おそらく障がい者支援のスキル研修の中で最も有名ではないかと思える王道のテクニックがSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)というものです。そのため、知っているよ…!という方も多いと思います。そういう方はここで読むのをやめてもいいかもしれません(笑)
ということで今回は、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)について紹介したいと思います。



SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)ってなに…?

SST(Social Skills Training)は日本語に訳すと社会生活技能訓練といい、自分の感情や考え、要件を相手に上手に伝えられるようにする練習認知行動療法の1つ)のことをいいます。例えば何か失敗をして謝った時、相手が怒って「普通そんな謝り方はしないだろ!」と言ったとします。じゃあ「普通ってなんだろう?どうやったら普通に謝ることになるのだろう?」これを具体的にしたものがSSTです。
SSTには、

  • 基本訓練モデル
  • ステップ・バイ・ステップ方式

の2種類があります。
また、SSTを伝える支援員2名と学びたい方複数で行うのが基本になります。



基本訓練モデルのやり方

基本訓練モデルは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のロバート・ポール・リバーマン(Robert Paul Liberman)教授が考えた方法です。個人の目標達成のために必要なコミュニケーション方法を学習するのが目的となっております。個人の目標達成という事もあり、他の参加者は自分の目標達成と違う場合、応用方法を考える必要があります。
要はピンポイントのコミュニケーション対策なので特定の困った場面での具体的対応策はわかりますが、他の場面では応用を効かせないといけないのが難しいところです。
基本訓練モデルは以下のステップで行っていきます。

  1. まずは個人の問題場面を設定します。 例えば「遅刻して謝ったら怒られた」みたいな場面です。
  2. ロールプレイをします。ロールプレイとは、実際に起こった場面を考え、複数の人で役を決めて演じていき、疑似体験をすることによって適切な対応ができるようになる方法のことを言います。要は実際の場面をこの場で演じて確認・対策してみようってことです。例えば、実際に遅刻して謝った謝り方をその場で再現してもらいます。
  3. 正のフィードバックをします。何かというと今の良いところを言い合うってことです。例えば、謝るとき「申し訳ありませんと言っていた」とか「礼をして謝っていた」などです。
  4. 修正案を考えます。改善するところはどこか皆で言い合います。例えば、謝るとき「相手の方向に体を向けた方が良い」とか「相手の目を見た方が良い」、「理由を伝えた方が良い」などです。
  5. モデリングをします。モデリングとはお手本を見せることです。
  6. 新しい行動のロールプレイをします。 謝る時に「相手の方向に体を向ける」、「相手の目を見る」「申し訳ありませんと言う」、「礼をして謝る」、「理由を伝える」といった形です。
  7. フィードバックを行います。問題ないか確認しつつ、更に+αでいい方法がないか考えます。
  8. 日常生活で実行してもらいます。

以上で終了です。



ステップ・バイ・ステップ(ベラック)方式のやり方

ステップ・バイ・ステップ(ベラック)方式は、メリーランド大学のアラン・S・ベラック(Alan.S.Bellack)教授が考えた方法です。テーマに沿ったいくつかのステップを踏む事によるコミュニケーション方法を学習します。また、ステップを踏んでいくことでわかりやすくスキルを学んでいけます。個人の目標達成ではなく共通して使えるステップ方法の為、一人一人に合った方法ではない、実際に問題が起きた時どのテーマのステップを使うか考える必要があります。
要はピンポイントではなく共通で使える方法です。
ステップ・バイ・ステップ(ベラック)方式は以下のステップで行っていきます。

  1. 技能の意義を明確化にします。技能(スキル)を学ぶ理由を参加者から引き出し、関係あるものは全て是認します。また、挙がらなかったものは説明します。例えば「謝り方」みたいな場面を設定した場合、それがなぜ必要なスキルか理由を聞きます。
  2. ステップを説明します。なぜそのステップが必要か質問し理解を促します。謝り方を例に考えてみるとステップは3つあります。ステップ1「相手の方向に体を向ける」、ステップ2「相手の目を見て申し訳ありませんと言う」、ステップ3「礼をする」といった感じです。
  3. 各ステップがなぜ必要か質問します。ステップ1から必要な理由を確かめていきます。例えば、ステップ1「相手の方向に体を向ける」がないと、誰に謝っているのか分からない、というような感じです。
  4. グッドモデル(良い例)を支援員2名でロールプレイします。 お手本を支援員2名(リーダー・コリーダー)で見せます(モデリングします)。ステップを踏めていたか確認して、どう思ったか聞きます。
  5. バッドモデル(悪い例)を支援員2名でロールプレイします。バッドモデルは子どもの場合、悪ふざけする可能性があるのでやらなくてもOKです。ステップを踏めていたか確認して、どう思ったか聞きます。
  6. グッドモデルを再度、支援員2名でロールプレイします。最後は必ずグッドモデルで終わるようにします。ステップを踏めていたか確認します。
  7. 支援員1名と参加者1名でロールプレイをします。 この時、初めは技能のある人か協力してくれる人から行います。残りの参加者には見ていてもらいます。ロールプレイが終わったら良かった所をフィードバックします(正のフィードバック)。また+αを考えます(修正のフィードバック)。上記例で言うと、ステップ4「理由を伝える」を加える、などです。それらを取り入れ、再びロールプレイを行い、正のフィードバックをします。
  8. 他の参加者とロールプレイします。自分の番でないときもロールプレイを見続けることで、良いお手本を何度もみることができます。
  9. 実際に取り組む事、取り組んだ事を後日報告します。

以上で終了です。



SSTを効果的に進めるポイント

SSTを効果的に進めるために、開始時、毎回以下の内容を確認するとよろしいかと思います。

  • 視線:視線を合わせる
  • ジェスチャー:ジェスチャーを使う
  • 姿勢:相手の方を向く
  • 表情:話に合った表情をする
  • 声:相手に聞こえる声の大きさにする
  • 話し方:しゃべり方に注意する
  • 内容:話す内容に注意する
  • パス:SSTで意見を求められたときはパスしてもOK
  • 離脱:席を立つときはスタッフに一言言う
  • 守秘:誰が何を言ったのかSSTだけに止める

これらを意識して行うとより上手くSSTができます。また、トラブルにもなりづらいです。



ステップってどうやって作るの…?

SSTのやり方が分かったところで、次に、ステップの作り方についてご紹介していきます。
ステップを作りは、分けた行動をどのように実践していけば、自然に技能が活用できるようになるのかを考え、構成していきます。
具体的なステップ作りの基本は以下のようになります。

  • ステップは明確にしましょう。
  • ステップは簡潔な技能・文にしましょう。
  • 行動を細かく分けましょう。
  • ステップは基本的に3~5つくらいにしましょう。

上記を踏まえつつ、ステップを作っていくとよろしいかと思います。
後はたくさん作ることによって、徐々に上手く作れるようになりますねー。



ステップとスキルって何が違うの…?

ステップを作る時に疑問に思うのがスキルとの違いってなに…?ってこと。実は、スキルのパーツ、より細かな行動をステップと言います(下図なイメージ)


しかし、そのステップも、更に細かなステップの集合体である場合もあります。ここで肝心なのは、SSTの対象者にとって、それがステップとして習得できるくらいのボリュームなのか、それともスキルとして習得するくらいのボリュームなのかを見極める事です。つまり、対象者によってスキルかステップかの判断は異なります。
例えば「会話を続ける」を例にすると、ステップとして考えられるのは、

  1. 話を始める
  2. 相手の話を聞く
  3. 相手の話に質問をする
  4. 自分の意見を伝える
  5. 相手の質問に答える

などになります。
しかし、「話を始める」を一つとってみても、

  1. 相手が話しかけられていいかどうか様子を見る
  2. 相手の顔を見る
  3. 「ちょっといいですか?」と一声かける
  4. 話したいことの内容を伝える

などのように更に細かなステップに分ける事が可能です。
このように「話を始める」をステップとするのかスキルとするのかは、対象者のアセスメントによって異なります。



ステップを作ってみよう…!

最後にステップの作成練習事例を一つ載せておきます。

  1. Bさんがポットの前に立っていると、Aさんがいきなり「かけたいのでいいですか…?」と言ってきた。
  2. Aさんはどうやら使い終わった布巾をかけたかった様子。 Aさんの言い方で、Bさんは不快な気持ちになった。

上記事例からステップを作ってみてください。
…。
できましたか…?
一応下記にステップ例を載せておきますのでご覧ください。


「会話を自分から始める」技能を学ぼう…!

ステップ1:相手が話しかけられていいかどうか様子を見る
ステップ2:○○さん今いいですか…?と聞く
ステップ3:内容を伝える

良い例
Aさん:(Bさんが話しかけられていいかどうか様子を見て)Bさん今いいですか…?
Bさん:はい。
Aさん:布巾をかけてもいいですか…?
Bさん:お願いします。

悪い例
Aさん:(突然)かけたいのでいいですか…?


こんな感じですかね~。
是非、色々なスキルのステップを作ってみてください。



個人的考察

書いていて思ったのがやっぱSSTは文章より実際に見た方が分かりやすいな~ということでした(笑)
支援者や参加者が複数いないとできないのが難しいところなので使うタイミングが重要だと感じます。また、題材があまりにも当たり前すぎるとばかばかしくて参加しない人がでてしまう、逆に難しい題材にすると理解できない人や使いどころがピンポイントすぎるようになってしまい良くわからないという人がでてしまうのが難しいです。そのため、グループを分けたり、基礎編と応用編にカリキュラムを分けて行うといいかもしれません。
また、コミュニケーションのスキルを学ぶよ~というと身構える人や嫌だな~という人がいますが、SSTをするよ~というとなぜか参加する人なんかもいます(笑)
それと、問題が発生しその場ですぐに伝えたい時は、グループではなく個人とその場でミニマムにSSTを行うとフットワークが軽くなって使いやすいと思いますのでおすすめです。
最後に、SSTは一般社団法人SST普及協会という団体があり、通常、そこからSST普及協会認定講師の方が派遣されて各地でSSTの研修を行っています。研修は通常有料で2日間にわたって行うことが多いです。ご興味のある方は受けてみるとよろしいかと思います。



参考文献