(SMD=0.25)は効果なし、静脈血流(SMD=0.67)は中程度の効果あり、動脈血流(SMD=0.02)は効果なしだった…!

って感じだったそう。
う~ん…。やっぱパッとしない結果ですね。
確かに効果のあるタイミングや血管もありますが、意味なし、逆効果ってのもあったんで、あんま期待できないかも。それにプラセボを作れないんでバイアスリスクも高そうですし…。



個人的考察

油断できんのがこういったものってプラセボ効果が働きやすいということ。盲検化しづらいんでどうしても良い結果が出がちなんですよね。
なんで効果はあんま期待せず、好みで着るかどうか決めれば良いんじゃないのかな~と思っております。



参考文献