皆さんは「境界性パーソナリティ障害」ってご存知でしょうか…?
精神障がいには、実に様々な物がございますが、その中でもトップクラスに治療や支援が難しいとして挙げられるのが「境界性パーソナリティ障害」です。過去、うちの就労支援事業所にも境界性パーソナリティ障害をお持ちの方が通っていたんですが、結構支援が大変だったな~と思い出します。
そんな本人も周囲も超大変な境界性パーソナリティ障害ですが、あまり世間には知られていない実情があったりします。まぁ、仕方ないことかもですが…。
そして境界性パーソナリティ障害の代表的な治療法は、薬物治療と認知行動療法になるんですが、その認知行動療法の中でも特に良いとされているのが「弁証法的行動療法(DBT)」です。実は当ブログでも以前にチラッとだけ出てきておりました
ただ、ちゃんと記事にしていなかったんで、今回、書いてみようかと思います。



境界性パーソナリティ障害ってなに…?

まずは境界性パーソナリティ障害がどのような精神障がいなのか見ていきましょう。
DSM-5によると、境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害・BPD:borderline personality disorder)とは、感情、行動、人間関係の不安定さを特徴とする深刻な精神障害とのことです。因みに昔は境界例と呼ばれておりました。
そして2004年のフライブルク大学の研究によれば、重度の心理社会的機能障害があるのが境界性パーソナリティ障害の特徴とのことです。心理社会的機能ってのは、仕事や学校、対人関係みたいな意味で、つまりこれらが上手くいかない・悪化するって感じです。
もうちょい詳しく境界性パーソナリティ障害の特徴を挙げておきますと、

  • 人に見捨てられることへの深い恐怖
  • 理想と過小評価の狭間で心が揺れ動きまくることによる不安定な人間関係
  • 自尊心が常に不安定
  • 衝動的な行動
  • 自傷行為・自殺
  • 激しい感情的反応
  • 慢性的な空虚感
  • 時折くる妄想や解離的な思考

のような形です。
因みに、2002年のパーソナリティ障害共同縦断研究の研究によると、境界性パーソナリティ障害の方はパーソナリティ障害のない方よりも心理社会的機能障害が重度であるのはもちろんのこと、2005年のマクリーン病院の研究では、他のパーソナリティ障害の方よりも心理社会的機能障害が重度であったそうな。そのため、パーソナリティ障害の中でも、特に心理社会的機能障害が重度なのが境界性パーソナリティ障害となっております。
そんな境界性パーソナリティ障害の発症は成人初期に多いとされております。
また発症率については、


って感じ。
更に男女差については、2003年のニューヨーク州精神医学研究所の研究が参考になりまして、男性に比べ女性の方が多いとされております。これはDSM-5でも同様で、境界性パーソナリティ障害と診断されるのは主に女性で、女性と男性の比率は3:1なんだとか。
ただ一方で2008年のアメリカ国立衛生研究所の研究を見てみると、生涯有病率は5.9%で、男性5.6%、女性6.2%と女性が多かったものの有病率に差はなかったそうな。
そのため、女性が多そうなもののはっきりとは分かっていなかったりします。



境界性パーソナリティ障害の特徴

上記の特徴からも想像できる通り、境界性パーソナリティ障害は本人も周囲もかなり振り回されることが多いです。
具体的には、

  • 約束に数分遅刻しただけで激怒する
  • 予定をキャンセルしただけでパニックになる
  • 孤独を避けるため死に物狂いで努力する
  • 気を引くため、演技や脅しを繰り返す
  • 気を引くために自傷行為や自殺未遂を繰り返す
  • 薬物を使用する
  • ギャンブルにハマる
  • 危険な性行為を繰り返す
  • むちゃ食い、気晴らし食いを行う
  • 浪費をしまくる
  • 危険な運転をする
  • 家族や友人、恋人になる可能性のある人を理想化してしまう
  • 家族や友人、恋人などに、常に一緒に過ごすよう指示したり,あらゆるものを共有するよう求める
  • 急に相手が自分を十分に気づかってくれないと感じて幻滅、激昂する
  • ちょっとしたことで急に激怒し、激しい皮肉や嫌味を延々を言い続ける
  • その後、罪悪感を激しく抱き、激しい自己嫌悪に陥る
  • 自分の目標や価値観、意見、仕事や学校、友人を突然変えることがある

などのようなことが起こります。
こんな感じで、激しい感情の変化と制御不能が組み合わさった行動が起きるのが境界性パーソナリティ障害です。



なぜこのような行動を境界性パーソナリティ障害の方はとってしまうのか…?

では、なぜこのような行動を境界性パーソナリティ障害の方はとってしまうのでしょうか…?

  • 激しい感情とその変化をコントロールしようとしたから

が原因とのこと。
なんでも2010年のモナシュ大学の研究によれば、上記に挙げたような衝動的な行動は、感情的な苦痛からすぐに気をそらしたり、和らげたりする効果があるからなんだとか。つまり、体験の回避(回避行動)ってことですね。
但し、このブログを長らくお読みの方や認知行動療法をご存知の方は想像の通り、これでは反って逆効果なんですよね。むしろシロクマのリバウンド効果によりネガティブがさらに増えちゃいますんで。



境界性パーソナリティ障害における二次障害・併存疾患・重複障害リスク

境界性パーソナリティ障害は、二次障害・併存疾患・重複障害リスクが多いことでも有名です。
主なものとしては、


などが挙げられます。
これらは先程も書いた通り、感情のコントロールができない苦しみや見捨てられる不安感、自分には価値がないという自己肯定感のなさからの行動であったり、衝動性からの行動だったりします。



境界性パーソナリティ障害は治療が難しいことで有名…!その最も難しい理由が自殺率の高さ…!

パーソナリティ障害はそもそも治療の難しい障がいなんですが、その中でも最も治療が難しいことで有名なのが境界性パーソナリティ障害です。その主な原因は、衝動性と自傷行為の傾向からの自殺行動の高さなんですよね。そのため、自殺行為とその再発率が境界性パーソナリティ障害を決定づける特徴であるとも言われております。
いくつか研究を見てみますと以下な感じ。

  • 1994年のピッツバーグ大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害の患者さん84名を対象にチェックした結果、自殺未遂をしたことがある患者さんが61名(72.6%)だったそうな。また患者さん1人当たりにおける平均回数が3.39回だったとのこと。
  • 1994年のカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究によると、外来精神科クリニックに連続入院していた1,000人の患者を対象に、過去の自殺未遂と現在の希死念慮についてチェックしてみた。結果、全ての診断で死と自殺に関する様々な思考が広く見られた。また、大うつ病と境界性パーソナリティ障害の患者さんの3分の1以上が実際に自殺を計画していた。更に境界性パーソナリティ障害の患者さんの3分の2以上が1回以上の自殺未遂を行っていた
  • 2000年のピッツバーグ大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害の入院患者さん81名と大うつ病のみの入院患者さん77名を比較してみた。結果、境界性パーソナリティ障害の患者さん81名中68名が生涯にわたって自殺未遂歴があった大うつ病の患者さん77名中27名が生涯にわたって自殺未遂歴があった。また、境界性パーソナリティ障害+大うつ病の方の生涯自殺未遂回数は平均3.0回、境界性パーソナリティ障害のみの方の生涯自殺未遂回数は平均1.9回、大うつ病のみの方の生涯自殺未遂回数は平均0.8回だった。
  • 2001年のマギル大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害の患者さん64名を平均27年間も追跡調査した。結果、実験スタート時からの自殺者の合計割合は10.3%に達し、現在の全患者の18.2%が死亡していた。

いずれの研究を見てもその高さが伺えることでしょう。
次は、自殺行為とその再発率が境界性パーソナリティ障害を決定づける特徴であるとも言われる理由を探るべく、最近発表された系統的レビューとメタ分析を見てみます。



境界性パーソナリティ障害の患者さんにおける希死念慮(自殺願望)、自殺未遂、自殺による死亡率についての系統的レビューとメタ分析

2025年のテヘラン社会福祉リハビリテーション科学大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害の患者さんにおける希死念慮(自殺願望)、自殺未遂、自殺による死亡率について系統的レビューとメタ分析を行ってみたそうです。
これまで見てきたように、境界性パーソナリティ障害は感情や気分、行動が複雑且つ激しく変わる疾患でして、主に人間関係の維持や不安感から起こります。
んで、一般人口の約1~2%が発症しているっぽく、男女ともに発症するものの、女性の方が多い傾向がみられるんだとか。
そんな境界性パーソナリティ障害ですが、先行研究により、希死念慮、自殺未遂、自殺による死亡率が一貫して高いと出ております。今回はそれらの個々の研究結果をまとめて、より質の高い結果を出して見ることにしたそうです。
まず研究者たちは、2024年6月末までに発表された該当する観察研究をPubMed、Scopus、Web of Science、Embaseで検索してみたそうな。すると合計2,464件の研究がヒットしたとのこと。次にこの中で重複している研究を除きつつ、更に質をチェックしていったんだとか。最終的に選ばれた観察研究は35件でして、総サンプル数は34,83​​2名だったそうです。
それでは結果を見てみます。境界性パーソナリティ障害の患者さんにおける各リスクは以下のようになっておりました。

  • 希死念慮(自殺願望):80%
  • 自殺未遂:52%
  • 自殺による死亡率:6%

やはり境界性パーソナリティ障害の患者さんにおける希死念慮(自殺願望)、自殺未遂、自殺による死亡率はいずれもかなり高いですね。因みに研究者によると、境界性パーソナリティ障害の特徴である、衝動性や情緒不安定さが原因なんじゃないか…?ってことでした。
またこの研究では他にも分かったことがありまして、

  • 若者は、希死念慮率と自殺未遂率が有意に高かった
  • 入院患者さんは、自殺未遂率が有意に高かった
  • 外来患者さんは、自殺による死亡率が有意に高かった

とのこと。
一方で境界性パーソナリティ障害+うつ病の場合の影響度は依然としてよく分からなかったみたい。
精神障がいの方の平均寿命は本当に短いのか?」にもあるように、境界性パーソナリティ障害の方の平均寿命は15年ほど短く、また、パーソナリティ障害+ADHDの自殺率は23倍って感じなんで、希死念慮(自殺願望)、自殺未遂、自殺による死亡率が高いのも頷けるかと思います。
では、これだけ難しい境界性パーソナリティ障害の治療にはどんな介入が良いのか…?ってことで、次は、その代表的な治療法である「弁証法的行動療法(DBT)」についての概要を見ていきます。



「境界性パーソナリティ障害」の治療法を考える上で重要な2つのこと

境界性パーソナリティ障害の患者さんの治療法を考える上で、大事な要素が2つあるそうです。
その2つとは、

  1. 対人関係や機能上の困難を乗り越えるために臨機応変な考え方や行動がとれないこと
  2. その後の感情コントロールができないこと

とのこと。
例えば、境界性パーソナリティ障害の患者さんは、見捨てられる不安感から、強い恐れや怒りを感じます。そして必死に相手にしがみついたり、困らせたりする言動や行動なんかをとるんですよね。
そしてこれらの言動や行動の後、見捨てられるのは自分が悪いからだと考えるんですな。これは兎に角、見捨てられることを恐れる、つまり1人になりたくないっていう強い気持ちの表れであるらしい。また、こういった時に上手く行く言動や行動のスキルがない、又はあってもそのスキルを発揮できないことが原因なんだとか。
こんな感じで、境界性パーソナリティ障害の患者さんは、自己評価(自己肯定感)が低いと、感情のコントロールが上手くできず、また、その感情のコントロールをするためのスキルがない・発揮できないので、良い代替方法がないまま衝動的に何かを言ってしまったり動いてしまったりして、後で激しく後悔してしまうみたいです。



弁証法的行動療法(DBT)ってなに…?

今まで見てきたことからも分かる通り、非常に難しい障がいである「境界性パーソナリティ障害」はどのように治療すればいいのでしょうか…?
その代表的な治療法が「弁証法的行動療法(DBT)」になります。弁証法的行動療法は、1987年のマーシャ・リネハンの研究にて発表されておりまして、この方法を1年間しっかり行うことで症状がかなり良くなるみたいなんですな。因みに弁証法的行動療法は第三世代の認知行動療法の一つでして、禅と行動療法が合わさったものとされております。
元々、弁証法的行動療法(DBT)は、自殺傾向が高く、複数の診断を受けている精神障がいの患者さんの治療目的で考案された認知行動療法でして、自分の思考のクセや行動パターンを理解・受容し、考え方の幅を広げ、より戦略的・効果的に問題解決していく方法です。更にここに弁証法的枠組みを用いて行う、つまり矛盾を解決したり、両極端な考え方から真ん中を選ぶような考え方(いわゆるアサーション的な考え方)を用いてバランスをとっていくことがポイントになります。
弁証法的行動療法の基本は、毎週行う行動スキルトレーニングがメインです。
このトレーニングにより、境界性パーソナリティ障害の患者さんは、

  • 感情をコントロールするスキルを身に付ける
  • 苦痛(ネガティブ)に耐えて、他人とうまくコミュニケーションを取るスキルを身に付ける
  • 衝動的な行動の制御力を高める

を目指します。
先にも書いた通り、重要なスキルがない又は発揮できない→誤った言動や行動を行う又は続ける→激しく後悔するって流れを行ってしまうんで、それらを総合的に介入していく感じですな。
そして様々な研究により、この弁証法的行動療法でスキルを身に付け、使用すると、自殺や自傷行為、不安や怒りなんかのネガティブの表現の仕方、対人関係の問題解決が改善するそうです。
次は、具体的な弁証法的行動療法の研究を見ていきます。



メタ分析によると境界性パーソナリティ障害に対する弁証法的行動療法(DBT)の効果量は中程度…!

2010年のブラウンシュヴァイク工科大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害に対する弁証法的行動療法(DBT)の効果についてメタ分析を行ってみたそうです。
まず研究者たちは、該当する先行研究をPubMed、PsycINFO、PsychSpider、Medlineで検索してみたそうな。次に検索にヒットした研究の中で被っている物を除外、その後、適格基準と除外基準に照らし合わせて精査していったらしい。
最終的に選ばれた研究は16件でして、そのうちの8件はRCTだったんだとか。
それでは結果を見てみましょう。

  • 介入前後のドロップアウト率は27.3%だった。つまり4人に1人は脱落していた。
  • 自殺行動と自傷行為に対する弁証法的行動療法(DBT)の効果量は中程度だった…!

ドロップアウト率はまぁまぁ高いものの、中程度の効果がある…!ってのは、なかなかよろしいのではないでしょうか。なんせ境界性パーソナリティ障害は難しいんで。



自傷行為とうつ病に効果アリ…!但しある程度続けないと効果は得られないかも…。

2021年の南京医科大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害における自傷行為・ネガティブ感情の軽減に対する弁証法的行動療法(DBT)の効果についてメタ分析を行ってみたそうです。
まず研究者たちは、該当するRCTをPubMed、Embaseで検索してみたそうな。次に検索にヒットした研究の中で被っている物を除外、その後、適格基準と除外基準に照らし合わせて精査していったらしい。
最後にピックアップしたデータをメタ分析にかけてみた結果、弁証法的行動療法で、

  • 自傷行為が減少していた…!
  • うつ病が軽減していた…!
  • 但し、希死念慮と怒りへの効果は非常に小さかった…。

とのこと。
境界性パーソナリティ障害の症状全てに効く訳ではないものの、自傷行為やうつ病に効果があったのは大きいですね。
因みにサブグループ解析によれば、4ヶ月~14ヶ月でうつ病が有意に減少したけど、4ヶ月の時点では効果が見られなかったらしいんですよね。なんである程度の継続はやっぱり必要みたいです。



境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)と一般精神科治療の効果について3年間(治療1年、退院後2年)の追跡調査を行ってみた…!

2012年のトロント大学依存症・メンタルヘルスセンター(camh)の研究によると、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)と一般精神科治療の効果について3年間(治療1年、退院後2年)の追跡調査を行ってみたそうです。
そもそも境界性パーソナリティ障害に対する認知行動療法やその他の治療が良いのは分かりつつあるものの、長期的な効果を調べた研究は少なかったりします(1年未満の物がほとんど)。また、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法の効果を調べたものも追跡期間が1年以下ばっかなんですよね。
そこで以前に行われたのが2009年のトロント大学依存症・メンタルヘルスセンター(camh)のRCTになります。この研究は、2003年から2006年にかけて行われたもので180名を対象にしております。この方々は、平均年齢30.4歳、女性の割合86.1%、3分の2(65.0%)が失業中、大学に行ったことがある人は42.2%となっておりまして、ランダムに以下の2グループに分けて治療を行ったんですな。

  1. 弁証法的行動療法グループ:90名
  2. 一般精神科治療グループ:90名

それぞれのグループで1年間の治療を行ったそうです。治療後(=退院後)、更に1年間様子を見てみたんだとか。つまり、合計で2年間の追跡調査を行ったってことですね。
その結果、

  • 両グループの参加者は、自殺・非自殺の自傷行為、医療の利用(救急外来の受診、入院日数、向精神薬の使用)、症状悪化(苦痛、抑うつ、対人関係問題、怒りなど)が有意に改善した…!
  • 両グループ間で臨床結果に差はなかった…!

とのこと。
一般的な治療(薬物治療)と同程度の効果が弁証法的行動療法にあったってのはすごいですね~。
んで、本研究では、この効果が治療2年後(つまりスタート時から見て3年後)でも継続するのかチェックしてみたそうです。フォローアップは全部で4回行われたそうで、治療開始から見て18ヶ月後、24ヶ月後、30ヶ月後、36ヶ月後にチェックしたんだとか。
4回のフォローアップ評価、全てを終えられたのは87名(48%)だったそうなんですが、これらのデータを統計処理した結果、以下のことが分かったそうです。

  • 両グループとも、退院後2年間の中で、ほとんどの項目に於いて同等かつ有意に改善していた…!
  • 自殺・非自殺の自傷行為を含むいくつかの項目においても、当初の治療効果が弱まっていなかった…!
  • 抑うつ、対人関係問題、怒りについては更に改善していた…!
  • 退院後2年間の中での寛解率は62%だった…!

1年間、入院して弁証法的行動療法か一般精神科治療をしっかり受けると、その効果は2年後まで続いているんですねー。素晴らしい…!
但し、注意点もございまして、

  • 寛解率は3分の2(62%)であり、生活の質も有意に向上したが、にもかかわらず、36ヶ月後でも53%の方は就労も就学もできず、また、39%の方は障害年金を受給していた

とのこと。
境界性パーソナリティ障害の症状は改善しているものの、社会への復帰まで行けたのは半分ぐらいの人たちみたいですね。
ということで、1年間弁証法的行動療法を行えば、その後2年間症状が改善しそうな感じ。治療の難しい境界性パーソナリティ障害でこれだけ効果があるのは素晴らしいと言えましょう。



境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)の効果について2年間(治療1年、退院後1年)の追跡調査を行ってみた…!

2015年のワシントン大学RCT・単盲検によると、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)の効果について2年間(治療1年、退院後1年)の追跡調査を行ってみたそうです。
この研究は、18歳から60歳までの女性99名が参加したもので、以下の要件を満たした人たちだったそうな。


参加者は1年間、弁証法的行動療法(DBT)の治療を受けて退院、その後、更に1年間追跡調査したみたい。併せて、治療前、1年間の治療期間中~1年間の追跡期間中にかけて、4ヶ月ごとに計7回、症状の変化を評価したそうです。
結果、

  • 1年間の弁証法的行動療法(DBT)の治療により、参加者は統計的および臨床的に症状が改善していた…!
  • 感情調節能力が高い人は、より早く症状が改善していた…!
  • 感情調節能力が低い人は、症状の改善が遅かった…!

とのこと。
重症度により症状の改善スピードに違いはあるものの、間違いなく1年間の弁証法的行動療法で効果があったみたいですね。
ということで研究者曰く、

  • 私たちの研究結果は、弁証法的行動療法が時間の経過とともに機能を改善する効果があることを更に裏付けている

としています。
やっぱり境界性パーソナリティ障害の治療には弁証法的行動療法が良さそうですね。



境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)の有効性についてのRCTの系統的レビュー

2024年のペルーユニオン大学の研究によると、境界性パーソナリティ障害患者における弁証法的行動療法(DBT)の有効性についてRCTの系統的レビューを行ってみたそうです。
今まで見てきたように境界性パーソナリティ障害は非常に難しい精神障がいの一つ。世界の有病率は一般人口で2%、青年で3%、成人で1.5%と推定されております。そして脳のスキャン情報によれば、前頭前野の機能不全が境界性パーソナリティ障害の衝動性や情緒不安定さを起こしている可能性があるらしい。
そんな境界性パーソナリティ障害の治療が難しい理由の一つとして、自傷行為と自殺率の高さが挙げられます。先行研究によれば、境界性パーソナリティ障害の患者さんの約70%が自傷行為の経験があり、また自殺率は一般人口の約50倍とのことです。
そこで治療方法として注目され続けているのが弁証法的行動療法(DBT)です。弁証法的行動療法は、境界性パーソナリティ障害を感情調節システムの誤作動と捉えておりまして、

  1. 認識方法の見直し(=考え方・捉え方の幅を広げる)
  2. 対人効果性(=対人スキルを上げる)
  3. 感情調節(=感情のコントロール法を学ぶ)
  4. 不快感耐性(ネガティブへの耐性を上げる)

っていう4つのスキルを練習・習得していくんですな。
そしてこれまで弁証法的行動療法の効果を調べた研究はたくさんございまして、それらをまとめた系統的レビューとメタ分析もいくつか発表されておりました。
んがしかし、


って感じでした。
そのため、現時点(2024年時点)での最新の知見をまとめ、境界性パーソナリティ障害に対する弁証法的行動療法の効果を調べる必要があったんで今回行ってみたそうです。
まず研究者たちは、2000年1月~2023年6月までに発表された該当するRCTをScopus、Web of Science、PubMedで検索してみたそうな。
すると、

  • Scopus:673件
  • Web of Science:586件
  • PubMed:370件

の合計1,629件の研究がヒットしたとのこと。
次にこの中で被っている研究を除きつつ、質の低い研究を除外していったんだとか。最終的に選ばれたRCTは18件でして、総サンプル数は1,755人、そのほとんどが女性だったとのこと。
それでは系統的レビューの結果を見てみましょう。

  • ほとんどの研究で、境界性パーソナリティ障害に対する弁証法的行動療法は小~中程度の効果があると出ていた…!
  • 弁証法的行動療法で最も効果的だったのは、境界性パーソナリティ障害患者さんの自傷行為と自殺行為に対するものだった…!
  • ほとんどの研究で、短期間の弁証法的行動療法、標準期間の弁証法的行動療法ともに、治療期間後最大24か月、小~中程度の効果(自殺行為の改善)が持続すると出ていた…!
  • 弁証法的行動療法は、境界性パーソナリティ障害患者の一般的な精神病理と抑うつ症状を有意に改善していた…!
  • 弁証法的行動療法は、コンプライアンス(ルールや倫理の遵守)、衝動性、情緒不安定さを改善し、また、入院率の低下をもたらしていた…!

最新の知見をまとめてみても、やっぱり、境界性パーソナリティ障害に弁証法的行動療法は有効だと言えますね…!



個人的考察

以上「非常に難しい障がいである「境界性パーソナリティ障害」とその代表的な治療法である「弁証法的行動療法(DBT)」について学んでおきますかー」でした…!