【加筆内容】10代の若者における自傷行為と自殺傾向のリスク要因と保護要因をガッツリ調べたアンブレラレビューのお話 前編
10代の若者における自傷行為と自殺傾向のリスク要因と保護要因
2024年のオークランド工科大学の研究によると、10代の若者における自傷行為と自殺傾向(自殺行動と希死念慮)のリスク要因と保護要因についてメタ分析のアンブレラレビューを行ってみたそうです。
そもそも10代(10歳から19歳)と定義される青少年の死亡原因として最も一般的なものの1つが自殺とのこと。また、自殺は10~24歳の若者における死亡原因の第2位なんだとか。
更に自傷行為に関しても、2022年の四川大学のメタ分析によれば、反復的な自傷行為の有病率は約20%とのことで、青少年の自傷行為・非自殺的自傷行為(NSSI:自殺意図のない自傷行為)も広く蔓延する問題であるらしい。
一方で、これまで数多くの研究でリスク要因と保護要因を調べてきておりましたが、子どもに焦点を当てたものは意外と少なかったりします。
そこで今回、これまでの知見をまとめて自傷行為と自殺傾向のリスク要因と保護要因をガッツリ調べてみることにしたんだとか。
まず研究者たちは、2003年から2022年12月30日までに発表された該当する系統的レビューとメタ分析をMedline、PubMed、Embase、CINAHL、PsycINFOで検索してみたそうな。すると全部で259件の研究がヒットしたとのこと。次に重複している研究や質の低い研究を除外していったらしい。
最終的に選ばれた研究は33件でして、これらを基にアンブレラレビューを行ってみたそうです。
ということで結果の前に自殺行動・希死念慮・自傷行為の定義を確認しておきます。
- 自殺行為:自ら死に至る意図を持った行為
- 希死念慮:自殺について考えること、自殺を計画すること
- 自傷行為:死ぬ意図がなく故意に自分自身を傷つけること。非自殺的自傷行為(NSSI:自殺意図のない自傷行為)のこと
それでは結果をじっくり見ていきますかー。
10代の若者における自傷行為と自殺傾向のリスク要因
まずは各リスク要因を見ていきます。
【抗うつ薬】
- 最も多く研究されていた自殺行動のリスク要因は、SSRIや新世代の抗うつ薬だった。
- これらの研究は、うつ病と診断された参加者を含む、9~25歳の青少年に焦点を当てていた。
- 抗うつ薬は、ミルタザピン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、フルボキサミン、ベンラファキシン、エスシタロプラムの服薬をチェックしていた。
- SSRIと自殺行動との全体的な関係はOR1.92だった…!
- 抗うつ薬の曝露と自殺行動との関係はOR1.70だった…!
- 抗うつ薬の使用と自殺行動・希死念慮の複合結果との関連性はRR1.58だった…!
- 抗うつ薬(SSRIを含む)への曝露による自殺行動リスクのプール相対リスクは1.38だった…!
- SSRIのみへの曝露による自殺行動リスクのプール相対リスクは1.28だった…!
- 抗うつ薬の使用による若者の希死念慮リスクはOR1.45だった…!
- 抗うつ薬の使用による若者の自傷行為リスクはOR1.44だった…!
上記を見ると、やっぱり若者のSSRI・抗うつ薬の使用は自殺行動・希死念慮・自傷行為のリスクを高めそうですね。この辺は「抗うつ薬の服薬と健康への悪影響についてアンブレラレビューを行ってみた!」でも説得力のあるエビデンスで出ていましたからね…。
【いじめの被害者・加害者】
- いじめの被害者と自殺行動との全体的な関係はOR2.78~3.26だった…!
- いじめの加害者の自殺行動リスクはOR2.62だった…!
- いじめの被害者と希死念慮との全体的な関係はOR2.23と2.34だった…!
- いじめの加害者と希死念慮との全体的な関係はOR2.12だった…!
- ネットによるいじめの被害者と希死念慮リスクは相関関係(r=0.27)にあった…!
- いじめの被害者の自傷行為リスクはOR1.98~2.34だった…!
- ネットによるいじめの被害者の自傷行為リスクはOR3.55だった…!
いじめダメ…!絶対…!が浮き彫りになった結果ですね。しかも、これらのレビューとメタ分析を統合した結果、いじめの被害者と加害者の両方が、自殺行動・希死念慮・自傷行為の共通のリスク要因だと判明したとのこと。非常に当たり前な結論ですが、従来型のいじめでも、ネットによるいじめでも、やっちゃいけないし、やられちゃいけないですね。
【睡眠障害】
- 睡眠障害は、睡眠困難、不眠症の症状、睡眠不足と定義した。
- 睡眠障害と自殺未遂リスクの関係はOR1.92だった…!
- 睡眠障害と希死念慮リスクの関係はOR2.35だった…!
- 睡眠障害と計画のある希死念慮リスクの関係はOR1.58だった…!
睡眠問題も侮れないですね。この辺に関しても「全米医学アカデミーから学ぶ慢性的な睡眠不足のデメリット」や「睡眠不足って健康や肥満など、どんなデメリットがあるの?」で紹介している通りかと。特に「睡眠不足って健康や肥満など、どんなデメリットがあるの?」で紹介した2023年の鄭州大学のアンブレラレビューの結果は衝撃でしたしね。
【女性】
- 自殺未遂は男性の若者よりも女性の若者に多くみられる。
- 女性の若者が自殺行動を経験する可能性は男性のほぼ2倍(OR1.96)だった…!
- 自殺未遂を報告する女性の若者は8.5%だったが男性は4.9%だった…!
- 計画のある希死念慮は男性の若者よりも女性の若者の方が多く、女性の割合は11.4%~19.8%だった…!
- 自傷行為リスクは男性の若者よりも女性の若者の方が高かった。
- 女性と自傷行為との全体的な関係はRR1.72だった…!
- 女性の非自殺的自傷行為(NSSI:自殺意図のない自傷行為)の割合は25.4%だったが、男性は22%だった…!
これらを見ると、女性の若者も注意が必要ですね。
【LGBT】
- LGBTと若者の自殺行動との全体的な関係はOR2.26だった…!
- LGBTと若者の自殺傾向(自殺行動と希死念慮)の全体的な関係はOR2.92だった…!
- バイセクシュアル(バイセクシャル)の若者と自殺行動・希死念慮の関係はOR4.92だった…!
この辺は近年見えてきた傾向と言えましょう。
やはり注意が必要そうですね。
【精神疾患のある青少年】
- 精神疾患と自殺企図リスクの関係はOR3.57だった…!
- 女性の自殺行動に関係する精神疾患は、不安障害、薬物乱用、うつ病、抑うつ症状、精神疾患や虐待などだった。これら精神疾患と女性の自殺行動の全体的な関係はOR1.15~4.49だった…!
- 男性の自殺行動に関係する精神疾患は、不安障害、うつ病、精神疾患や虐待などだった。これら精神疾患と男性の自殺行動の全体的な関係はOR3.79~6.07だった…!
- 女性の若者のうつ病(大うつ病・大うつ病性障害・MDD)と自殺行動との関係はOR4.49だった…!
- 男性の若者のうつ病(大うつ病・大うつ病性障害・MDD)と自殺行動との関係はOR6.07だった…!
- 双極性障害は過去の自殺未遂の割合が21.3%、研究時点で記録された自殺未遂の割合が25.5%だった…!
- 社会不安障害と自殺未遂は相関関係(r=0.10)にあった…!
- 社会不安障害と現在の自殺リスクは相関関係(r=0.24)にあった…!
- 自閉症の若者における自殺行動の割合は8.3%だった…!
- 精神疾患及び虐待の家族歴と、男性の若者の自殺未遂リスクの関係はOR2.63だった…!
- 自閉症の若者における希死念慮の割合は25.2%だった…!
- 双極性障害の若者の希死念慮リスクはRR2.94だった…!
- 精神障害(うつ病症状、不安症状、パーソナリティ障害、適応障害など)と自傷行為リスクとの全体的な関係はOR1.89だった…!
精神障がいを持つ若者や発達障がいを持つ若者も注意が必要そうですね。
【過去に自殺や自傷行為をしたことがある青少年】
- 過去の希死念慮のある女性の若者と自殺行動の関係はOR4.39だった…!
- 過去の希死念慮のある男性の若者と自殺行動の関係はOR3.97だった…!
- 過去に自殺未遂を経験している女性の若者と自殺行動リスクの関係はOR6.96だった…!
- 自傷行為のある青年と自殺未遂の関係はRR9.14だった…!
- 過去に自傷行為や希死念慮の経験がある若者と自殺未遂の関係はOR3.48だった…!
- 過去に希死念慮の経験がある若者と自殺未遂の関係はOR3.26だった…!
- 過去に非自殺的自傷行為(NSSI:自殺意図のない自傷行為)の経験がある若者と自殺未遂の関係はOR2.26だった…!
- 過去の自殺未遂の経験がある若者と自殺未遂の全体的な関係はOR5.56だった…!
- 家族の過去の自殺行動と女性の若者の自殺未遂リスクの関係はOR2.84だった…!
これらを見ると、繰り返すって傾向がみられますね。やっぱり注意が必要そうな感じ。
【懸念される行動のある青少年】
- 青少年の大麻の使用と自殺未遂の関係はOR3.46だった…!
- 青少年の攻撃性やルールを守らない、犯罪行為などは自殺行動リスクが1.59倍高く、違法行為の経験は自殺行動リスクが2.36倍高かった…!
- 青少年の大麻の使用と希死念慮の関係はOR1.50だった…!
- 青少年の学校の欠席と希死念慮の関係はOR1.20だった…!
- 青少年の学校の欠席と自傷行為の関係はOR1.37だった…!
- 青少年の行動問題(インターネット依存、アルコール・薬物の使用、喫煙、スマホ依存、家出、自殺未遂、インターネット・スマホの乱用、処方薬の意図的な間違った使い方(オーバードーズなど)、逃避、オピオイドの間違った使い方、鎮静剤の間違った使い方、ゲーム依存症など)と自傷行為リスクの関係はOR2.36だった…!
- 青少年の喫煙における自傷行為発生率は24.7%で、青少年の非喫煙における自傷行為発生率10.1%よりも高かった…!
- 青少年の飲酒における自傷行為発生率は24.4%で、青少年の非飲酒における自傷行為発生率9.3%よりも高かった…!
一昔前のヤンキーみたいな行動をしている場合や、不登校問題、スマホ依存問題なんかの注意が必要ってことですね。
個人的考察
長くなったので今回はここまで。
続きは来週です。
続きは来週です。
参考文献
最後にまとめてご紹介します。