前回は、うつ病又は双極性障害について見てみました。
今回は、強迫性障害について見ていきます。



強迫性障害における二次障害リスク・家族のリスクについて調べてみた…!

2015年のカロリンスカ研究所の研究によると、強迫性障害における二次障害リスク・家族のリスクについて調べてみたそうです。
ではまず強迫性障害ってのがなんなのか軽く復習しておきましょう。
2013年のアメリカ国立衛生研究所のレビュー論文によると、強迫性障害(OCD)とは、ずーっと勝手に湧き出てくる無意味な思考(いわゆる強迫観念)と、何度も繰り返してしまう意図的な行動(いわゆる強迫行為)を特徴とした精神疾患です。
強迫性障害を持つ方は、一般的に自分の思考や行動がいきすぎで意味がないと分かっているんで、それに対抗しようと悪戦苦闘する傾向があります。また、強迫性障害を持つ方の家族は非常にストレスが溜まる事でも有名です。
因みに世界における強迫性障害の発症率は2~3%とされており、実は双極性障害(1.6%)と同程度だったり、統合失調症やパニック障害、自閉症(約1%)の2倍以上だったりと割と高めだったりします。
そんな強迫性障害ですが、他の精神疾患、例えば、うつ病や不安障害、統合失調症、双極性障害と併発することが多い様子なんですよ。そこで今回、詳しく調べてみることにしたそうです。
この研究は、1969年1月から2009年12月までにスウェーデンにおける患者登録をされた方を対象にしたもので、そこから強迫性障害と診断された人が後に二次障害を発症したのかをチェックしたと言うもの。更に家族におけるリスクなんかも見てみたんだとか。
んで、まずサンプル数なんですが、


って感じで、なかなかの規模だった様子。
この方々のデータを基に統計処理してその傾向を調べてみたそうです。
早速結果を見てみると、

  • 強迫性障害の患者さんは、そうでない患者さんと比較して、統合失調症の二次障害リスクが12倍も高かった
  • 強迫性障害の患者さんは、そうでない患者さんと比較して、双極性障害と統合失調感情障害の二次障害リスクが13~14倍も高かった

とのこと。非常に併発リスクが高いですね。
因みに入院患者で初めて強迫性障害と診断された方のみで見てみると、二次障害リスクが約2倍も高く、外来患者でも依然として高いリスクが見られたみたい。
続いて、追跡調査中に初めて強迫性障害だと診断された人が後に二次障害を発症するリスクなんですが、以下のようになっておりました。

  • 統合失調症の二次障害リスクは3倍高かった。統合失調症と診断されるまでの期間の中央値は2.4年だった。
  • 統合失調感情障害の二次障害リスクは約5倍高かった。統合失調症と診断されるまでの期間の中央値は1.8年だった。
  • 双極性障害の二次障害リスクは12倍高かった。統合失調症と診断されるまでの期間の中央値は2.7年だった。

3年以内に二次障害ありと診断される場合が非常に高いみたいですね。特に双極性障害の12倍はかなり高いかと。
因みに、こちらも入院患者と外来患者のケースをチェックしているんですが、入院患者では特に統合失調症と統合失調感情障害が大幅に高かったらしく、外来患者では、全ての疾患においてリスクの大きさがわずかに減少したらしい。
そして因果関係なんですが、

  • 最初に強迫性障害と診断された人は、後に他の全ての障害と診断されるリスクが高く、その逆も同様であった

とのこと。
つまり、強迫性障害から他の精神疾患を発症することも、他の精神疾患から強迫性障害を発症することもあると。矢印は両方向に向いているんですね。
またこの研究では、強迫性障害の方でSSRIを使用した場合を調整して調べてもいるんですが、

  • その後に双極性障害と診断されるリスクは大幅に減少したものの、完全にはなくならなかった(RR8.8)

そうです。
12倍~14倍から8.8倍に減ったのは素晴らしいですが、それでも結構高いですよね。因みにSNRIやその他の抗うつ薬と比較したら、リスク減少は見られなかったそうです。
更にこの研究では、他の精神疾患から強迫性障害を発症するリスクも詳しく調べておりまして、

  • 追跡調査中に初めて統合失調症だと診断された人が、後に強迫性障害と診断されるリスクは7倍高かった。強迫性障害と診断されるまでの期間の中央値は3.7年だった
  • 追跡調査中に初めて統合失調感情障害だと診断された人が、後に強迫性障害と診断されるリスクは5倍高かった。強迫性障害と診断されるまでの期間の中央値は2.5年だった
  • 追跡調査中に初めて双極性障害だと診断された人が、後に強迫性障害と診断されるリスクは約1.2倍高かった。強迫性障害と診断されるまでの期間の中央値は1.1年だった

みたい。
細かく見てみると、二次障害リスクの因果は若干違いますね。
では最後に強迫性障害の方の家族の障がい発症リスクなんですが、

  • 一親等の家族の統合失調症・統合失調感情障害・双極性障害のリスクが有意に高かった
  • 二親等の家族の統合失調症・統合失調感情障害・双極性障害のリスクが有意に高かった
  • 三親等の家族の統合失調症・統合失調感情障害・双極性障害のリスクが有意に高かった
  • 但し、統合失調症と双極性障害の二親等・三親等のリスクの大きさは、一親等のリスクより有意に低かった
  • 特に統合失調症と双極性障害において、実兄弟のリスクは、異父兄弟のリスクよりも高かった
  • 母方の異父兄弟と父方の異父兄弟は同様のリスクがあった

とのこと。
つまり、遺伝的距離が増すにつれてリスクの大きさが減少していたってことですね。



個人的考察

この前「最初にうつ病と診断されて後に双極性障害と診断されるパターンは多いのか?」って記事を紹介しましたが、強迫性障害はもっと二次障害リスクが高そうな感じですね。
因みに1994年のミシガン大学アナーバー校の研究によれば、アメリカにおける強迫性障害の二次障害リスクは2倍から8倍高いそうです。そのため、はっきり何倍高いかはまだ分かりませんが、リスクが高めなのは間違いなさそうです。
それと強迫性障害も家族のリスクが高そうでした。但し、遺伝的距離が遠くなればリスクは減るみたいです。



参考文献