毎月恒例の月1社内研修が令和4年5月13日にありましたので、内容を備忘録としてブログに残しておきます。過去の社内研修内容を確認したい場合は下記からご覧ください。


今回の研修では、
下記からは当時の社内研修の文章をそのまま使っている為、文章が言い切りの形となっております。ご了承ください。
では行きますね~。



1. 臨床行動分析

臨床行動分析とはオペラント学習の基になった行動分析学を更に応用を広げた分野である。行動分析学の中に前提・原理・方法を、現代の言語や認知に対するアプローチの仕方に特別な注意を払いつつ、応用する。つまり行動分析学の中に言語や認知を取り込んで(認知も行動とみなして=言語行動)扱っていくのが臨床行動分析である。
臨床行動分析の対象は正常に発達した大人が呈する臨床的障害(うつ病、不安障害、物質依存、対人関係上の問題など)であり、これらの発症・維持・治療に寄与する変数やプロセスを同定していくことが含まれる。また、外来で週1,2回しか会えない人達の生活の中に直接入り込むのは不可能なため、言葉のやり取りを介して患者さんの日常生活にいかに影響を与えるかに注目している(=治療効果を高めるために言語的な介入に頼るのが特徴)。但し、現実場面で強化随伴性に介入できると非常に治療は早い。



2. オペラント行動

オペラント行動とは、行動療法のABC分析のこと。きっかけ・弁別刺激(Antecedent)→ターゲット行動(Behavior)→結果=短期的な結果=60秒以内(Consequence)となり、結果(C)が良ければ行動(B)は増えるし(反応強化子随伴性)、悪ければ行動は減る。つまりオペラント行動(オペラント学習)とは習慣的行動=習慣化された行動(良い習慣・悪習慣)=癖=行動パターンのことであり、連鎖で考えるものである。
食行動を例にしたオペラント行動は下図となる。


主にBとCとの関係性を随伴性という(AとBとの関係性も随伴性ではあるが注目すべきはBとCの随伴性)。また、長期的な結果(D=Delayed outcome)は自動的に行動に影響を与えることはない。そのためオペラント行動の枠内で行動に影響を与えることはない。但し患者さんはこの長期的な結果(D)が一番困っており、問題のメインとして相談に来ることが多い(目先の楽をとって長期的な不都合が起きている≒セルフコントロール力が低いともいえる)。
確立操作(E=Establishing operation)とは、可能性を高める、弱める様々な要因のこと。また、結果の強化の強さを変える(例:空腹時に食べると満足するという結果が強くなる。満腹時に食べると満足するという結果が弱くなる)ことを言う。



3. 随伴性形成行動とルール支配行動

レスポンデント条件づけやオペラント学習は随伴性形成行動と言われている。随伴性形成行動とはヒト以外の動物にも認められる学習形式であり、学習過程が意識される必要はない(体験による学習)。つまり、知らないうちに身に付けてしまう(例:悪習慣
ルール支配行動とは言葉を用いる人間にのみ認められる学習形式であり、反応強化子随伴性がなくても、随意行動が維持される(言葉による学習)。つまり直後に良い結果がなくてもやり続けることができる。例として講義を聞き続けられるなど(直後に良い事はないが将来的に役立つ可能性があると思い聞き続けている)。そのため、ルール支配行動のCはDを基本的に含んでいる
ルールとは行動の強化随伴性を記述した言語刺激だと定義されている。つまり、ABCの結びつきを記述した言語刺激(文章)のことである。例として教室に座って講義を聞くと理解が深まるということを理解しているので聞き続けられる。自分の問題をどのように理解しているかがルールであり、確立操作として機能することが非常に多い(弁別刺激の場合もある)
ルール支配行動はスキナー(行動分析学を始めた臨床心理学者)が形式化した行動の学習形式だが、なぜ可能なのかスキナー自身が説明できなかった。理由は、スキナーの言語行動は行動の形態と機能のみで説明していたからである。それに対して、関係フレーム理論の言語行動(刺激と刺激を結び付けてその刺激が持っている機能を変える行動のこと)は行動の機能のみでは説明できない象徴性(=言葉自体が意味を持っている)や生成性(=一を聞いて十を知る)という顕著な特徴があり、説明が可能となる。



4. 機能分析

機能分析(ABC分析)とは、問題行動(ターゲット行動)の維持要因を、行動の連鎖に沿って明確化するアセスメント法のことを言う。そして、臨床行動分析では、認知の問題も組み込んでアセスメントをしていくのが特徴となる。機能分析は、外来レベルだと患者さんを観察できないので、話を聞いて仮説を立てる。仮説が正しいのか記録してきてもらう。それが機能分析シートである(下記参照)


持ってきてもらった機能分析シートをみて、一緒に上記青枠のように整理していくのが重要となる。このようにして機能分析を完成させていく。
また、問題ごとに機能分析をすることもできる。どの問題を取り上げて機能分析をするのか、どこに介入のターゲットを置くのかで変わってくる。上記でいうと、マリファナを吸うというところをターゲットにするのか、対人場面での緊張で上手く行動が出来ないところをターゲットとするのかで変わってくる。ここは良く考えないといけない。
行動クラスとは行動の形は違うが機能は同じであることをまとめたグループのことを言う。上記でいうと、会議の提案で不安になる時、マリファナを吸う、同僚に頼んで自分は逃げる、早退するなど色々な行動の形があり、それぞれ全く違う行動だが「会議の提案を回避する」という共通した機能を持っている。これらは行動クラスとしてまとめることができる。行動クラスとしてまとめられるものは介入のターゲットとして一緒に介入が可能となる。
ABCDE分析の介入ポイントは下記となる。




5. 臨床行動分析や行動活性化療法が注目されたきっかけ

臨床行動分析や行動活性化療法が注目されたきっかけはワシントン大学のNSジェイコブソンが発表した1996年RCTとなる。150人の大うつ病患者を対象に認知療法(CT)の構成要素分析(どの構成要素が効果が高いのかを調べること)を行った。具体的には、患者さんを

  1. 活動スケジュール法(1週間の活動計画を立てて計画に沿って行動する。その後、達成感や喜び等を記録していく方法)のみ
  2. 活動スケジュール+自動思考の修正を加えたもの
  3. フルパッケージ(活動スケジュール+自動思考の修正+中核信念の修正)

の3グループに分けて比較した。結果、1,2,3に差がなかった。つまり活動スケジュール法に効果がある可能性が出てきた。
そして、2年後のフォローアップ研究である1998年のワシントン大学のETゴートナーの研究では、再発率を調べたが1,2,3に差がなかった
これらから行動療法的な介入に関心が高まった。結果、行動分析理論に基づく行動活性化療法が発展していった。



6. 行動活性化療法(BA)

行動活性化療法(BA)とは、活動スケジュール法+機能分析の観点を大幅に加えて構成された治療法の事を言う。正の強化が随伴する行動を増やし、負の強化が随伴する回避行動を減らすように介入していく。つまり、良い行動を増やし、悪い行動を減らしていく。行動活性化療法はやり方がシンプルなため、治療者・クライアントの双方にとっても使いやすい可能性がある。
行動分析理論に基づくうつ病の理解は、

  1. 学習性無力感によるうつの発症と維持(何をやってもダメだしされるような環境だとうつの発症や維持が多くなること。罰が多い環境だとうつが起きやすいということ)
  2. 正の強化が足りないためにうつ病が発症して維持する(何かをしても楽しい・良い結果が出てこない、行動に対してプラスの結果がでないとうつが起きやすくなる。又は、行動自体が減っていると正の強化を得る機会が減っているので元気が出るチャンスがない)
  3. 負の強化が大きくなることによってうつ病が発症、維持される(これ以上嫌な思いをしたくない。だから家に閉じこもるなど)

の3つがある。
そして、活動スケジュール法は正の強化に注目しているが、行動活性化療法は正の強化だけでなく、負の強化にも注目している。また、薬物療法や認知的介入は内側から外側へ働きかけるが、行動活性化療法は外側から内側へ働きかけるという違いがある。
行動活性化セラピストにとって、クライアントが口にする最悪の言葉は、「やる気が出てくれば…」である。うつ病の患者はこの言葉をよく使うがそういう時は決してこない。理由は自分で何かをやってみて楽しい事があると元気が出てくるため。クライアントの気持ちの変わるのを待っている間は、現在の状況は前進しそうにない。これが行動活性化療法のアクセプタンス(不快な私的出来事(思考・感情・身体感覚・記憶など)に気づき、そのままにしておく)の概念である。
行動活性化療法やACTは機能的文脈主義(≒徹底的行動主義)に基づいた介入法である。また、反芻思考も回避とみなし、体験への注意技法(≒マインドフルネス)で介入していく。
行動活性化療法は活動記録表を使う活動記録表をダウンロードしたい方はこちらをクリック又はタップしてください)。活動スケジュール法だけでも良くなるケースは多いが、ダメだったら機能分析で焦点を絞ると良い。その際は、機能分析で得た問題に沿って介入をしていく。介入方法としては、

  • 刺激コントロール(環境に問題があったら環境を調整するなど)
  • スキルトレーニングSSTやロールプレイを行うなど)
  • 随伴性マネージメント(家族に承認や褒めることを協力してもらう、心の貯金をしてあげるなど)
  • 私的な結果の問題(頭の中で怖い結果を想像して動けない状態のこと。うつの人に非常に多い)に対しては行動活性化療法が効果がある

を行っていく。



7. 行動活性化療法の効果

行動活性化療法の効果が明らかになった研究として、ワシントン大学のソナ・ディミジアンの2006年RCTがある。大うつ病の成人241人を対象に、

  1. 認知療法(CT)
  2. 行動活性化療法(BA)
  3. 抗うつ薬(ADM)
  4. プラセボ

の4グループに分けて治療を行った。
結果、治療の最後まで残った人は、

  1. 認知療法:45人→39人
  2. 行動活性化療法:43人→36人
  3. 抗うつ薬:100人→56人(副作用の為多い)
  4. プラセボ:53人→41人

だった。
また、軽いうつ病患者は1認知療法2行動活性化療法3抗うつ薬に違いはなく皆良くなっていった。しかし、重度のうつ病患者は2行動活性化療法と3抗うつ薬の効果が同等で1認知療法の効果を大幅に上回っていた
具体的な重度のうつ病患者に対してのそれぞれの効果量は、BDI(ベックうつ病尺度:自己記入式のうつ病評価尺度)の場合、

  • 2行動活性化療法BAと1認知療法CT:d=0.87
  • 3抗うつ薬ADMと1認知療法CT:d=0.96

だった。
HRSDハミルトンうつ病評価尺度:面接式のうつ病評価尺度)の場合、

  • 2行動活性化療法BAと1認知療法CT:d=0.59
  • 3抗うつ薬ADMと1認知療法CT:d=0.51

だった。
他にも、

  • BDIに基づく50%反応率(≒うつ症状の改善率)は2行動活性化療法BAが1認知療法CT、3抗うつ薬ADMよりも大きかった。
  • BDIでは16週後、まだうつ病が重症であった人は1認知療法CT=28%3抗うつ薬ADM=2%2行動活性化療法BA=0%だった。
  • HRSDに基づく寛解率(症状がほぼ治まった状態)では2行動活性化療法BAが3抗うつ薬ADMよりも大きかった。

以上から、3抗うつ薬ADMは脱落者が多い、重度のうつ病患者には1認知療法CTはやや効果が小さい、どれぐらい良くなるか50%反応率・寛解率をみると3抗うつ薬ADMよりも2行動活性化療法BAの方が効果が高い、ということがこの研究から言える。



個人的考察

以上、「臨床行動分析と行動活性化療法」でした…!
是非、自分や支援で実践し、結果を実践報告書にまとめてみてください。



実践報告書の見本とフォーマットのダウンロードはこちらから…!

実践報告書の見本のPDFとフォーマットのPDF・Wordデータは下記からダウンロードできます。
もし、自分の事業所で使いたい…!って方はご活用ください。


参考文献

https://www.youtube.com/watch?v=14IOnwB52_U&t
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT10.pdf
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8871414/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9583341/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16881773/
https://www.sannoclinic.jp/bdi.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E8%A9%95%E4%BE%A1%E5%B0%BA%E5%BA%A6
クリストファー・R・マーテル,ミッシェル・E・アディス,ニール・S・ジェイコブソン,熊野宏昭,鈴木伸一(2011)「うつ病の行動活性化療法 新世代の認知行動療法によるブレイクスルー」日本評論社