2021年に世界ADHD連盟が示したコンセンサスを見てみよう! その2「有病率・原因」
「2021年に世界ADHD連盟が示したコンセンサスを見てみよう!」シリーズの続きです。
前回は、
をご紹介しました。
今回も2021年の世界ADHD連盟の研究を見ていきます。それでは続きをどうぞ~。
カテゴリー③:ADHDの有病率
ADHDは先進国・発展途上国を問わず世界的に発生しておりまして、男性の方が女性よりも多い傾向がみられております。そして過去30年間を振り返ると増加傾向ではないものの、医師の認知度の向上により、以前よりも診断される可能性が高くなっているんだとか。具体的な研究は以下な感じ。
20. 2012年のメタ分析によれば、5万5000人以上を対象にADHDかどうかをチェックしてみた。結果、若者の5.9%がADHDの診断基準を満たしていた。また、2014年のメタ分析では、約25万人の若者を対象に調べてみた結果、北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米、オセアニアでのADHD有病率に有意差はなかった。
21. 上記の2014年のメタ分析によると、過去30年間において、小児・青年におけるADHDの有病率に増加は見られなかった。但し、アメリカやスウェーデンの大規模研究によると、近年ADHDと診断されるケースが高くなっている傾向がある。
22. 2009年のメタ分析によると、5,300人以上の参加者を対象にADHDかどうかをチェックしてみた結果、成人のADHD有病率は2.5%と推定された。また2017年のメタ分析では、13か国、7つの地域・大都市を網羅し、26,000人以上を対象に調べてみた。結果、成人の2.8%がADHDの診断基準を満たしていると推定された。2006年のメタ分析によると、1,600人以上を対象に若者と成人のADHD有病率を比較してみた。すると成人は若者と比較してADHDの有病率が低かった。ADHDの若者の6人に1人だけが25歳時点でADHDの完全な診断基準を満たしており、約半数はADHDの要素が残っていると出ていた。
23. 2020年のメタ分析によると、高齢者3万2000人以上を対象にチェックした結果、高齢者のADHD有病率は2.2%で、50歳以上に限定すると1.5%に低下していた。一方で、1170万人以上が参加したメタ分析では、50歳以上の有病率はわずか0.2%だった。更に920万人以上を対象にメタ分析を行ったところ、50歳以上のADHD治療率はわずか0.02%だった。
24. 2020年のメタ分析では、18歳未満のアメリカ黒人青年15万人以上を対象にチェックしてみた。結果、18歳未満のアメリカ黒人青年のADHD有病率は14%だった。研究者曰く、黒人はアメリカの一般人口と比較してADHDと診断されるケースが高い、としている。
25. 2012年のメタ分析では、42,000人以上の参加者を対象とした親の評価と、56,000人以上の参加者を対象とした教師の評価をメタ分析にかけてみた。結果、ADHDは男性に多く見られ、青少年における男女比は約2対1だった。
カテゴリー④:ADHDの原因ってなに…?
ADHDの人のほとんどは、多くの遺伝的リスク要因と環境的リスク要因が蓄積して障がいを引き起こしていると考えられております。但し、これらの知見はADHDの原因を理解するのに役立つが、障がいの診断には役立たないとのこと。またADHDの発症と環境との関係は非常に高いレベルで認められてもいるそうです。
ADHDの遺伝要因
26. アメリカ、ヨーロッパ、スカンディナヴィア(スカンジナビア)、オーストラリアの双子研究のレビュー論文を見てみると、遺伝要因と環境要因との相互作用が、ADHDの原因の重要な役割を果たしている。
27. アメリカ、ヨーロッパ、スカンディナヴィア、中国、オーストラリアのADHD患者2万人以上と非ADHD患者3万5千人以上を対象にDNA解析を行った。結果、ADHDのリスクにそれぞれわずかな影響を及ぼす多くの遺伝子リスク変異が特定された。つまり、それぞれが極めてわずかな影響を及ぼす多くの遺伝子変異が組み合わさって、ADHDリスクが高まっている(=多遺伝子リスク)ことを示している。このリスクは一般的な精神病理やいくつかの精神疾患とも関連している。
28. メタ分析によって関係ありそうな遺伝子はあるが依然として不明確とのこと。これらの遺伝子は、ANKK1、DAT1、LRP5・LRP6、SNAP25、ADGRL3、DRD4・BAIAP2らしい。
29. ADHDの多遺伝子リスクは、人口におけるADHD症状を予測するので、ADHDの遺伝要因が、人口におけるADHD症状に低レベルの影響を与えることを示唆している。
30. ADHDの多遺伝子リスクが高い人は、ADHD、不安症、うつ病と診断されているケースが高い。
31. ADHDは、稀な単一遺伝子の欠陥や染色体異常でも引き起こる。自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症:ASD)・ADHDの子ども8,000人以上と対照群5,000人をDNA解析した研究では、ASD・ADHDの子どもは対照群と比べて、稀な遺伝子変異の発生率が高かった。
32. 家族研究、双子研究、DNA研究を見てみると、遺伝要因と環境要因は、ADHDや他の精神疾患(統合失調症、うつ病、双極性障害、自閉症スペクトラム障害、素行症、摂食障害、物質使用障害など)、片頭痛、肥満などと関係がある。但し、ADHDには特有の遺伝的リスクが存在する。疾患間で遺伝リスクと環境リスクが共通しているという証拠は、これらの疾患が神経発達を調節不全にし、脳の変異を引き起こし、疾患発症につながる共通のメカニズムを有していると考えられる。
33. 大規模家族研究により、ADHDは、自己免疫疾患、尿道下裂、知的障害と、遺伝的要因、家族的要因が関係していると出ている。