その昔、このブログが始まった当初ぐらいの時に本の読み方についてまとめた記事がございました。


その中で速読について軽く触れておりますが、詳しくは書いていなかったんですよね。
そういえば速読について最近誰も話題にもしなくなったし書店でも速読本をあんま見かけなくなりましたな。
では、結局、その昔流行っていた「速読(Speed Reading)」は本当に役立つものなのか…?ってのを今回見てみましょう…!



「速読(Speed Reading)」は本当に役立つものなのか…?

2016年のカリフォルニア大学サンディエゴ校レビュー論文によると、速読(Speed Reading)は本当に役立つものなのか先行研究を見直ししてみたそうです。
そもそも速読とは、理解を損なうことなく速度を上げて読むことを意味しておりまして、時間のない私たちにとってとても魅力的な方法だと感じられます。
そして速読は実際に可能だとする話が一昔前に結構あったんですよね。
例えば、2007年のある日、世界速読チャンピオンに6回輝いたアン・ジョーンズ氏は、ハリー・ポッターの最新作をわずか47分で読み終えたという記録を打ち立てます。これは1分あたり4,200語(wpm)を超えるスピードなんですな。もう一人の速読愛好家・推進者のハワード・バーグ氏は、30,000wpmもの超スピードで読めると発表してもおります。
大卒成人で読書好きな人の読む速度が一般的に200~400wpmと言われているのでまさに驚異的と言えましょう。
これらを見ていると、学校や仕事、ネットニュースやSNSなど動画が主流な現代でも毎日たくさんの文章を読まなきゃいけないんで、速読が出来るようになりたいと思うのは必然ですよね。
但し、速読には謎も多かったりします。
例えば、

  • 速読って本当に可能なの…?
  • 速読によるスピードと理解の両立って可能なの…?
  • 速読って身に着けられるの…?
  • 速読って練習が必要なの…?

って感じ。
そこで今回、上記について調べてみたそうです。


そもそも読書ってなに…?スキミングってなに…?

速読の研究を見ていく前にまずはそもそも読書ってのがなんなのかをはっきりさせておきます。
研究者曰く、

  • 読書とは、一般的に文字情報を処理し、各単語や文章の意図された意味を復元することと定義される

とのこと。
つまり文字を文字として理解しつつ、それらが何を言いたいのかも理解することみたいな感じですな。
もちろん例外もありまして、例えば著者があえて意図的にある程度の曖昧さを提供している物(文学作品など)もあったりします。但し、ほとんどの場合は著者が読者に自分が伝えようとしていることを理解してもらいたい、書いていることを理解してもらいたいと思っているとのこと。まぁそうでしょうな。
そして読書を行う主な目的は、教科書を理解する、小説や物語を理解する、マニュアルを理解するなど、何か新しいことを学ぶこととなります。つまり効果的な読書ってのは、ただ並べられている単語を理解する以上の認識が必要ってことですな。文章や文脈から関係性を理解したり、想像したりすることも必要ってことですね。
一方で、スキミングってものも良くセットで考えられます。スキミングは、特定の単語や情報を見つけたり、テキストの内容の概要を把握したりするために、テキストを素早くバーッと見ていくみたいな意味です。一般的にスキミングは、黙読の2~4倍早いとのこと。しかし、スキミングの理解は黙読よりも低く、つまり、読むスピードと理解力は、トレードオフの関係(早く読むと理解力が下がる、ゆっくり読むと理解力が上がる)にあるんですな。
そして速読はその両方をかなえる夢の方法だと言われております。


速読が流行ったきっかけ…!

速読は1959年にエブリン・ウッド氏のリーディング・ダイナミクス・プログラムが導入されたことによりアメリカで広く知られるようになったそうな。なんでも高校の先生だったエブリン・ウッド氏は、一目見ただけで文章のフレーズ全体を捉えることで、非常に速く、しっかり理解して読むことができると主張していたらしい。その後、エブリン・ウッド氏は夫婦で速読の会社を設立、瞬く間に全米にフランチャイズ展開をしていったんだとか。因みにエブリン・ウッド氏の速読の基本は、現在でも多くの速読トレーニングコースの基盤となっているとのこと。
ここから速読ブームが始まったんですな。


速読は眼を動かさず一点を凝視してやろう…!は本当か…?

1986年のレビュー論文によると、速読に関する40冊の書籍のうち3分の2では、練習によって認識範囲を広げることが可能だと主張しているとのこと。また、ほとんどの本では、読書中は一点を凝視すべし…!と書かれていたんだとか。
その理由を調べるべく、研究者たちが速読の本を見てみると、周辺視野を使って1回見ただけで読める単語数を増やしているらしい。それにより単語や文章全体を1回見ただけで処理できるようになるんだとか。更に極端な例だと、ページをジグザグに下って次のページに行くといった感じで、よりスピードアップもできるって話もあるみたい。
んで、実際どうなのか研究者が過去の研究を見直ししてみたところ、う~ん…って感じだったそうです。
まず第1にテキスト処理能力を制限しているのは、単語を認識してテキストを理解する能力であり、目の動きを変えることを学ぶことでこの能力を高められる可能性は非常に低いとのこと。
第2に文を正式な順序で読まずジグザグとかで読んだり、一部の単語を飛ばすと、単語の処理能力・理解力ともに低下してしまうそうな。
第3に文章を目で追う眼球運動は読書にとってデメリットな動きではなく、むしろメリットな動きとのこと。眼球運動を行うことにより理解力アップをサポートしているんだとか。
ってことでまとめると、一点を凝視したり全体を見渡せるようになってもそれがイコールより速く読めるとはならないとのこと。


速読は心の中で声に出して読むのを防ぐから早く読める…!は本当か…?

速読を可能とする主張のもう一つの理由は練習によって心の中で声に出して読むのを防げるからだ…!という考え方があります。心の中で読まなければその分読書スピードを上げられると…。
皆さんもおそらく感じたことがあると思いますが、声に出して文章を読んでいなくても、口が動いていなくても、文章を読んでいるときそれが心の中で声を出して読んでいる聞こえるっていう感覚がありますよね。これが読書スピードの妨げになると主張しているんですよ。
ただ、研究者によれば、具体的な理由を見てみるとあんまり述べられている物はないらしい。
そして実際、過去の研究を見てみると、この心の中の声ってのは悪いことではないみたいなんですな。むしろ心の中の声ってのは単語の識別と理解において重要な役割を果たしていると出ているとのこと。また先行研究により、心の声をなくそうとすると、難しい文章や推論させる文章の場合、理解力にデメリットをもたらすとも出ているんだとか。
そのため、心の声を排除することは意味がなくむしろ逆効果っぽいです。


速読は練習で出来るようになる…!上達する…!は本当か…?

どこかで聞いた人もいるかと思いますが、一般的な方は提示された順序で約7個のランダムな数字や文字、単語などの項目しか記憶できないとなっております。それ以上は記憶エラーが起こりやすくなるんですよね。
しかしここで面白い研究がありまして、最初は平均的な項目しか覚えられなかったけど、20か月間の練習により80個の項目を記憶できるようになった大学生を追跡調査したものがあるんですよ。
なんでも大学生はマラソンランナーだったらしく、走行時間の形式、つまり3桁や4桁の数字に慣れていたため、数字をこの形式で1ブロックとし、記憶してみるとたくさん記憶できるようになったそうな。じゃあ、この訓練でアップした短期記憶容量を長期記憶容量として使えるかやってみたとのこと。結果はダメだったらしい。また数字の代わりに文字を使ったテストでも通常レベルに戻ってしまったそうな。
では、練習により速読は身に着けられるのか、上達するのか…?ってことが疑問になるんですが、いくつかの研究によると結果は芳しくないみたい。
そもそも速読は、横書き文章の場合、視線を左ページの中央から下を見て、その後、右ページの中央から上を見てっていうのをなるべく一点凝視しつつ、ほとんどの行を完全に飛ばして読んでいくのがスタンダードな方法です。つまり右ページは書かれた順序(通常の読み方)と逆の順序で読んでいかなきゃいけないんですよね。
但し先行研究によりこのような読み方で理解度テストをすると、混乱し、ぐちゃぐちゃな情報として思い出してしまったんだとか。
別の研究では優秀な成績で速読プログラムを卒業した学生を対象に大学レベルの教科書を6分未満で読んでもらったそうな。なんでもこの時15,000wpm以上のスピードで読んでいたとのこと。すさまじいですな。そしてその本を3回も速読してもらったそうです。
最後に多肢選択式の理解力テストをしたそうなんですが、結果、テストの点数が非常に低かったとのこと。また、平均的な読者と比較しても、周辺に提示された文字を認識することや、簡単に提示された段落にどの単語が出てきたかを識別することに関しても、並外れた能力があった訳ではないらしい。
そのため研究者は、速読者はページをめくる際の驚くべき器用さを持っている物であると結論付けたそうです。ページをめくるのが超上手いだけって…。
他にも面白い研究はありまして、速読クラスへの参加前と参加後で眼球運動を記録し、参加していないグループと比較した物があるんですが、スタート時両グループとも約280wpmのスピードで読書をしていたとのこと。これが速読クラス終了後には速読グループは約400wpmまでアップ、注視回数が減少、注視時間も短縮していたんだとか。
ただ理解度テストの結果は、スタート時正解率81%だったのに対し速読クラス終了後は74%にまで下がっていたとのこと。つまりスピードアップの代償として理解力がダウンしたってことですな。やっぱりトレードオフ…。
更にエブリン・ウッド氏の速読プログラムの卒業生をテストし、プログラムに登録したもののまだ受講していない人と比較した研究ってのもございます。
これは両グループにフィクションとノンフィクションを読んでもらい、その速度と理解力をテストしたって物なんですが、結果は、確かに速読卒業生の方が約300~1,300wpm速かったものの、理解力テストではフィクションだと大幅に低かったらしい。一方でノンフィクションだと同じぐらいの理解力だったそうな。ただノンフィクションは、当たり前ですが内容が現実世界に基づいているため、速読者が実際にテキストから答えを読んだのではなく、答えを知っていればテストに正解できた可能性があるんですよね。実際、同じ理解力テストを使って文章を初めて読んだ人たちで行ったら、速読者は常識と推測しちゃったため、テストの点数が低かったんですよ。
最後は速読者の眼球運動と理解力に関する最も包括的な研究を見てみます。これは速読者(600~700wpm前後)と通常の読者(250wpm前後)と流し読みをするよう指示された人(600~700wpm前後)に文章を読んでもらいつつ、要約してもらったという物。
結果、要約で理解力を見てみると、一番できていたのは通常の速度、2番目が速読者、3番目が流し読みをした人だったらしい。また普通に読んだ人たちは速読者よりもしっかり見たため、文章の詳細に関する質問に比較的ちゃんと答えられたそうな。一方で速読者と流し読みをした人は差がなかったとのこと。
つまり速読は基本的に流し読みを教えられているだけで、読むっていう本当の意味での読書は教えられていない可能性があったんだとか。


冒頭のハリー・ポッターの最新作をわずか47分で読み終えたってのは結局何だったのか…?

では冒頭で触れたハリー・ポッターを47分で読破…!ってのは何だったのでしょうか…?
まずアン・ジョーンズ氏はハリー・ポッターの新刊を読む上で有利だったことの一つとして過去シリーズを読んでいたんですよね。
つまりハリポタシリーズ初見ではなく予備知識ありってことだったんですな。なんで登場人物とか筋書きとか文体とかそんなものが知識としてあったんですよ。なんでそこから47分で得た新情報を合わせて推測し要約した可能性はあると言えましょう。


速読よりもスキミングの方がまだいいのかも…?

最初に方で軽く触れましたが、スキミングとは、特定の単語や情報を見つけたり、テキストの内容の概要を把握したりするために、テキストを素早くバーッと見ていく方法です。ちょっと速読と似ていますよね。
ただ研究者によれば速読よりもスキミングの方がまだいいのかもしれないとのこと。というのも、速読もスキミングもバーッと見ていくのは変わらないものの、速読はそのペースが最初から最後まで一定なんですよね。一方でスキミングは重要な情報を掴み、内容の概要を把握することなんで、ポイント部分ではペースを落として時間をかけるってことをするんですよ。
そのため、スピードと理解力のトレードオフは変わらないものの、スキミングの方が理解力をアップできる可能性があるみたい。


まとめ

あらゆる行動と同様、読書においても速度と理解力はトレードオフの関係にありました。つまり読むスピードを上げれば理解力や記憶力が落ちる、理解力や記憶力を上げればスピードが落ちるってことですね。なんで残念ながら速読は夢のような方法・魔法ではなかったとのこと。
因みに、

  • 既に内容について多くの知識がある場合は読むスピードを上げることが出来る
  • けど「既に内容について多くの知識がある場合」になるには、結局、十分に理解する必要があるため、普通の速度で読むしかないのも事実
  • 更に言えば書かれている内容を正しく理解するためにはテキストの一部を読み返す必要がある
  • 以上から、結局読んでいる総時間は変わらない

ってことも頭に入れておきたいところ。
同じジャンルの本をたくさん読んですでに知識がたくさんあれば上手く読み飛ばしできるので本を読むのが速くなると言う、経験数の違いってのがポイントでした。
ただ最後に超重要な事を研究者が書いていたのでそれを下記に書いておきます。

  • ほとんどの読者の通常読むスピードは200~400wpmである。これは通常、聞くことによって情報を得るよりも速く、ほとんどの目的に非常に適している。

つまり普通に本を読むことそれ自体が、話しを聞く事や動画を見るよりもずっと早く情報をインプットしていると言える、効率良い方法だと言うことですね。



個人的考察

以上、速読でした。
普通に本を読むのが実は結構効率的なインプット方法なのだと改めて思いました。



参考文献