認知行動療法を一から学ぼう!その2「レスポンデント学習と行動療法」
毎月恒例の月1社内研修が令和3年10月15日にありましたので、内容を備忘録としてブログに残しておきます。過去の社内研修内容を確認したい場合は下記からご覧ください。
1. レスポンデント条件付け(レスポンデント学習)とは
レスポンデント条件付け(レスポンデント学習)とは、刺激強化子随伴性と言われ、条件刺激が無条件刺激の機能を獲得する学習形式のことを言う。レスポンデント条件付けを使った代表的な治療法にエクスポージャー法による情動反応の消去がある。エクスポージャー法(暴露療法)とは苦手な物・事・場所にあえて挑戦・継続させる方法の事を言う。レスポンデント条件付けは、19世紀末にイワン・パブロフがみつけた。古典的条件付け、パブロフ型条件付けと呼ばれる。パブロフの犬の実験が有名。
- ベルの音(中性刺激NS)を聞かせる
- 犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS・US)
- 唾液が出る(無条件反応UCR)
上記1~3を繰り返すと、
- ベルの音(条件刺激CS)
- 食べ物がなくても唾液が出る(条件反応CR)
となる。
2. レスポンデント条件付けの形成・消去スピードの違い
レスポンデント条件付けの形成するスピードや消去されるスピードは方法によって変わる事が分かっている。- ベルの音(条件刺激CS)と犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)回数を増やすと促進される。
- ベルの音(条件刺激CS)と犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)をいつも一緒に提示すると下記3の方法より早く形成・消去されやすくなる。
- ベルの音(条件刺激CS)がなく、犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)だけをたまに提示すると上記2の方法より遅く形成・消去されにくくなる。
- ベルの音(条件刺激CS)→犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)の順の方が、犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)→ベルの音(条件刺激CS)よりもレスポンデント条件付けが成立しやすい。例えば、ウサギが逃げる→穴に逃げ込みほっとするはあるが、逆だと穴を見ただけで逃げないといけなくなるため。
- ベルの音(条件刺激CS)と犬に食べ物を与える(無条件刺激UCS)の時間の間隔が短い程、レスポンデント条件付けが成立しやすい。但し、時間の間隔が長くなっても、ベルの音(条件刺激CS)によって食べ物がなくても唾液が出る(条件反応CR)が起きるとレスポンデント条件付けが成立しやすくなる。例えば、食べる→数時間後腹痛になるとその食べ物を食べたり考えるだけで腹痛になる(味覚嫌悪学習)。生物の生死にかかわるようなものは強い準備性があるといえるため、レスポンデント条件付けが成立しやすい。
3. 人間でもレスポンデント条件付けが起こる・般化(汎化)も起こる
1920年に行動主義心理学の創始者であるジョン・ワトソンが「アルバート坊やの実験」を行った。【アルバート坊やの実験】
- アルバート坊やは最初、小動物と遊ぶのに何も問題なかった。
- 遊び始めたところで大きな音を鳴らし、小動物と遊ぶ→嫌なことが起きると学習させた。
- 結果、小動物を怖がり逃げる、泣くようになった。
アルバート坊やは実験的に恐怖症を形成した。これにより、人間でもレスポンデント条件付けが起こると初めて証明された。更に般化(汎化)が起きることも分かった。般化(汎化)とは、様々な異なる対象に共通する性質や、共通して適用できる法則などを見出すことを言う。アルバート坊やの実験では、実験で使った小動物と似たような小動物でも怖がり逃げる、泣くようになった(般化が起きた)
般化(汎化)が人間にも起こると分かったのが行動療法の始まりとなる。
その後、般化は似ていれば似ているほど引き起こしやすい(般化勾配)ことが分かった。そして、般化の反対のプロセスとして弁別がある。弁別とは、刺激感の違いに反応する能力のことを言う。弁別強化をすることによって特定の刺激のみ反応するようになる。
4. レスポンデント学習の消去は可能。但し
1924年にジョーンズが実験的に恐怖症を形成させ、その消去に成功した。その後、レスポンデント条件付けの消去について様々な事が分かった。具体的には以下の通り。
- レスポンデント条件付けの消去は条件刺激(CS)のみ繰り返す(例:音を聞かせて何もしない)
- レスポンデント条件付けの消去を行っても完全に元に戻る訳ではない。消去は時間が空くと前回より反応が低くなるが反応はしてしまうので繰り返して消去する必要がある。また消去しても再度レスポンデント条件付けを行うと初回より早く形成される。理由は、一旦学習されたものに消去学習が上書きされるから。つまり、上書きして一旦学習されたものはごみ箱に入っている状態であり、まだ残っているので復元可能となるため。
- 消去の部位は腹内側前頭前野。
- 条件刺激(CS)と無条件刺激(UCS)をランダムにだす、条件刺激(CS)が少ないと消去がされにくい。
5. 複合刺激によるレスポンデント条件付け
複合刺激によるレスポンデント条件付けには、隠蔽・阻止・感性予備条件付け・高次条件付けがある。隠蔽・阻止は条件刺激(CS)が複合刺激の場合、付随的な刺激は無視され簡略化が起きる。
感性予備条件付け・高次条件付けは反応に関与しない他の刺激を追提示することによってその両方でレスポンデント条件付けが形成される。
その他、それぞれの詳しい内容については以下のようになる。
- 複合条件づけ:複合刺激(音と光のように中性刺激NSを組み合わせた)によって条件づけを行うこと。
- 隠蔽:複合刺激を与えた場合、複合刺激の要素の一つがもう一つよりも強い条件反応CRを誘発すること。理由は、おそらく目立ちやすさに差が生じるため。いずれかの条件刺激CSによる条件反応CRの喚起力が強く、一方が他方の条件づけを覆い隠したように見えるためこの名がついた。
- 阻止:前処置で複合刺激の要素の一つを条件刺激CSとして条件づけを行い、確立した後、更に条件づけとして複合刺激を条件刺激CSとし、条件づけを行うこと。更に条件づけで付け加えられた条件刺激CSに対してはほとんど条件づけが見られなかった。この現象は条件刺激CSを入れ換えても同様の結果となる。
- 感性予備条件づけ:前処置で複合刺激によって条件づけを行う。更に条件づけとして、複合刺激の要素の一つを呈示すると条件反応CRが観察されることがあること。
- 高次条件づけ:条件刺激CSと無条件刺激USの対呈示操作によって、条件刺激CSに対して条件反応CRを条件づけた後、条件刺激CSを新たな中性刺激NSと対呈示する(無条件刺激USは与えない)と、その刺激も条件反応CRを誘発するようになること。
6. 系統的脱感作
系統的脱感作とは、古典的条件付けを理論的基礎として、不安の対象となる状況や物に対し、対象者の主観的刺激の強弱によって階層化する。また脱感作と呼ばれるリラクゼーション法を学ぶ。十分にリラックスした状態で階層的に低い不安対象に暴露していく行動療法の一つ。具体的なやり方は以下の通り。
(1) 不安階層表を作る
不安階層表を作成する。因みに系統的脱感作で用いられる不安階層表は般化勾配の概念を基に作られている。作り方は、- 不安になるものをリストアップ
- ランキング付けする
となる。この時、ランキング上位が元々のレスポンデント条件付けがされたものとなる。ランキング下位が般化勾配によるレスポンデント条件付けがされたものとなる。
(2) リラクゼーション法を学ぶ
系統的脱感作でのリラクゼーションでは、筋弛緩法を用いる事が多い。具体的には、などを使う。
(3) 不安対象に介入
ランキング下位から介入していく。具体的には、- リラックスして不安な場面を思い浮かべてもらう
- その場で不安反応が起きないことを確認する(重要)
- もう一度リラックスして次の不安な場面を思い浮かべる
- 少し不安になる
- 一度中断、リラックスしてもらう(必要なければやらなくてOK)
- 再び不安な場面を思い浮かべる
- 中断、リラックス…を繰り返す
- その場で不安反応が起きないことを確認する。
- 次の不安へ…。
- 徐々に上位の不安にステップアップしていく。
上記のように、不安と相容れない心身の状態を利用して、特定の刺激によって不安反応が起きないようにする方法を逆制止と言う。
7. エクスポージャー(暴露療法)を使った高所恐怖症(不安)のレスポンデント条件付け消去
不安症の人は特に不安にピークがないと思っているが、実際は不安にピークがある。エクスポージャー中は始まりに一気に不安が上昇、ピークに達する。しかしその後、不安は下がっていく。これを何回か経験することによってレスポンデント条件付けを消去できる。高所恐怖症の実験では参加者に我慢できるところまで行ってもらい、2分ごとに恐怖の推移をグラフに書いてもらった。不安や恐怖を感じた時に現実に目を向ける(手すりをつかんでいる手に集中するなど)と不安が下がるのが早くなる。ルール支配行動(前もって理解しておけばできるという学習方法)が働く場合もある。
8. ストレスとリラクゼーション
ストレスとリラクゼーションは対極にあり、ストレスを生み出すものをストレッサーという。リラクゼーションとはストレスがない状態以上のもので、リラクゼーションを繰り返すことでストレス耐性がアップする。また、ストレスもリラクゼーションも貯まる、貯めることができる。リラクゼーション状態は睡眠状態以上であり、自分で意図的に作り出さないといけないのがリラクゼーションである。
個人的考察
以上、「レスポンデント学習と行動療法」でした…!
是非、自分や支援で実践し、結果を実践報告書にまとめてみてください。
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参考文献
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT3.pdf
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%80%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%B3
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%80%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%B3
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