運動は不安対策になるのか?」シリーズの最終回です。
前回の復習を軽くしておきますと、運動が不安に効く理由の一つは、不安への耐性アップと感受性ダウンって感じでした。
今回は別の理由を探っていきます。



運動が不安に効く理由はいっぱいある…!

2013年のVAノーステキサスヘルスケアシステムの研究によると、運動の抗不安効果のメカニズムに焦点を当ててレビューしてみたそうです。
ということで早速、ポイントを見ていきましょう…!
まずは生理学的メカニズムからです。

  • HPA軸(視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸):運動はHPA軸の変化と深く関係している。そしてHPA軸は、身体的・心理的ストレス要因に対する適応反応の発達において重要な役割を持っている。慢性ストレスがあるとHPA軸が上手く機能しなくなり、結果、うつ病や不安症状に陥る。しかし運動により、HPA軸のホルモン分泌が変化する。これはヒトのストレス反応や不安に対して調節している様子。
  • モノアミン系:モノアミン系とは、セロトニン(幸せホルモン)アドレナリン(エピネフリン:興奮、闘争ホルモン)ノルアドレナリン(ノルエピネフリン:恐怖、驚きホルモン)ドーパミン(やる気ホルモン)などのこと。うつ病や不安障害の方はこれらの放出が減少していたり枯渇していたりして、需要と供給のバランスが崩れている。運動はこれらの脳内物質を抗うつ薬と同程度増やす効果がある。
  • オピオイドシステム:うつ病と診断された方は中枢・末梢のエンドルフィン(俗に脳内麻薬と呼ばれるホルモン。鎮痛効果がある)のレベルが異常な場合がある。そして運動は中枢神経系と末梢神経系のエンドルフィンを増やす効果がある。そのため、運動を行うと気分が高揚したり幸福感がアップしたり、不安感が軽減したりする(ランナーズハイもこれ)
  • 神経栄養因子BDNF(脳由来神経栄養因子)は、脳内で最も豊富な神経栄養因子であり、不安とうつ病の両方に関係している。特にストレスによるうつ病や不安はBDNFレベルを低下させる。それに対して運動はBDNFレベルを増加させる。BDNFが増えることによって、セロトニン作動系の機能を高め、神経細胞の成長を促進する可能性がある。
  • 神経新生:神経新生とは新たな脳内神経細胞が作られることを言う。2002年のテキサス大学の研究によれば、成人の脳、特に海馬における新しいニューロンの成長は、うつ病や不安などの精神疾患の治療に関係していそうとのこと。慢性ストレスはこの神経新生のプロセスを壊す可能性がある。一方で、運動はエンドルフィンや血管内皮増殖因子(VEGF:血管新生を促すタンパク質)、BDNF、セロトニンなど、成人の海馬神経新生にプラスの影響をもたらすことが示唆されている。

ざっくりまとめると、運動により脳内物質やニューロン成長が正常に戻るため、不安に効果がある…!って感じですな。
では次に心理的メカニズムのポイントもチェックしておきましょう…!

  • 不安に対する感受性と耐性:不安の感受性と運動頻度の間には逆相関関係があることが分かっている。運動を行うことにより不安の感受性が低くなる。また不安の感受性の高い人が運動を行うと心拍数の上昇などに慣れてきて耐性が高まる。更に運動を繰り返すことにより、不安への怖れにも慣れてくる。
  • 自己効力感:自己効力感が高い人、つまり潜在的な脅威に対して自分は管理できると自分を信頼できる人は心配に悩まされることなく不安レベルも低い。運動を行うことによって、運動によるストレス対処が上手くなる。また体力が向上すると、持久力の向上や痛みの軽減(筋肉痛が起きにくくなるなど)、継続力の向上などのフィードバックが得られる。更に筋肉がついたり姿勢が変わって見た目も変わってくる。結果、自己効力感がアップする。因みに自分にあったレベルで運動することが自己効力感を最もアップさせるコツとのこと。
  • 気晴らし:運動の不安軽減効果のメカニズムとして、気晴らしになるという理由も考えられる。瞑想やまったり過ごす時と運動の気晴らし効果が同程度という研究結果もある。

こちらもざっくりまとめると、運動で不安に鈍くなり耐性がアップ、更に自信がついて、気晴らしにもなっている…!って感じですな。



個人的考察

ということで運動が不安に効く理由ははっきり分かっていないものの、色々な可能性がありそうな感じでした。更にいえば、運動には不安に効く要素がいっぱいあってその相乗効果で良くなっている可能性もあるとも言えますね。
いずれにしても運動を行うのはメンタルに良さげなのは間違いなさそうです。



参考文献