医療・福祉の業界・研修に限らず、いろんな場面で見かけるのが、マズローの欲求5段階説。
皆さんも一度はピラミッドの図を見たことがあるのではないでしょうか…?
そして実際、使われている方もいるのではないでしょうか…?
半世紀以上前に登場したこの理論なんですが、実は、科学的根拠が非常に薄く、間違いだった…!って話があるんですよ。でもあんま知られていなかったりします…。
ということで今回はマズローの欲求5段階説を見ていきましょう…!



マズローの欲求5段階説ってなに…?

マズローの欲求5段階説は、ブランダイス大学やコロンビア大学の教授だった心理学者アブラハム・マズローが提唱した概念のことで、

  • 自己実現理論
  • 自己実現論
  • マズローの欲求段階説
  • マズローの欲求階層説

など様々な名称で呼ばれております。
このマズローの欲求5段階説の初登場は1943年の研究になりまして、その後、1954年のマズローの著書「モチベーションとパーソナリティ(motivation and personality)」でさらに詳しく解説され、世間に広まることとなりました。
んで、マズローの欲求5段階説がどういったものかと言いますと、

  • 人間は自己実現に向かって常に成長していくという仮定のもと、人間の欲求を5段階の階層に分け、理論化したもの

となっております。
後にこの5段階の階層を分かりやすくするために、皆さんが知るようなピラミッド状の階層(下図)が登場したわけですな(余談ですが、マズロー自身はピラミッドの図を用いていない)


では皆さんもうご存知かと思いますが、復習がてらバーッと各階層を見ていきます。


生理的欲求(Physiological needs)

生理的欲求は、生きていく上で必要な欲求のことを言います。動物も持っているもので、本能的な欲求ですね。例としては、食事や睡眠など。


安全欲求(Safety needs)

安全欲求は、生理的欲求がある程度満たされると出てくる欲求で、安心・安定して暮らしていく上で必要な欲求のことを言います。例えば、戦争がなく平和に暮らせるとか、経済的に安定しているとかですね。健康に暮らせるなどもこちらに入ります。


社会的欲求・所属と愛の欲求(Social needs・Love and belonging)

社会的欲求は、生理的欲求・安全欲求がある程度満たされると出てくる欲求で、自分が社会に必要とされている感を欲する欲求のことを言います。人間は社会的な生き物なんでやっぱ帰属意識が満たされるのが重要みたい(孤独はヤバいですからね)。例としては、学校や職場、部活やサークルなどに所属し、誰かの役に立っているものやサービスなどを提供しているなど。


承認欲求・尊重欲求(Esteem)

承認欲求は、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求がある程度満たされると出てくる欲求で、他人から存在価値があると認められ尊重されたい欲求のことを言います。因みに承認欲求は大きく2つあり、一つは、ただ他人から注目を浴びたい…!というもの。他者承認でこちらはこじれると危険だったりします。もう一つは、自分が思う自分の評価を重視するもの。つまり自己承認・自己肯定感ですね。自己承認の大事さについては、「障がい者支援について考える その6「今年あった支援などのポイントの復習(続き)」」の「13. 認めるという事」と「17. 家族と信頼関係を作るコツの基本」をご覧いただけると嬉しいです。


自己実現欲求(Self-actualization)

自己実現欲求は、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求がある程度満たされると出てくる欲求で、自分の持つ能力や可能性、つまり自信・自己効力感を持ちつつ、最大限発揮し、有言実行していく欲求のこと。自己実現に向けて自分の道を歩んでいくって感じですね。


今でも使われることの多い、このマズローの欲求5段階説ですが、実は冒頭でも書いた通り、科学的根拠が非常に薄く、科学界の評判はあまりよろしくなかったり致します。
そんでもって最近も、追試であらま…!な出来事が起こるんですよー。



123ヶ国60,865人を対象にマズローの欲求5段階説を調べてみた…!

2011年のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究によると、マズローの欲求5段階説が本当に正しいのか、ガッツリ調べてみたそうです。
この研究は、2005年~2010年にかけて、123ヶ国60,865人を対象に行ったそうで、参加者に以下の欲求がどれぐらい満たされているのか回答してもらったそうな。

  1. 基本的欲求:食事・住居などが満たされているか…?
  2. 安全欲求:安心安全に暮らせているか…?
  3. 社会的欲求:愛情や社会からのサポートを受けているか…?
  4. 尊敬欲求:自他から承認されているか…?
  5. 達成欲求:自己実現できているか…?
  6. 自律欲求:自己コントロール感があるか…?

マズローの欲求5段階説とほとんど同じですね。
更に、以下の質問にも答えてもらったらしい…。

  1. 自分の人生の満足度
  2. 日々のポジティブ度
  3. 日々のネガティブ度

これら3つも評価してもらったそうです。
つまり、マズローの欲求5段階説と主観的な幸福度の関係がこれで分かるってことですね。
まず大枠の結論が、

  • 確かにマズローの欲求はありそうだが、欲求に順番などなかった…!

とのこと。
下の階層が満たされたから上の階層の欲求に行く…!ということはなかったってことですね。例えば、お腹が空いていても、友達と一緒なら楽しくなれた、みたいな…。
言われてみれば、そりゃそうですよね。面白い映画や熱中してゲームをしていたら、睡眠や食事、トイレとかも忘れちゃう、後回しにしちゃうなんてことありますし…。
つまり、欲求はそれぞれが別個独立したものであり、それら全てが必要みたい。

また、自分の人生の満足度・日々のポジティブ度・日々のネガティブ度の回答により分かったことは、

  • 自分の人生の満足度と最も関係していたのは、基本的欲求だった…!
  • 日々のポジティブ度と最も関係していたのは、社会的欲求だった…!
  • 日々のネガティブと最も関係していたのは、基本的欲求・承認欲求(尊敬欲求)・自律欲求(自己コントロール感)だった…!

とのこと。
つまり、日常の満足度は、対人関係・承認欲求で決まる…!ってことですね。ここもマズローの階層のようにはなっておりませんなー。
因みに基本的欲求は、これまでの人生がどうだったか振り返ったとき、初めて幸福の重要な指標になるそうで、これは確かにそうかもな~って感じですよね。

まとめると、

  • マズローの各欲求は確かに幸福と関係があった…!
  • しかし、各欲求は階層ではなく、全ての欲求は常に重要であった…!

ってことになります。



個人的考察

実はマズロー自身も、階層の考えにはあやしいと思っていたらしく、実際、このように著書でも書いていたそうです。

  • これまで欲求の階層が固定された順番であるかのように話してきたが、実際には、それほど厳格ではないのかもしれない。確かに、私たちが調べた人々のほとんどは、これら順番を持っているように見えた。ただし、例外もあった。

ということで、マズローの欲求5段階説の階層にこだわる必要はなし…!
手の付けやすい所からやっていく、できれば同時に進行していくなど自由に行っていけばよろしいかと思います。
とりあえず、この研究を現実の支援に活かしていくのであれば、事業所では利用者さんに日々、承認心の貯金の支援をしていく、作業で社会的欲求が満たされるよう、声掛けしていくのが大事かと…。そうすれば人に役立っている感を感じ、仕事のやりがいを感じてもらえるのではないかと思いました。



参考文献