認知行動療法を一から学ぼう!その8「神経行動療法への展開」
毎月恒例の月1社内研修が令和4年4月14日にありましたので、内容を備忘録としてブログに残しておきます。過去の社内研修内容を確認したい場合は下記からご覧ください。
1. 神経行動療法
神経行動療法は2007年のピッツバーグ大学の研究により有名になった。この研究では弁証法的行動療法(DBT:境界性パーソナリティ障害の方に有効な治療法。日常生活全体を治療環境として使っていくぐらい集中的に行う治療法)を行っている大うつ病(だいうつびょう)患者6名に、認知コントロール訓練( CCT:Congnitive Control Trainingとは、注意トレーニングとワーキングメモリを調査・アップさせるトレーニングのこと)を1日35分、2週間で合計6回行った。結果、うつ症状と反芻思考が改善した。上記研究では、同時に脳の血流の変化も調べていた。CCTの介入前後で扁桃体(アーモンドのような形をしている。感情を司る部分)と背外側前頭前野(記憶や認知など思考を司る部分)の反応が変化していた。具体的には、
- 自分とネガティブについて問う課題では血流増加量が減少した≒ネガティブに巻き込まれ辛くなっていた≒反芻思考が改善した。
- 難しいワーキングメモリのトレーニングでは血流増加量が増加した≒ワーキングメモリがアップした≒うつ症状になりにくくなった。
2. 注意機能とワーキングメモリ
認知機能は、注意機能、ワーキングメモリ、実行機能からなっているが、特に注意機能、ワーキングメモリのトレーニングが実用化されており効果も認められている。また、ADHDの子どもを対象にした研究でそれらのトレーニングを行うと症状の改善が見られた。注意機能やワーキングメモリのトレーニングはBDNFを出して行うと効果が上がる可能性がある。BDNFを効率良く分泌させるには、運動、ブルーベリー、亜鉛などがある。
3. マインドフルネスと脳
マインドフルネスで脳の構造が変わる可能性がある。- 2007年の大連理工大学のRCTによると大連理工大学の学生80人を2グループに分け、一方に1日20分、5日間のマインドフルネス訓練を行わせた。結果、注意機能が高まり、ネガティブが減って気分の改善が見られた。
- 2010年の大連理工大学のRCTによるとオレゴン大学の精神障がいなどない健康的な学生45人を2グループに分け、一方にマインドフルネス訓練(これまでにマインドフルネス訓練の経験がない学生)を、もう一方にリラクゼーション訓練を行わせた。両グループの訓練は月曜日から金曜日までの5日間、毎晩30分を1ヶ月、合計11時間行った。結果、脳の構造が変わり脳内のネットワークがスムーズに動くようになることが分かった。
- 2005年のハーバード大学などの研究によると平均9.1年の瞑想経験がある20名の脳を調べたら、背内側前頭前野(客観視・共感力を司る部分。自閉症の人はここが上手く働かない)の厚みが増していた。更に島(とう:身体感覚をまとめ上げている場所。この奥に扁桃体(感情)があってつながっている)の厚みも増していた。
- また、研究により、瞑想による呼吸がゆっくりになればなるほど、視覚野の厚みが増していた(瞑想経験が増すと呼吸がゆっくりになることが分かっている)
- 2015年のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究では、20年間、瞑想を続けた人を調べたものがある。結果は灰白質が肥大化していた(≒認知機能が高かった)とのこと。
4. 認知行動療法と薬物療法
2004年のロットマン研究所の研究によると大うつ病の患者さんに認知行動療法(CBT)か、パロキセチン(SSRI)による薬物療法を行い糖代謝の変化を見た。これによりそれぞれで脳に効く部位が違うことが分かった。具体的には、- 薬物療法は自律神経や内分泌、免疫に近い脳の部位に効果があった。
- 認知行動療法は注意をコントロールする脳の部位に効果があった。
因みに偽薬によるプラセボ効果は薬物療法と同じ脳の部位に効果が表れる。
5. 認知トレーニングと認知行動療法の両方を行ったらどうなるのか…?
注意トレーニングやマインドフルネス瞑想などの認知トレーニングが認知機能(脳機能)を改善し、結果、精神障がいを改善していくことが分かった。また、認知行動療法が精神障がいを改善し、結果、認知機能(脳機能)を改善していくことも分かった。では、認知トレーニングと認知行動療法の両方を行ったらどうなるのか…?
2011年の今井先生・熊野先生の研究によれば、認知療法(CT)と注意トレーニングでは効いている場所が違うので相加的に働いた。
では、認知トレーニングと認知行動療法との両方を使い相乗効果を働かせることはできないのか…?
メタ認知療法は可能性があるとのこと。
個人的考察
以上、「神経行動療法への展開」でした…!
是非、自分や支援で実践し、結果を実践報告書にまとめてみてください。
実践報告書の見本とフォーマットのダウンロードはこちらから…!
実践報告書の見本のPDFとフォーマットのPDF・Wordデータは下記からダウンロードできます。
もし、自分の事業所で使いたい…!って方はご活用ください。
参考文献
https://www.youtube.com/watch?v=zcOG5_GF6f4
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT9.pdf
https://link.springer.com/article/10.1007/s10608-006-9118-6
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17940025/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20713717/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1361002/
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2014.01551/full
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14706942/
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102291508872245
久保木富房,久保千春,野村忍(2012)「心身相関医学の最新知識 熊野宏昭,今井正司 心身医学の基盤としての脳と心の双方向性を探る」日本評論社
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT9.pdf
https://link.springer.com/article/10.1007/s10608-006-9118-6
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17940025/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20713717/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1361002/
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2014.01551/full
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14706942/
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102291508872245
久保木富房,久保千春,野村忍(2012)「心身相関医学の最新知識 熊野宏昭,今井正司 心身医学の基盤としての脳と心の双方向性を探る」日本評論社
リンク
リンク