これまで様々なBDNFの記事を書いてきております当ブログ。
具体的には、


って感じで、結構ご紹介してきたんですよね。でも、なぜこんなにBDNFについてご紹介したり、掘り下げてきたのかイマイチ書いていなかったことに最近気づきまして…。
ということで今回は、障がいとBDNFの関係について見ていきたいと思います。



うつ病患者さんのBDNFレベルは低い…!症状が重い程、BDNFレベルはもっと低い…!

2002年のジュネーブ大学病院の研究によると、大うつ病患者さんのBDNFレベルを調べてみたそうです。
そもそも動物実験により、うつ病とBDNFは関係しているっぽいってのは分かっているけど、人間だとどうなのかは分からなかったんですよね。そこで調べてみたのが今回の研究になります。
まず研究者たちは、DSM-IVに従って診断された重度のうつ病患者さんと健康な方に参加の協力をお願いしたらしい。結果、

  1. 重度のうつ病患者さん:平均年齢36±8歳(24~57歳の範囲)の30名(男性15名、女性15名)が参加してくれた
  2. 健康な方:平均年齢38±9歳(24~58歳の範囲)の30名(男性15名、女性15名)が参加してくれた

そうな。
方法は至って単純で、採血をして血清BDNFをチェックすると言うものだったみたい。
併せて、うつ病の重症度はモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS) を用いて評価したんだとか。
結果、

  • 重度のうつ病患者さんのBDNFレベルは、22.6±3ng/mlだった…!
  • 健康な方のBDNFレベルは、26.5±7ng/mlだった…!
  • つまり、重度のうつ病患者さんのBDNFレベルは健康な方よりも、明らかに低かった…!
  • この結果は、MADRSスコアと負の相関関係(-0.55)があった(=うつ病の症状が重ければ重い程、BDNFレベルが低かった
  • 女性の患者さんは男性よりもうつ病が多く、また、BDNFレベルも低い傾向にあった…!
  • 重度のうつ病患者さんの中に30ng/mlを超えるBDNFレベルを持つ人はいなかった…!

とのこと。
これらの結果から研究者曰く、

  • 大うつ病は血清BDNFレベルの低下を起こす可能性があり、感情障害にBDNFが関係しているという仮説を裏付けている

としています。



うつ病の方はBDNFレベルが低い…!抗うつ薬でBDNFレベルがアップした…!

2008年のピサ大学の研究によると、抗うつ薬で治療中のうつ病患者さんを対象にうつ症状の度合いとBDNFレベルの関係について調べてみたそうです。
この研究は、薬物治療を受けていないうつ病患者さん15人と健康な方15人を比較したものでして、実験スタート時と抗うつ薬の治療開始の1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後にBDNFレベルをチェックしてみたそうな。
結果、以下のようになったとのこと。

  • 実験スタート時のうつ病患者さんの血清BDNFレベル血漿BDNFレベルは健康な方よりも明らかに低かった…!
  • 1ヶ月後以降、うつ病患者さんの血漿BDNFレベルは健康な方と同じぐらいになった…!
  • 但し1ヶ月後以降も、うつ病患者さんの血清BDNFレベルは健康な方よりも常に低いままだった…!

つまり、因果関係は不明(うつ病でBDNFが下がるのか、BDNFが下がるとうつ病になるのか)ながら、うつ病とBDNFレベルの低さは関係あるってことですね。また抗うつ薬でBDNFレベルがアップしており、これが抗うつ薬がうつ病に効くという理由なのかもしれないって感じですな。
サンプル数は少ないですが、参考にはなりますねー。



動物実験でもヒトでも結果は同じ…!やはり大うつ病とBDNFレベルは関係あり抗うつ薬でBDNFレベルがアップする…!そしてこの効果は4~8週間が一つの基準になりそう…!更に希死念慮も関係ありそう…!

2010年の高麗大学校の研究によると、大うつ病患者さんにおける抗うつ薬とBDNFの関係についてレビューしてみたそうです。
まず動物実験での研究を見返してみるとこのようになっていたそうです。

  • 動物実験では、様々なストレスによってBDNFの発現が低下していた…!
  • 例えば、慢性ストレス、足にショックを与えるストレス、社会的ストレス、家族によるストレスなどいずれのストレス原因でも海馬、特に歯状回におけるBDNFの発現が大幅にダウンしていた…!
  • SSRIやSNRIなどの抗うつ薬は脳内のBDNF発現をアップさせていた…!
  • 経頭蓋磁気刺激治療(TMS)をげっ歯類に行うと脳内のBDNF発現がアップした…!
  • 抗うつ薬を21日間続けた場合、前頭前野のBDNFレベルが10~30%アップしていた…!

ざっくりまとめると動物実験で、ストレス→脳内BDNFレベルが低下→抗うつ薬→脳内BDNFレベルが増える(元に戻る)って感じですね。
では続きまして、ヒトだとどうなのか見ていきましょう。

  • ヒトの場合も動物実験のデータと一致した結果が出ていた…!
  • 大うつ病患者さんのBDNFレベルは健康な方よりも大幅に低かった…!
  • うつ症状が重度になればなるほど、BDNFレベルがよりはっきりと低かった…!
  • うつ病が再発した大うつ病患者さんは初めて発症した患者さんよりもBDNFレベルがはるかに低かった…!
  • ほとんどの研究では、大うつ病患者さんが抗うつ薬で治療するとBDNFレベルがアップしていた…!
  • 大うつ病患者さんがSSRIとSNRIの両方を使って8週間の治療をするとBDNFレベルがアップしていた…!
  • しかし別の研究ではSSRIを使って6ヶ月後、BDNFレベルはアップしていたがSNRIでは6ヶ月後もBDNFレベルは変わらなかった…!
  • 但し追試によると、大うつ病患者さんが抗うつ薬を6週間又は8週間使うとBDNFレベルがアップしていた…!
  • 2008年のベレンソン・アレン非侵襲脳刺激センター系統的レビュー・メタ分析によると、BDNFの変化や治療効果を評価するには4~8週間の抗うつ薬治療が必要とされていた。そのため上記結果から血清BDNFレベル又は血漿BDNFレベルは、大うつ病患者さんの神経ネットワークの状態を反映している可能性があると言える…!

ということで、やはり大うつ病とBDNFレベルは関係ありそうですし、抗うつ薬→BDNFレベルアップ(回復)→症状改善…!という流れもありそうですね。また、この効果は4~8週間(1,2か月)が一つの基準になりそうです。
因みにこの研究では、死にたいって衝動(希死念慮・自殺願望)とBDNFの関係もレビューしていまして、

  • 自殺した大うつ病患者さんの脳内BDNFをチェックしてみると、発現レベルが低下していた…!
  • 自殺未遂をした大うつ病患者さんは健康な方よりも血清BDNFレベルが低かった…!
  • 希死念慮のある大うつ病患者さんはそうでない患者さんよりも血漿BDNFレベルが明らかに低かった…!

ってことで、こちらについてもBDNFは関係ありそうです。



系統的レビュー・メタ分析でも結果は同じ…!やはり大うつ病患者さんのBDNF低下はSSRIやSNRIで改善しそう…!

2017年の重慶医科大学メタ分析によると、大うつ病患者さんのBDNFレベルに対する抗うつ薬の効果について系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
まず研究者たちは、1980年~2016年6月までに発表された大うつ病患者さんとBDNFレベル、抗うつ薬の先行研究をPubMedやEmbase、Cochrane Library、Web of Science、PsycINFOで検索して見たそうな。因みにヒトを対象とした研究に絞って行ったとのこと。すると206件の研究がヒットしたそうで、続いて重複している研究などを精査、最終的には20件の研究をピックアップしたらしい。
この20件の研究をまとめてみた結果、以下のようになったそうです。


ということで大うつ病患者さんのBDNF低下は、SSRIやSNRIで改善する可能性がありそうですね。



直接BDNFを増やしたらどうなのか…?

これまでの研究で、

  1. うつ病の人は脳内のBDNFレベルが低下している
  2. 抗うつ薬を使うと脳内のBDNFレベルが増える(元に戻る)

って流れが分かりました。ここで疑問なのが直接BDNFを増やしたらどうなのか…?ってこと。つまりBDNFレベルが原因なら、別に抗うつ薬に頼らなくても良いんじゃないかと。
そこで参考にしたいのが1997年のリジェネロン・ファーマシューティカルズの研究になります。この研究はBDNFを直接投与した場合、抗うつ薬のような効果が出るのか調べたんですよね。
実験はラットを使った動物実験でして、ラットにわざとストレスを与えつつ、学習性無力感を感じるようにしてみたんだとか。その後、脳内に直接BDNFを注入(1日に12~24μg)してみたらしい。
すると、

  • ラットの脳内に直接BDNFを注入しても抗うつ薬のような効果が生じた…!

そうです。
こうなってくるとSSRIやSNRIがうつ病に効く理由の一つはBDNFアップ効果であり、そしてBDNFさえアップできれば抗うつ薬に似た効果を得ることも可能かもしれないってことですねー。素晴らしい。


以上からうつ病はBDNFレベルの低下が原因の可能性も出てきますよね。ともなれば運動がうつ症状改善に効果アリ…!ってのも単にストレス解消ってだけでなく、BDNFの増加も関係しているのかもしれませんな。やっぱ運動って最強じゃないかな…。



統合失調症とBDNFの関係を調べてみた…!

2002年の新潟大学の研究によると、統合失調症とBDNFの関係について調べてみたそうです。
この研究は健康な方と統合失調症の患者さんから採血を行い、BDNFレベルをチェックしたというものでして、1回目の実験では、

  1. 健康な方:35名
  2. 統合失調症の患者さん:34名

が参加したとのこと。
続いて2回目の実験では上記の方々とは別で、

  1. 健康な方:27名
  2. 統合失調症の患者さん:34名

が参加したそうです。
結果、

  • 統合失調症の患者さんの血清BDNFレベルは健康な方に比べ55%も低下していた…!

とのこと。



統合失調症とBDNF、GDNF、NGF、Klothoの関係について調べてみた…!

2021年のサカリヤ大学の研究によると、統合失調症とBDNF(脳由来神経栄養因子)やGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、NGF(神経成長因子)、Klotho(抗老化ホルモン)の関係について調べてみたそうです。
そもそも統合失調症ってのは、妄想や幻覚といった陽性症状と感情が鈍くなる、社会とのつながりが面倒になる、うつ症状といった陰性症状がありまして、その結果、学習や記憶力、注意力、実行機能ワーキングメモリなどの多くの認知機能の低下が伴います。
そして統合失調症の発症の原因の一つが神経可塑性の低下です。神経可塑性(しんけいかそせい)とは、ストレスがかかった時に元に戻ろうとする力のことで、例えば心というゴムボールをストレスという力でへこませてもある程度なら戻る感じですな。しかしあまりにも強い力(ストレス)で押したり、ずーっと押し続けると(慢性ストレス)、へこんだまま戻らなくなってしまいます。また、ゴムボールの柔軟性がなくなり固くなった場合も押しても元に戻りづらくなります。そんな元に戻りづらくなることが神経可塑性の低下であり統合失調症なんですよね。
この辺については以前に熊野先生が分かりやすく例えていたのをご紹介していますので気になる方は以下の記事の「個人的考察」をご覧ください。


話しを戻しまして、この研究では、そんな統合失調症の患者さんと健康な方を対象にBDNFレベルなどをチェックしてみたそうな。
まず研究者たちはサカリヤ大学病院の精神科に入院している統合失調症の患者さんに協力を依頼。続いて統合失調症の患者さんと同じぐらいの年齢や学歴になるよう健康な方の協力者を募ったらしい。また、ホルモンや性別による変数を避けるため、男性のみを対象としたんだとか。
結果、18~65歳までの統合失調症の患者さん42名と健康な方43名(統合失調症の患者さんの平均年齢は37.47±10.72歳、健康な方の平均年齢は36.27±10.14歳)が参加したとのこと。
流れとしましては、実験開始1日目と最終日の20日目に統合失調症の症状や認知機能をチェックしつつ、採血を行ったみたいで、実験期間中に統合失調症の患者さんは通常の治療(薬物治療)を受けてもらったそうです。
因みに統合失調症の症状や認知機能をチェックは以下を用いたんだとか。

  • PANSS(陽性および陰性症状尺度):統合失調症や他の精神障害の陽性症状と陰性症状のチェックと重症度を評価するスケール。30個の質問を7段階で答えていく。
  • CGI(臨床全体印象尺度):様々な年齢層の全ての精神障害の経過を評価するスケール。症状の重症度や副作用の改善・重症度なんかもチェックする。
  • GAF(一般機能評価尺度):心理的機能、社会的機能、職業的機能を評価するスケール。現在や過去について1~100のスコアを与えてお医者さんがチェックしていく。
  • BPRS(簡易精神医学評価尺度):統合失調症と精神障害の症状と重症度、その変化を評価するスケール。18個の質問を0~6段階でチェックし合計点で重症度を見る。因みに15~20点は軽度、30点以上は重度となる。
  • ウエクスラー記憶検査III・視覚生成サブテスト:記憶力と視覚学習の認知評価するスケール。最高スコアは14とのこと。
  • ストループテスト:注意力の認知評価するスケール。文字に色がついておりその色を声に出して出来るだけ早く読んでいく。

最後にデータを統計処理した結果、

  • 統合失調症の患者さんの1日目の平均BDNFレベルは1.28±1.93ng/mlだった。
  • 統合失調症の患者さんの20日目の平均BDNFレベルは1.81±2.91ng/mlだった。
  • つまり統合失調症の患者さんが薬物治療を受けると、BDNFレベルが統計的に有意にアップした…!
  • 健康な方の1日目の平均BDNFレベルは5.01±4.60ng/mlだった。
  • つまり健康な方のBDNFレベルは治療前の統合失調症の患者さんよりも4倍近く高かった…!
  • また健康な方のBDNFレベルは治療後(20日目)の統合失調症の患者さんよりも1.7倍近く高かった…!
  • 健康な方は統合失調症の患者さんよりもBDNF、GDNF、NGF、Klothoレベルが全て高かった…!

とのこと。
やっぱり統合失調症の方はBDNFレベルが低く、薬物治療によってそれらが改善していくみたいですねー。それでも健康な方同様のレベルまで行くのは難しいみたいですが…。



統合失調症とBDNFレベルの関係をメタ分析・系統的レビューしてみた…!

2011年のニューサウスウェールズ大学の研究によると、統合失調症とBDNFレベルの関係についてメタ分析・系統的レビューを行ってみたそうです。
まず研究者たちは、統合失調症の患者さんと健康な方のBDNFレベルを比べた先行研究をMEDLINEとEmbaseを用いて検索して見たそうな。結果、378件の研究がヒットしたとのこと。続いて統合失調症の患者さんと健康な方のBDNFレベルを比較していない研究や質の低い研究を除外していったそうで最終的には、16件の研究が基準を満たしていたらしい。
この16件の研究をメタ分析にかけつつ、系統的レビューとしてまとめたとのことで結果はこのようになっておりました。

  • 統合失調症の患者さんのBDNFレベルが低下する…!という話は、中程度のエビデンスがあった…!
  • 薬物治療を受けていない統合失調症の患者さんと薬物治療を受けている統合失調症の患者さんをチェックしてみると、男女ともBDNFレベルが低下していた…!
  • 統合失調症におけるBDNFレベルの低下と年齢の増加は関係があったが、薬剤投与量は関係なかった…!

う~ん。どうやらうつ病同様、統合失調症でもBDNFレベルは低くなっていたみたいですねー。但し、薬の影響がこれに関係なかったってのは意外ですな。



統合失調症・双極性障害・統合失調感情障害はBDNFと関係あるのか…?

2022年のオックスフォード大学などの研究によると、統合失調症・双極性障害(躁うつ病)・統合失調感情障害とBDNF・認知機能の関係について系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
まず統合失調症・双極性障害・統合失調感情障害ってのを軽く復習しておきますと、

  • 統合失調症:陽性症状(妄想や幻覚)と陰性症状(感情が鈍くなる、社会とのつながりが面倒になる、うつ症状)、認知機能の低下を伴う精神疾患
  • 双極性障害:躁状態(ハイな状態)とうつ状態(憂鬱な状態)がジェットコースターのように上がったり下がったりする精神疾患
  • 統合失調感情障害:統合失調症と双極性障害の両方の性質・症状を備えた精神疾患

って感じ。
んで、これら3つの精神疾患を持っている患者さんと健康な方とでBDNFレベルや認知機能に違いが出るのかを調べたのが今回の研究になります。
まず研究者たちは2000年1月1日から2021年6月1日までの間に発表された査読済み論文をEmbaseとMEDLINEで検索して見たそうな。結果815件の研究がヒットしたとのこと。続いて対照群が存在しなかったり、質の低い研究を除外していったそうで、最終的に基準を満たしていた論文は32件だったらしい。この32件で系統的レビューを行ってみたそうです。因みに32件のサンプル数は、

  • 統合失調症の患者さん:4,754人
  • 双極性障害の患者さん:476人
  • 対照群(健康な方):3,526人

といった形でエビデンスレベルは中くらいのものが多かったそうな。またランダム化された研究はわずかしかなかったそうでこの辺は、まぁ、仕方ないですね。
因みにメタ分析は32件からさらに絞った24件で行われておりまして、統合失調症の患者さんに関する研究が19件、双極性障害の患者さんに関する研究5件といった感じだったそうです。
それでは系統的レビューとメタ分析の結果のポイントを確認していきましょう…!

  • 血漿BDNFレベルは9件の研究でチェックしていた。
  • 血清BDNFレベルは23件の研究でチェックしていた。
  • 患者さんと健康な方を比較した25件の研究(統合失調症の患者さん21件、双極性障害の患者さん4件)で統計的な有意差が見られた…!
  • 24件の研究で患者さんの方が健康な方よりもBDNFレベルが低下していた…!
  • 効果量は15件の研究(統合失調症の患者さん14件、双極性障害の患者さん1件)が大程度の効果量、5件の研究が中程度の効果量、11件の研究が小程度の効果量だった…!
  • 統合失調症の患者さん2,970人と健康な方1,920人を比較した研究19件をメタ分析にかけてみたところ、統合失調症の患者さんは健康な方よりもBDNFレベルが中程度に低下していた…!
  • 双極性障害の患者さん392人と健康な方293人を比較した研究5件をメタ分析にかけてみたところ、双極性障害の患者さんは健康な方よりもBDNFレベルがわずかに低下していた…!
  • 認知機能の評価は研究によって異なっていたが、ほぼ全ての研究(32件中29件)で、患者さんと健康な方との間には有意差があった(患者さんはいくつかの認知機能が低下していた)
  • 統合失調症の患者さんは健康な方よりも認知機能が低下していた…!
  • 統合失調症の患者さん871人と健康な方610人を比較した研究5件をメタ分析にかけてみたところ、統合失調症の患者さんは健康な方よりも認知テスト(RBANS)の成績が大幅に低かった…!
  • 双極性障害の患者さんは、全ての状態(躁状態、うつ状態、正常な状態)で、認知機能が低下していた…!
  • 双極性障害の患者さんを対象としたメタ分析はデータがバラバラでできなかった。
  • ほとんどの研究(19件)で患者さんのBDNFレベルと認知機能には有意な相関関係がある…!と示されていた…!
  • 但し、BDNFレベルと認知機能の関係は無視できるレベル~低いレベルの正の相関関係しかなく、中程度の相関関係があったのは3件の研究のみだった…!
  • 32件中4件の研究で、統合失調症の患者さんを対象に治療前後のBDNFレベルと認知機能の変化をみていた。介入、特に薬物治療は認知機能を改善し、BDNFレベルを増加させていた…!

ざっくりいうなら、統合失調症・双極性障害・統合失調感情障害の全てでBDNFレベルは低下していたし、認知機能も低下していたみたい。また、これらが薬物治療で改善されていたってことで、従来の結果通りですな。但し、BDNFレベルと認知機能の関係は無視できるレベル・小~中程度しかなかったみたいでして、研究者も、

  • 精神疾患だけでBDNFレベルが変化しているんじゃなくて、慢性ストレスや免疫異常、慢性炎症とかいろんな要素が考えられるんじゃないかな~?

ってことでした。
原因は一つってわけじゃなく、複雑に絡み合った結果の可能性がありそうですね。



統合失調症と統合失調感情障害の患者さんのBDNFレベルの間に統計的な有意差はないが、どちらもBDNFレベルが低くなればなるほど症状も重くなる…!

2022年のカリアリ大学などの研究によると、統合失調症と統合失調感情障害がBDNFと関係あるのか調べてみたそうです。
そもそも先行研究なんかを見てみると、


って感じで、関係はありそうだったんですよね。
そこで研究者たちは、BDNFレベルと様々な要素との関係性とBDNF遺伝子の影響を見てみたらしい。また、統合失調症の患者さんと統合失調感情障害の患者さんとではBDNFレベルに違いがあるのかも比べてみたんだとか。
今回、実験に参加したのは統合失調症と診断されている64名と統合失調感情障害と診断されている41名でして、合計サンプル数は105名、平均年齢は48.85±10.45歳だったとのこと。
んでこの105名の方々の症状の重さや社会的機能、QOL(生活の質)、認知機能なんかを測定し評価してみたそうな。更に採血を行い、血清BDNFレベルをチェックしたり、BDNFの遺伝子も解析してみたらしい。
最後に集まったデータを統計処理した結果、統合失調症と統合失調感情障害の患者さんは、

  • BDNFレベルが低い人ほど、症状も重かった…!
  • BDNFレベルが高い人ほど、認知機能(特に言語)のパフォーマンスが高かった…!

とのこと。
またBDNFの遺伝子解析の結果については、

  • 血清BDNFレベルの統計的な有意差は見つからなかった…!

とのこと。
こちらは関係なさそうですねー。
最後に統合失調症と統合失調感情障害の患者さんのBDNFレベルの違いもチェックしたんですが、

  • 統合失調症と統合失調感情障害の患者さんのBDNFレベルの間に統計的な有意差はなかった…!

そうです。
統合失調感情障害は統合失調症+双極性障害の症状があるものの、BDNFレベルに関しては統合失調症の患者さんと違いはなかったみたいですね。但し、どちらもBDNFレベルが低下しているのは間違いないと。

ということで、統合失調症・双極性障害・統合失調感情障害とBDNFは関係ありそうな感じ。そして共通点はBDNFレベルが低い事、低くなればなるほど症状が重症化しているということです。なんで因果関係はまだよく分かりませんが、症状改善の為にも、是非運動等でBDNFレベルをアップさせていきたいですねー。



摂食障害の場合もBDNFレベルが低い…!

2003年の千葉大学の研究によると、摂食障害とBDNFの関係について調べてみたそうです。
そもそも摂食障害は、過食症(食べ過ぎ)と拒食症(食べられなくなる)という症状がありまして、一般的に女性に多い病気とされております。また、生涯発症率は約3%と言われておりまして、思春期に発症することが多く、その原因は、

  • 過度な体重へのこだわり
  • 過度な体型へのこだわり
  • 過度な自己評価

ってのがございます。
更に摂食障害になると、食べ過ぎてしまう、食べられなくなる、食べても吐いてしまうって症状の他にも

  • 抑うつ状態になる
  • 不安感に襲われる
  • 強迫観念に捕らわれる

ってことが良くあるそうな。
そんな摂食障害がBDNFレベルと関係あるんじゃないか…?ってのを調べたのが今回の研究です。まず研究者たちは実験に参加してくれる人たちを募集、続いて参加者を以下の3グループに振り分けたそうな。

  1. 過食症グループ:過食症の女性患者さん18名。平均年齢は21.6歳で範囲は16~34歳とのこと。
  2. 拒食症グループ:拒食症の女性患者さん12名。平均年齢は19.6歳で範囲は14~34歳とのこと。
  3. コントロールグループ:健康な参加者21名。平均年齢21.3 歳で範囲は20~25歳とのこと。

因みに摂食障害の方のメンタルの状態についてはハミルトンうつ病評価尺度なんかを使ってチェックしたそうな。またBDNFレベルについては採血でチェックしたとのこと。
結果は、

  • 過食症と拒食症の患者さんの血清BDNFレベルは、健康な方に比べて明らかに低下していた…!
  • 拒食症患者さんの血清BDNFレベルは、過食症患者さんに比べて明らかに低下していた…!

とのこと。
BDNFレベルは、健康な方>過食症>拒食症って順だったみたいですね。因果関係は分かりませんが摂食障害もBDNFは関係ありそうですな。
因みに摂食障害はセルフコンパッションが有効そうなんで気になる方は見てみるとよろしいかもしれません。



アルツハイマー病もBDNFと関係していそう…!

1997年のオークランド大学の研究によると、アルツハイマー病とBDNFの関係について調べてみたそうです。
この研究は亡くなった健康な8名の方とアルツハイマー病の患者さん9名を対象にしたもので、海馬と側頭葉のBDNFレベルをチェックしてみたらしい。
結果、

  • アルツハイマー病の患者さんは健康な方に比べて、海馬と側頭葉のBDNFレベルが減少していた…!

とのこと。
アルツハイマー病はアミロイドβの蓄積なんかが原因といわれておりますが、BDNFも関係しているのかもしれませんね~。



パーキンソン病もBDNFと関係していそう…!

1999年のサルペトリエール病院の研究によると、パーキンソン病とBDNFの関係について調べてみたそうです。
BDNFは傷ついた中脳を修復する作用がありますので、パーキンソン病と関係あるのでは…?と思ったみたいですね。
実験は亡くなったパーキンソン病の患者さんと健康な方の中脳をチェックしたもので、早速ポイントを見てみますと、

  • パーキンソン病の患者さんは健康な方に比べ、BDNF発現が約2.5倍も低かった…!

とのこと。
パーキンソン病もBDNFは関係ありそうですね。

アルツハイマー病やパーキンソン病もBDNFは関わっていそうな感じ。
やはり脳の病気とBDNFは関係が強そうですねー。



自閉スペクトラム症(ASD:自閉症スペクトラム障害)の場合は、子ども時代にBDNFレベルが高く、大人になると普通レベルになる…!

まず研究者たちは、2016年2月までに発表された自閉スペクトラム症とBDNFの研究をPubMedやEmbase、コクランライブラリーで検索してみたそうな。すると205件もの研究がヒットしたとのこと。続いてこの中から、重複している研究や質の低い研究を除外していったそうで、最終的には14件の研究が基準を満たしていたらしい。
この14件の研究の内訳ですが、

  • アメリカの研究3件
  • 中国の研究3件
  • 日本の研究3件
  • デンマークの研究1件
  • アイルランドの研究1件
  • サウジアラビアの研究1件
  • インドの研究1件
  • イタリアの研究1件

って感じで、割と様々な国や地域から選ばれておりました。日本も含まれているのが嬉しいですね。
また14件の研究の総サンプル数は2,707名でして、平均年齢の幅は0歳~22.2±2.2歳の範囲だったそうな。
では気になる結果をバーッと見ていきましょう。

  • 自閉スペクトラム症の方は健常者と比較して、BDNFレベルが高かった(標準化平均差(SMD)=0.63)…!
  • ただし、各研究によって、ばらつきが結構あった…!
  • サブグループの分析により、自閉スペクトラム症の方は健常者と比較して、血清BDNFレベル(SMD=0.58)、血漿BDNFレベル(SMD=1.27)ともに高かった…!

全体的にみると、ASDの方はBDNFレベルが高いみたいですね。
またこの研究では、子ども(小児期)の研究10件と大人(成人期)の研究4件を分けてメタ分析をしてくれておりまして、結果は、

  • ASDの子どもを対象とした研究では、健常者と比較して、依然とBDNFレベルが高かった(SMD=0.78)…!
  • しかし、ASDの大人を対象とした研究では、健常者と比較しても、BDNFレベルは変わらなかった(SMD=0.04)…!

とのこと。
どうやらASDの方は、子ども時代にBDNFレベルが高く、大人になると普通レベルになるみたいですね。

せっかくなんで、ここで使われている日本の研究3件も軽くご紹介しておきます。

  • 2006年の千葉大学の研究:自閉症の成人男性18人と同年齢の健常者成人男性18人のBDNFレベルを比べた。結果、自閉症の方の血清BDNFレベルは25.6±2.15ng/ml、健常者の方の血清BDNFレベルは61.6±10.9ng/mlと、自閉症の方の方が明らかに低かった。
  • 2007年の愛知県医療療育総合センター発達障害研究所の研究:自閉症の方と健常者の方の血清BDNFレベルが加齢によりどう変化するのか調べた。結果、概日変化(1日の中での変化)はあったが、季節的な変化はなかった。健常者の血清BDNFレベルは最初の数年間で増加、成人レベルに達するとわずかに減少した。0~9歳(小児)の時の自閉症の方の血清BDNFレベルは、10代や成人の自閉症の方や同年齢の健常者と比べて明らかに低かった。
  • 2004年の筑波大学の研究:自閉症の方18人と精神遅滞(知的障害)の方20人、健常者16人の血清BDNFレベルを比較したパイロット研究。結果、自閉症の方、精神遅滞(知的障害)の方は、健常者よりも血清BDNFレベルが高かった。

いずれも小規模研究ですが、これだけみても結果にばらつきがありますねー。



自閉スペクトラム症の子どもはBDNFレベルが高い…!

2016年の中国人民大学の研究によると、子どもの自閉スペクトラム症(ASD)とBDNFの関係について系統的レビュー・メタ分析を行ってみたそうです。
まず研究者たちは、2016年2月7日まで発表された自閉症とBDNFの査読済み論文をPubMedやPsycINFO、Web of Scienceで検索してみたそうな。結果、PubMedで166件、PsycINFOで105件、Web of Scienceで338件、参考文献リストから2件の研究が見つかったとのこと。続いて成人の研究や重複している研究を除外していったそうで、最終的に基準を満たしていたのは19件の研究だったそうです。この19件の総サンプル数は2,896名(ASDの子ども1,411名、健常者の子ども1,485名)でこれらのデータをメタ分析にかけてみたんだとか。
気になる結果は、

  • ASDの子どもは、健常者の子どもよりもBDNFレベルが明らかに高かった…!

とのこと。
やはり子ども時代はBDNFが高いみたいですねー。



全体的にみるとASDの方はBDNFが高い…!

2017年のテヘラン医科大学の研究によると、自閉スペクトラム症とBDNFレベルの関係について系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
まず研究者たちは自閉スペクトラム症とBDNFレベルの関係を調べた先行研究をデータベースで検索して見たそうな。すると183件もの研究がヒットしたそうです。次に基準を満たす研究かどうかを精査したそうで、最終的に20件の研究がピックアップされたとのこと。この20件をメタ分析にかけたということでした。
因みに20件の研究の総サンプル数ですが、自閉スペクトラム症の方が887人、対象者(健常者)の方が901人だったそうです。
結果は、

  • 自閉スペクトラム症の方は、対象者(健常者)の方に比べて、BDNFレベルが有意に高かった(SMD=0.47)…!

とのこと。
やはり全体的にみると、ASDの方はBDNFが高い傾向にあるみたいですねー。



ASDの子どもは、BDNFレベル・NGFレベル・VEGFレベルが高い…!

2021年の中国人民大学の研究によると、自閉スペクトラム症と神経栄養因子レベルの関係について、メタ分析を行ってみたそうです。
そもそも神経栄養因子の異常な調節が自閉スペクトラム症(ASD)の原因って話があるんですが、ASDの子どもの神経栄養因子レベルの研究結果って結構バラバラなんだとか。そのため、メタ分析を行い、大きな結論を出して見よう…!となったそうです。
まず研究者たちは、PubMedとWeb of Scienceっていうデータベースを用いて先行研究を検索しまくったそうです。すると、PubMedから545件、Web of Scienceから670件、関連研究の参考文献から2件、合計1,217件もの研究がヒットしたそうな。次に基準を満たす研究を精査していき、合計31件の研究をピックアップしたとのこと。この31件をメタ分析にかけたそうです。因みにASDの子どもが2,627人、対象者(健常者)が4,418人だったみたい。
では、結論を見ていきましょう。

  • 27件の研究をメタ分析にかけて、ASDの子ども2,380人と対照者(健常者)4,191人のBDNFレベルを比べてみた。結果、ASDの子どもは、対象者(健常者)に比べて、BDNFレベルが明らかに高かった…!
  • 3件の研究をメタ分析にかけて、ASDの子ども844人と対照者(健常者)2,460人のNGF(神経成長因子)レベルを比べてみた。結果、ASDの子どもは、対象者(健常者)に比べて、NGF(神経成長因子)レベルが明らかに高かった…!
  • 3件の研究をメタ分析にかけて、ASDの子ども844人と対照者(健常者)2,460人のVEGF(血管内皮細胞増殖因子:新たな血管を作るのを促すタンパク質)レベルを比べてみた。結果、ASDの子どもは、対象者(健常者)に比べて、VEGF(血管内皮細胞増殖因子:新たな血管を作るのを促すタンパク質)レベルが明らかに高かった…!
  • NT-3(ニューロトロフィン-3)レベルとNT-4(ニューロトロフィン-4)レベルに有意差はなかった。

ご紹介してきた系統的レビュー・メタ分析同様、こちらでもASDの子どものBDNFレベルは高かったようですね。また、他の神経栄養因子(NGF、VEGF)も高かったってのも気になりますな。

う~ん。これらをみていると、子どものASDは神経栄養因子の異常が原因だ説もありそうに思えてきますねー。



新生児の時点でのBDNFレベルからASDかどうかを判断するのはちょっと難しそう…?

自閉スペクトラム症(ASD)の子どものBDNFレベルがそうでない方よりも高いのであれば、新生児の時点でBDNFレベルをチェックしてASDと診断できる、つまりバイオマーカーとしてBDNFが使えるのか調べた研究を見てみましょう。
2021年の首都医科大学の研究によると、新生児のBDNFレベルと、自閉スペクトラム症の関係について調べてみたそうです。
まず研究者たちは、2020年9月16日までに発表されたBDNFレベルと自閉スペクトラム症の研究をMEDLINEとWeb of Scienceで検索したそうな。更にヒットした研究の参考文献もすべてチェックしていったとのこと。次にこの中から質の高い研究をピックアップしていったみたい。
最終的に基準を満たした研究は全部で5件だったそうで、これらを用いて系統的レビュー・メタ分析を行ったそうです。
結果、

  • 後に自閉スペクトラム症と診断された新生児とそうでない新生児との間にBDNFレベルの違いはなかった(SMD=0.261)…!
  • 但し、それぞれの研究の結果は、かなりバラバラだった…!

とのこと。
微妙な結果ですが、新生児の時点でのBDNFレベルからASDかどうかを判断するのはちょっと難しいっぽいですね。


自閉スペクトラム症(ASD)の遺伝的要素について、2015年のボストン小児病院とマサチューセッツ工科大学の研究なんかをみてみると、一卵性双生児のASDの一致率が二卵性双生児のASDの一致率よりも高いってことが実証されてまして、ゲノム解析でASDとの関係性がありそうな変異体も見つかっているみたいなんですよね。
ということはASDは遺伝の要素が高いってことになるんですが、一方で、2016年のカリフォルニア大学デービス校の研究によると、一卵性双生児と自閉症や関連疾患の一致率は100%未満らしく、これはASDが遺伝だけでなく、環境要因もあるんじゃないかともなっております。
こうなってくると、遺伝要因のASDと環境要因のASD、2つが合わさったASDという3つの可能性が出てくることになりますが、BDNFレベルの違いがこれら全てで出るのか、もしかしたら遺伝要因の場合のみ出るのかが気になりますね。ASDとBDNFレベルの先行研究結果がバラバラなのもここが原因だったりして…。
そうなると上記結果に書いた、それぞれの研究結果がバラバラってのも納得ですし、そうなると、今後の研究によっては覆ってくる分野なのかもしれませんな。



個人的考察

以上、障がいとBDNFについてでした。全部を見て思うのがやっぱBDNFは大事だよな~ってのと運動頑張ろう…ってことですかね。
私と同じようにBDNFが気になった方は合わせて、


参考文献