アンブレラレビューを見てみよう!」シリーズその47です。
今回は、環境リスクと健康の関係についての初のアンブレラレビューを見てみます。



大気汚染・タバコの煙・化学物質…環境リスクと健康の初のアンブレラレビュー…!

2021年のコロラド州立大学の研究によると、環境リスクと健康の関係についてアンブレラレビューを行ってみたそうです。
2012年のWHOの発表では、世界で1,260万人が死亡し、全死亡率の23%が環境要因と思われるそうな。環境要因ってのは例えば、大気汚染、化学物質、受動喫煙、放射線、騒音などですね。
しかしこれまで環境リスクと健康のアンブレラレビューは発表されていなかったらしい。そこで今回初めて行ってみることにしたんだとか。これは期待ですね。
まず研究者たちは、2020年9月20日までに発表された該当するメタ分析をPubMed(Medline)で検索してみたそうな。併せて手作業でも探してみたみたい。
因みに環境とは自然、人工環境、汚染などの物理的環境という定義にしたそうで、社会的環境は含まれないそうです。
最初の検索では、PubMedで1,266件、手作業で87件の研究が見つかったそうで、ここから被っている物を除き、各研究の質をチェックしたみたい。最終的に選ばれた研究は103件でして、これらの研究には、大気汚染物質、タバコの煙、化学物質・重金属、物理的曝露、周囲の住宅曝露に分類された69件の環境リスク要因があったんだとか。
では結果をじっくり見ていきましょう。
まず研究の傾向なんですが、

  1. 最も多かったのは大気汚染だった…!
  2. 次に多かったのはタバコの煙だった…!
  3. 次が化学物質だった…!

って感じ。
大気汚染は近年話題になる事が多いんで納得ですね。
ではその大気汚染の結果から見ていきますかー。

  • 健康への影響が最も広範囲なのはPM2.5だった…!
  • 次に健康への影響が広範囲なのはPM10だった…!
  • 同じく健康への影響が広範囲なのが二酸化窒素(NO2)だった…!
  • その他として、オゾン、家庭内大気汚染、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、固形燃料の使用、窒素酸化物、砂漠の塵、バイオマス燃焼、黒色炭素、固形燃料による屋内空気汚染だった。
  • PM2.5とPM10の長期的な影響は、慢性腎臓病、2型糖尿病、肺がんによる死亡率、がんによる死亡率の増加だった…!
  • PM2.5の長期的な影響は、アルツハイマー病、全死亡率、心血管疾患による死亡率、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、大腸がんによる死亡率、認知症、うつ病、虚血性心疾患による死亡率、肝臓がんによる死亡率、自然死亡率、呼吸器疾患による死亡率、脳卒中、脳卒中による死亡率の増加だった…!
  • PM10の長期的な影響は、冠動脈疾患と慢性気管支炎の増加だった…!
  • 妊婦におけるPM2.5の長期的な影響は、生まれた子どもの自閉症、胎児の小ささの増加だった…!
  • 妊婦におけるPM10の長期的な影響は、生まれた子どもの低体重、早産の増加だった…!
  • 子どもにおけるPM2.5の長期的な影響は、喘息、急性呼吸器感染症、自閉症スペクトラム障害の増加だった…!
  • 子どもにおけるPM10の長期的な影響は、喘息、自閉症スペクトラム障害の増加だった…!
  • PM2.5とPM10の短期的な影響は、院外での心停止、不整脈、心血管系、呼吸器系、自然死の増加だった…!
  • PM10の短期的な影響は、自殺の増加だった…!
  • 子どもにおけるPM2.5又はPM10の短期的な影響は、肺炎の増加だった…!
  • 二酸化窒素(NO2)の長期的な影響は、自閉症、がんによる死亡率、心血管疾患による死亡率、慢性腎臓病、全死亡率、呼吸器疾患による死亡率、2型糖尿病、がんによる死亡率の増加だった…!
  • 二酸化窒素(NO2)の短期的な影響は、自然死亡率、院外での心停止、不整脈、結膜炎、うつの増加だった…!
  • 子どもにおける二酸化窒素(NO2)の長期的な影響は、喘息の増加だった…!
  • 子どもにおける二酸化窒素(NO2)の短期的な影響は、肺炎の増加だった…!
  • 妊婦における二酸化窒素(NO2)の長期的な影響は、生まれた子どもの低体重、胎児の小ささの増加だった…!
  • オゾンや二酸化硫黄(SO2:一般的な汚染物質。主に発電所やその他の産業施設での化石燃料の燃焼や、機関車、船舶などの燃料の燃焼から排出されるガス)、一酸化炭素(CO:自動車や小型エンジン機械、ストーブ、暖炉などの燃料の燃焼によって排出されるガス)、家庭内大気汚染(調理や暖房などによる複数の発生源での屋内の大気汚染)でも健康リスクの増加がみられた…!

大気汚染の影響はかな~り多岐にわたる様子ですね。
次はタバコの煙の結果です。

  • タバコの煙には4,000種類以上もの化合物が含まれており、40種類以上の発がん性物質が含まれている。
  • 更にアンモニアや窒素酸化物、二酸化硫黄、アルデヒドなどのいくつかの刺激物質や一酸化炭素、ニコチンなどの毒性物質も含まれている。
  • タバコの煙は喫煙者本人はもちろんのこと、受動喫煙での暴露も有り得る。
  • タバコの煙の影響は、脳卒中、女性の肺がん、生まれた子どもの低体重、胎児の小ささとの増加だった…!
  • 受動喫煙の影響は、乳がん、心血管疾患、子宮頸がん、肺がん、肺腺がん、大細胞肺がん、小細胞肺がん、扁平上皮がん、全死亡率、2型糖尿病の増加だった…!
  • 妊婦における受動喫煙の影響は、神経管欠損の増加だった…!
  • 子どもにおける受動喫煙の影響は、喘息、中耳炎の増加だった…!
  • 出生前の喫煙の影響は、統合失調症、子や孫のうつ病、注意欠陥多動性障害(ADHD)の増加だった…!
  • 親の喫煙の影響は、子どもの肥満の増加だった…!
  • 母親の喫煙の影響は、神経芽細胞腫(小児がん)の増加だった…!
  • 父親の喫煙の影響は、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病の増加だった…!

タバコの煙の影響もすさまじいですね。
次は化学物質や農薬、重金属の結果を見てみます。

  • 化学物質や農薬、重金属の暴露も健康リスクの増加がみられた…!
  • 小児期のブタジエン(自動車の排ガスに含まれる)への曝露。
  • 炭化水素(石油やその他の燃料、塗料や接着剤、洗浄剤などなど幅広く使われている)の長期的な暴露。
  • 有機溶剤(塗料やワニス、ラッカー、接着剤、糊、洗浄剤、染料、ポリマー、プラスチック、インクなどに含まれる)の暴露。
  • ポリ塩化ビフェニル(PCB:不燃性、化学的安定性、高沸点、電気の絶縁性などの特性から工業・商業で幅広く使われている)の暴露。
  • ビスフェノールA(BPA:食品や飲料の包装に使われる)の暴露
  • 女性のフタル酸エステル(PAE:香水や化粧品、ボディケア製品などに使われる)の暴露
  • ダイオキシン(製錬、製紙パルプの塩素漂白、一部の除草剤や殺虫剤の製造、焼却炉などの製造の副産物)の暴露
  • 農薬の曝露
  • アルミニウムの暴露
  • アスベストの暴露
  • カドミウムの暴露
  • クロムの暴露
  • ヒ素の暴露
  • 鉛の暴露
  • 二酸化ケイ素(シリカ)の暴露

物によっては接触機会が非常に多い人もいるんではないでしょうか。また、普段使うものに結構入っているものばっかだったりもしますね。
次は物理的な暴露として、温度、騒音、放射線などの環境要因を見ていきます。

  • 周囲温度の変化(上昇又は低下)により、健康リスクの増加がみられた…!
  • 自然光により、子どもの近視の保護機能が見られた…!
  • 夜間の人工光により、健康リスクの増加がみられた…!
  • 紫外線により、ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)の保護機能が見られた…!
  • 騒音により、健康リスクの増加がみられた…!
  • 住んでいる地域に緑が多い(=自然が多い)と、死亡リスクの低下、生まれた子どもの低体重リスクの低下、胎児の小ささの低下がみられた…!
  • 主要道路の近くに住んでいる、家の周りの交通量が多い、石油化学工業団地(石油化学コンビナート)の近くに住むことにより、健康リスクの増加がみられた…!
  • 都市部に住むこと、幼少期に都市部に住むことにより、健康リスクの増加がみられた…!
  • 一方で都市部に住むことで、マラリアの感染リスクの低下がみられた…!
  • 農村部に住むことによりパーキンソン病リスクの増加がみられた…!
  • 自宅でペットを飼うことで、非感染性疾患(急性リンパ性白血病やクローン病、潰瘍性大腸炎)リスクの低下がみられた…!

やっぱりな~って感じの結果ですよね。太陽光には当たった方が良いし、夜はブルーライトを避けた方が良いし、自然が多い方が良いし、旧友仮説は大事にしたいし…。


以上を見ていると、怖すぎる要素満載なんですが、ここで大事なのがエビデンスレベルです。今回のアンブレラレビューによれば、エビデンスレベルが高かった関連性は以下の6つのみとのこと。

  1. 二酸化窒素(NO2)による、2型糖尿病リスクの増加…!
  2. 受動喫煙による、2型糖尿病リスクの増加…!
  3. ブタジエンによる、急性リンパ性白血病リスクの増加…!
  4. アルミニウムによる、認知症リスクの増加…!
  5. 道路交通の騒音による、高血圧リスクの増加…!
  6. 住宅地の緑化による、生まれた子どもの低体重リスクの低下…!

工場の煙や車の排ガス、タバコの煙、アルミニウム、騒音を避けつつ、自然に接する機会を多くすると良い…!ってことですね。



個人的考察

いずれも納得の結果でしたねー。
出来るところから対策していきたいですな。



参考文献