今回は、2022年に発表された、親の精神疾患と子どもの自閉スペクトラム症(ASD)の関係の研究を見てみます。



親の精神疾患と子どもの自閉スペクトラム症(ASD)の関係

2022年の国立台湾大学医学部附属病院の研究によると、親の精神疾患と子どもの自閉スペクトラム症(ASD)の関係について調べてみたそうです。
自閉スペクトラム症(ASD)は発達障害の一種でして、世界人口のおよそ100人に1人が持っていると言われております。ただ近年では44人に1人が持っているという研究結果もありまして、増加傾向にあるんだとか。
そして自閉スペクトラム症の遺伝率は50%~90%の範囲だと報告されておりまして、その遺伝的な原因はまだ完全に解明されておりません。
そんな自閉スペクトラム症は親の精神疾患と関係がありそうな感じなんですな。そこでこの辺を詳しく知るために親が、統合失調症、双極性障害、うつ病、不安障害、強迫性障害、適応障害、物質使用障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症を持っている場合における子どもの自閉スペクトラム症リスクについて調べてみることにしたんだとか。
この研究は、近年この分野の研究に非常に力を入れており、当ブログでもたびたび登場している台湾の国民健康保険のデータベース(NHIRD)を使ったというもの。このデータセットは2009年以降における台湾の人口の約99.8%をカバーしており、ここから様々な関係性を調べることが出来るんですよね。
このデータセットから2004~2017年に出生し、2007年1月1日から2017年12月31日までに登録された子どもたちを検索してみたそうな。次にその子どものデータから親たちを検索していったらしい。
その結果、121,994人の子どもたちのデータが集まったそうです。因みにデータの概要についてはこんな感じ。

  • 自閉スペクトラム症を持つ子ども:24,279人
  • 自閉スペクトラム症を持たない子ども:97,715人
  • 自閉スペクトラム症を持つ子どもの男女比:82.6%が男の子
  • 自閉スペクトラム症の診断年齢:81.9%が6歳になる前に診断、18.1%が6歳を過ぎてから診断されていた

約20%、つまり5人に1人の子どもがASDを持っているんですね。また男の子の方が圧倒的に多く、大体小学校入学前後でASDかどうか診断を受けているケースが多いみたい。
それでは統計処理した結果を見てみましょう。

  • 母親が精神疾患と診断されていた場合、子どもの自閉スペクトラム症リスクは1.45倍だった。
  • 父親が精神疾患と診断されていた場合、子どもの自閉スペクトラム症リスクは1.12倍だった。
  • 両親の統合失調症、うつ病、強迫性障害、適応障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症と、子どもの自閉スペクトラム症は関係があった。
  • 母親の双極性スペクトラム障害(≒双極性障害)と、子どもの自閉スペクトラム症は関係があった。
  • 両親の不安障害、物質使用障害と、子どもの自閉スペクトラム症は関係がなかった。
  • 親の精神疾患のタイミング(子どもの生まれる前、生まれてから子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けるまで、子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けた後)と子どもの自閉スペクトラム症の関係は、親の精神疾患の種類によって異なっていた。
  • 母親の双極性スペクトラム障害とうつ病は、全てのタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と関係があった。
  • 母親の不安障害と適応障害は、子どもの生まれる前、子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けた後のタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と関係があった。
  • 両親の統合失調症は、子どもの生まれる前、子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けた後のタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と関係があった。
  • 父親の適応障害は、生まれてから子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けるまで、子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けた後のタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と関係があった。
  • 母親の物質使用障害は、子どもの生まれる前のタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と関係があった。
  • 父親の物質使用障害は、子どもが自閉スペクトラム症と診断を受けた後のタイミングで、子どもの自閉スペクトラム症と逆相関の関係があった。

ざっくりまとめると、親が精神疾患を持つ場合、子どもが自閉スペクトラム症を持つ場合が多いってことですね。
また、研究者によれば、親の精神疾患のタイミングと子どもの自閉スペクトラム症の関係は、親の精神疾患の種類によって異なっていたので、遺伝要因と環境要因の両方の影響を受けている可能性があるとのこと。
う~ん。やっぱり要素が複雑に絡み合った結果、子どもが自閉スペクトラム症を持つみたいですね。この辺は精神疾患を持つ場合と同じ流れですな。



個人的考察

細かい数字に関しては研究の表をご覧いただきたいのですが、個人的に特に気になったのは、

  • 母親がADHDを持つ場合、子どもがASDを持つ可能性は3倍(2.98倍)
  • 母親がASDを持つ場合、子どもがASDを持つ可能性は21倍(20.98倍)
  • 父親がADHDを持つ場合、子どもがASDを持つ可能性は3倍(2.96倍)
  • 父親がASDを持つ場合、子どもがASDを持つ可能性は15倍(15.35倍)

という高さです。
他はざっくり1.5倍ぐらいだったんで、ADHD、特にASDはかなり両親の影響を受けるみたいなんですよね。



参考文献