今回は、パプアニューギニアの2つの部族「アサロ族」と「サウシ族」の腸内細菌・腸内環境を調べた研究を見てみましょう。



伝統的な生活を今も続けているパプアニューギニアの2つの部族「アサロ族」と「サウシ族」の腸内細菌・腸内環境

2015年のアルバータ大学の研究によると、アサロ族とサウシ族の腸内細菌・腸内環境について調べてみたそうです。
そもそもヒトの腸内には豊富で多様な微生物たち(腸内細菌たち)がいまして、これが健康に大きな影響を与えております。例えば、炎症性腸疾患や自己免疫疾患(多発性硬化症や1型糖尿病、関節リウマチなど)、肥満と代謝問題、アレルギー、大腸がんなんかですね。これらは西洋化社会での高い有病率が確認されておりまして、どうやら腸内細菌が重要な役割を担っているみたいなんですな。また、異常な腸内細菌や特定の腸内細菌の喪失なんかが、上記に挙げたような疾患にかかりやすくしている可能性があるみたい。
一方で、西洋化されてない地域では、生命を脅かすような下痢や感染症の発生率が高いという問題がございます。こう考えてみると、どちらが良いという訳ではなく、両方の環境の良い所取りをした方が良いですよね。
そこで先行研究では、西洋化されたライフスタイルの人とそうでない人の腸内細菌を比較する研究をしております。
例えば、


なんかがそうですね。
これらの研究をざっくりまとめると、太古の生活を守っている人たちは、基本的に腸内細菌の多様性が高いんですな。
では、伝統的な生活を送っているパプアニューギニアの人たちはどうなのか…?ってことで、今回調べてみることにしたそうです。
ということで、まずはパプアニューギニアの人たちの概要を抑えておきましょう。
パプアニューギニアは世界で最も多様性に富んだ国の一つでありまして、2000年にパプアニューギニアで国勢調査をしたんですが、823もの言語が話されており、これは世界の言語の約4分の1に相当するそうな。また部族数に関しても同程度だったとのこと。めっちゃ多いですねー。
更にパプアニューギニアは、世界で最も近代化が進んでいない国の一つでもあり、多くの部族が外部のコミュニティとの接触を最小限にしているんだとか。
そんなパプアニューギニアの人たちの大多数は、伝統的な自給自足の農業に基づく生活を今も送っているそうです。
そのため、現代医療とのアクセスがないため、

  • 全般的な健康状態や社会経済の予測がつかない=不安定
  • 乳児の死亡率が高い
  • 妊婦や出産による死亡率が高い
  • 平均寿命が短い
  • 感染症の蔓延率が高い

といった問題を抱えているらしい。
この辺は以前の記事である「太古の昔は短命だった?人間の寿命研究を見てみる!」で触れた部分と同じ感じですな。
また主な死因は、肺炎、マラリア、結核、新生児の敗血症、下痢、髄膜炎とのこと。一方で、現代病である、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病といった非感染性の疾患とは無縁な生活を送っているみたい。
んで、今回研究に参加したのは、パプアニューギニアの2つの農村地域に住む部族「アサロ族」と「サウシ族」の人たちでして、どちらの部族も伝統的な生活を今尚続けているそうな。そして2つの部族の場所は以下な感じです。

  1. アサロ族:州都ゴロカから車で約30分の高地にいるそうで、パプアニューギニアで約5万人の人口を抱える大規模な部族なんだとか。因みに以下の画像F(右下の画像)がアサロ族とのこと。
  2. サウシ族:州都マダンのラム渓谷の低地にいるそうで、約1,000人の人口の部族らしい。

この2つの部族が住んでいるところは45kmも離れているらしく、険しい山坂で2~3日、全長235km(移動時間4~6時間)の道路で結ばれているそうです。因みに両部族の村同士の交流はあるそうなんですが、頻度は低いとのことでした。
以下の画像A(左上の画像)の地図を見ると大体の場所が分かりますのでご覧ください。


そして、2つの部族はどちらも伝統的な環境で生活しております。上図B(右上)がその写真ですね。
当然こんな感じなんで、下水、廃水、飲料水の処理施設なんかはありません。飲み水は基本川や小川、雨水からゲットしているらしく、沸騰させるorそのままで飲むらしい。
また食料は自給自足の農業に依存しており独自の菜園を持っているんだとか。その菜園の画像が上図C(中段右)ですな。
次に食べ物なんですが、まずパプアニューギニアでは炭水化物が一般的であり、慢性的な栄養不足はまれとのことです。そしてアサロ族とサウシ族の参加者の食事はかな~り被っていたそうな。
まず主食は、サツマイモ、タロイモ、プランテン(グリーンバナナみたいな見た目の果物)で、伝統的な直火で調理するとのこと。上図のDとE(左下)の写真がそれですな。
また動物性タンパク質はほどほどって感じでして、週2回、主に豚肉と魚を食べていたそうです。
因みにパプアニューギニアでは、感染症率が高く、管理が不十分で、診断能力も不足しているため、抗生物質の使用率が高いんだとか。また、経験的治療に頼ることも多いとのこと。こんな感じで腸内細菌がどうなっているのかは非常に気になるところですね。
次に参加者の概要です。
今回パプアニューギニアで参加したのはアサロ族20名、サウシ族20名の計40名となっております。それぞれの年齢や男女比については以下な感じ。

  • アサロ族:平均年齢35歳、年齢範囲17~50歳、3分の2が女性だった。
  • サウシ族:平均年齢32歳、年齢範囲23~50歳、80%が女性だった。

この方々の糞便を採取し、アメリカ在住の方と比べてみたそうです。因みに参加者は22名(男性10名、女性12名)で平均年齢は27歳ってことでした。
それでは気になる結果を見てみましょう。

  • パプアニューギニアのアサロ族とサウシ族は、腸内細菌の多様性が高い…!
  • ほとんどの腸内細菌はパプアニューギニア人とアメリカ人で共通していたが、その豊富さは全然違う…!
  • アメリカ人には見られなかった腸内細菌のコミュニティがあった…!

う~ん。抗生物質を使っていてもこれだけの腸内細菌の多様性を確保しているのはすごいっすね。
この結果に研究者曰く、

  • 得られた知見のいくつかは、西洋化地域と非西洋化地域の糞便による腸内細菌を比較した先行研究結果と一致しており、西洋化が腸内細菌に全般的な影響を与えている可能性を示している

としています。
そしてこれらが健康にも影響を与えているんじゃないかとしておりました。



個人的考察

因みにこの研究に載っていた2011年の欧州分子生物学研究所の研究によると、日本、イタリア、スペイン、デンマーク、フランス、アメリカの地域に住む人の腸内細菌を比較したところ、腸内細菌の多様性に大きな違いは見当たらず、遺伝的要因と文化的要因が及ぼす影響は小さい可能性があったそうな。
となると、遺伝や人種、文化ではなく、環境要因、特に食事が大事だと言えそうです。



参考文献