【まとめ】握力と健康・メンタルは関係あるのか?
握力と健康の関係についてアンブレラレビューを行ってみた…!
2020年のベズミアレム・ヴァクフ大学の研究によると、握力と健康の関係についてアンブレラレビューを行ってみたそうです。
そもそも握力は身体機能の指標として広く使われておりまして、例えば2016年のマクマスター大学の研究によると、握力テストでたった1回強く握ってもらうだけで、筋肉・筋力の総合的なパフォーマンスを評価することができるそうな。また1999年のイタリア国立衛生研究所の研究や1999年のアメリカ国立老化研究所の研究、2002年のユヴァスキュラ大学の研究、2005年のサクロクオーレカトリック大学の研究など様々な研究や臨床現場で握力は身体機能の指標として使われているらしい。
更に近年の研究では、この握力が様々な健康の指標としても使えるというんですよね。ただ、この時点では握力と様々な身体的健康・精神的健康との関係を包括的にガッツリチェックしたものがなかったそうです。そこで今回アンブレラレビューを用いて調べてみることにしたみたい。
まず研究者たちは、2019年11月20日までに発表された該当する研究をMEDLINE、Scopus、Embaseというデータベースで検索してみたそうな。すると合計504件の研究がヒットしたとのこと。次にヒットした研究を該当基準と除外基準に照らし合わせて精査したみたい。
最終的にピックアップできた研究は11件でして、メタ分析の研究数の中央値は8件(範囲は4件から34件の間)、サンプル数の中央値は23,064人(範囲は2,775人から1,855,817人の間)、症例数の中央値は1,823件ってことでした。
んでまず大きな結論から申しますと、
- 11件中9件で名目上有意な結果が出ていた
- 但しこの中に説得力のあるエビデンスを示す結果はなかった
って感じ。どうやらほぼ間違いないでしょう…!ぐらいのエビデンスレベルの物はなかったみたい。あらま残念。
んがしかし、以下の3つの関連性は非常に可能性のあるエビデンスレベルだったとのこと。
- 握力が強いと、一般集団における死亡リスクが28%(RR0.72)低かった…!
- 握力が強いと、糖尿病や一般集団、その他の集団などにおける心血管疾患(CVD)による死亡リスクが16%(RR0.84)低かった…!
- 握力が強いと、障害の発生リスクが24%(RR0.76)低かった…!
また、握力の強さと椅子からの立ち上がりパフォーマンスとの関連性には可能性のあるエビデンスがあったそう。やっぱ握力は健康指標として使えそうですね~。
まとめると、現時点では握力が強いと全死亡率が低下、心血管疾患による死亡率が低下、障害リスクが低下し、椅子からの立ち上がりパフォーマンスが高くなるみたい。
注意点としては、握力を鍛えれば健康になるという訳ではないと言うところですかね。健康な人の握力は高いことが多いってことなんで。
握力と認知機能の関係について調べてみた…!
2018年のウィーン医科大学の研究によると、握力と認知機能の関係について調べてみたそうです。
まず前提としてがんと認知障害ってのは関係がありそうでして、がん患者さんやがん生存者の方に良く見られる傾向なんですな。そこで今回研究者たちは、がん生存者における握力と認知機能の関係をチェックしてみることにしたんだとか。
この研究は、アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)っていうアメリカ国民の代表的な健康調査のデータセットを用いたもので、2011年~2012年と2013年~2014年のデータを使ったと言うもの。そのデータセットから、60歳以上のがん生存者における、握力や認知機能検査のスコア、がんの診断に関するデータなんかをチェックしたそうな。因みにがんと診断されたことがない人は除いたらしい。
最後に変数(年齢、性別、人種・民族、教育、婚姻、喫煙、うつ症状、身体活動)を調整して、握力と認知機能テストのスコアと比べてみたそうです。
では結果の前にサンプル情報をチェックしておきましょう。
- サンプル数:383人のがんサバイバー
- 男女比:女性58.5%
- 平均年齢:70.9歳
- 平均BMI:29.3kg
- 有病率の高いがん:乳がん(22.9%)、前立腺がん(16.4%)、結腸がん(6.9%)、子宮頸がん(6.2%)
それでは結果です。
- 男性では、逆U字型の関係性が見られ、握力が40kg~42kgで認知機能がピークに達していた…!
- 女性では、握力が強いほど認知機能も高かった…!
基本的に握力が高いと認知機能のテストも良かったみたいですね~。
因みに男性で逆U字型になった原因は不明らしく、女性では特に乳がんの生存者の握力と認知機能の関係が高かったみたい。
握力とうつ病の関係について調べてみた…!
2018年のアングリア・ラスキン大学の研究によると、握力とうつ病の関係について調べてみたそうです。
この研究は上記と同じく、アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)を使ったもので、2011年~2012年と2013年~2014年のデータをチェックしたというもの。このデータセットから、握力やうつ症状をチェックしつつ、更に参加者のBMIから、標準体型(BMIが25kg/m2未満)、過体重(BMIが25.0~30.0kg/m2未満)、肥満(BMIが30kg/m2以上)のいずれかにグループ分けしたそうな。その後統計処理して関連性があるのか見てみたらしい。
最終的なサンプル数は2,812人で、そのうち女性の割合は54%、平均年齢は69.2歳、平均BMIは29.2kg/m2だったそうな。
では結果を見てみましょう。
- 中から重度のうつ症状がある女性は、全くないから最小限のうつ症状がある女性に比べて、握力が1.60kgも低かった…!
- 但し、男性ではこのような傾向はみられなかった。
- 中から重度のうつ症状がある肥満の男性は、握力が3.72kgも低かった…!
- 中から重度のうつ症状がある肥満の女性は、握力が1.83kgも低かった…!
体型を無視すると女性だけ握力とうつ病は関係あるっぽいですね。そして肥満の方で調べると男女とも握力とうつ病は関係あると…。
握力と希死念慮(自殺願望)の関係について調べてみた…!
2019年のワシントン大学の研究によると、握力と希死念慮(自殺願望)の関係について調べてみたそうです。
この研究は、これまた上記と同じく、アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)を使ったもので、期間は2011年~2012年と2013年~2014年というもの。このデータセットから、握力と希死念慮の関係を見てみたんだとか。
因みに握力は利き手の最大値としたそうで、希死念慮については以下の質問に答えてもらったとのこと。
- あなたは過去2週間で「死んだ方がマシだ」又は「自傷行為をした方がマシだ」とどれぐらいの頻度で悩みましたか…?
この回答から、
- 全くない
- 数日・半数以上の日・ほぼ毎日
の2グループに分けつつ握力との関連性をチェックしたそう。
最終的なサンプル数は8,903人(平均年齢47.4±0.4歳)でして、結果はこのようになっておりました。
- 握力が5kg増えるごとに、男性全体における希死念慮が16%(OR0.84)も低くなっていた…!
- 握力が5kg増えるごとに、20~39歳の男性における希死念慮が17%(OR0.83)も低くなっていた…!
- 握力が5kg増えるごとに、40~64歳の男性における希死念慮が27%(OR0.73)も低くなっていた…!
- 上記のような傾向は女性では見られなかった…!
男性では握力と希死念慮の関係はありそうな感じですね。しかも年齢が上がれば上がるほど関係は強くなるみたい。一方でこちらの研究では女性は関係なかったみたいですね。
どのぐらいの握力があると良いのか…?
これらを見ていると握力が大事…!ってのは分かるものの、果たしてどのぐらいの握力があると良いのでしょうか…?
そこで参考になるのが2021年のリスボン大学の研究になります。この研究ではヨーロッパ14か国の中高年20,598人(そのうち女性は10,416人)を対象に握力とうつ病との関係をチェックしているんですが、
- 50~64歳の男性:43.5kg
- 50~64歳の女性:29.5kg
- 65歳以上の男性:39.5kg
- 65歳以上の女性:22.5kg
がボーダーラインだったらしい。
これより握力が高いとうつ病リスクが有意に低下していたそうで、一つの目安にはなりそうですね。
個人的考察
上記にも書いた通り、注意点としては、握力を鍛えれば健康になるかは分からないということです。あくまでメンタルが健康な人は握力が強いって話ですからね。但し、握力かどうかはさておき、個人的には筋力とメンタル健康の因果関係は双方向なんじゃないかな~と思っております。
というのも、
- 有酸素運動でも無酸素運動(筋トレ)でも、やればメンタルが健康になるって研究はたくさんある
- 強度は関係なく、歩いても、HIITでも効果がある
- 精神障がいの方はBDNFが低い傾向にあり、運動でBDNFは増えるので、握力測定(筋力測定)から見える可能性はありそう
- 実際、歩くスピードが速いとメンタルが健康だったり、認知機能低下・認知症リスクが低いっていう研究結果もある
って感じなんで。
まぁ、まだまだよく分からない部分は多いですが、なんか最近握力が弱くなったな…って時は、心が元気かどうか一度考えてみてもよろしいかもしれません。