認知行動療法の基礎と展開「第8回目 メタ認知療法」
毎月恒例の月1社内研修が令和2年12月8日にありましたので、内容を備忘録としてブログに残しておきます。過去の社内研修内容を確認したい場合は下記からご覧ください。
認知行動療法の基礎と展開 第8回目「メタ認知療法」
今回の月1社内研修では「メタ認知療法」の動画を1.5倍速で視聴しました。
講義資料はこちらからダウンロードできます。
しせつちょうのメモ帳
今回の講義内容のポイントを私なりにまとめておきます。
参考程度にどうぞ。
参考程度にどうぞ。
- メタ認知療法(MCT)はエイドリアン・ウェルズが注意、自己注目(自分に注意が向き過ぎること)、メタ認知の認知心理学的研究に基づいて開発した認知療法的介入体系のこと。
- メタ認知療法では自動思考を問題と捉えていない。認知療法は自動思考を問題としモニタリング、変えていくことを目標にしていた。理由は自動思考は知覚の一つ(六根の一つ)であり内容を変えることはできないため(無我)。また、変える必要もない。
- 自動思考はメタ認知的信念によってコントロールされている一部の為、大本であるメタ認知的信念、メタ認知的要因の方を変える必要があると考えたのがメタ認知療法の基本的な考え方。
- メタ認知療法はメタ認知の内容を変える認知行動療法。特にネガティブなメタ認知的信念に直接介入するのはメタ認知療法だけ。
- メタ認知=認知に適用される認知=認知の認知=認知の客観的認知=認知の客観視
- メタ認知はメタ認知的知識、メタ認知的経験、メタ認知的方略に区別されている。
- メタ認知的知識=心配する事(例:この状況を乗り切るためには、心配する(認知)ことが必要(知識)だ)。メタ認知的信念はここに含まれる。
- メタ認知的経験=すでに知っている事(例:なんかこの感じは知っているな~と感じること)
- メタ認知的方略=対策方法の事(例:思考をコントロールし信念を守るための方法)
- メタ認知療法では対象モードとメタ認知モードを区別しているのが特徴の一つ。
- 対象モード(思考は現実と区別されない)≒認知的フュージョン
- メタ認知モード(思考は自身や世界と別の出来事として観察される)≒脱フュージョン
- 自己調節実行機能(S-REF:エスレフ)モデルとは病理的な認知プロセス。自己注目の概念から発展してきたモデル(自己注目をしているときに心の中で何が起こっているのかをモデル化したもの)
- 自己調節実行機能(S-REF:エスレフ)モデルは3階層で働いている(下記画像参照)。これに良いも悪いもない。ポジティブ、ネガティブと言う必要もない。
- 自己調節実行機能(S-REF:エスレフ)モデルの3階層はメタ・システム(長期記憶)、認知スタイル(反芻思考や心配はここで起こる)=狭義のS-REF、下位レベルの情報処理(色々なところから入ってくる入力信号を捉えるレベル(下位レベル)の情報処理。入力には外から入ってくるもの、内から(身体から)入ってくるものがある)からなる。
- 3階層な理由は、生きていくには外から情報を取り入れなければいけない(下位レベルの情報処理)、学習したり本能的に知っていることをどこかに保存しておかなければいけない(メタ・システム)、それら2つを照らし合わせて最適な自分を作り出さなければいけない(認知スタイル)ため。このことから認知スタイルが重要となる。中間の階層である認知スタイルが上手く働かないとうつ病や不安障がいになっていく。
- 狭義のS-REFが病理的になっているとうつ病や不安障がいにつながっていく。
- 狭義のS-REFが病理的になった状態のことを認知注意症候群(CAS:キャス)という。
- 自己調節実行機能(S-REF:エスレフ)とは自己注目を拡張した概念。これが病理的になると認知注意症候群(CAS:キャス)となる。
- 認知注意症候群(CAS:キャス)は、脅威刺激への注意バイアス、心配や反芻という反復的思考、回避行動や思考抑制などの役に立たない対処行動の3つで構成されている。
- 脅威刺激への注意バイアスとは、脅威モニタリング(不安障がいであれば危険を探す、うつ病であれば自分の評価を落とすようなものをあえて探すなど)のこと。
- 心配や反芻という反復的思考とは、反芻思考(過去の後悔)や心配のループ(未来の不安)のこと。
- 病理的なのがCASだが病理的である必要はないと考えたのがディタッチド・マインドフルネス(DM)。病理的ではなく自己に目を向けていても(内的注意・自己注目していても)、健康的に正常な情報処理をするのが可能ではないか、それはどのような状態なのかを考えて定式化したのがディタッチド・マインドフルネス(DM)。
- ディタッチド・マインドフルネス(DM)とは、距離を置いた注意深さのこと。ディタッチド=距離を置くという意味で、アクセプタンスと共通点がある。マインドフルネス=気付きの意味で、今この瞬間をとらえる気付きのこと。
- メタ認知療法の目標はCASからDMへ変化させること。
- CASとDMの違いは下記画像参照。
- ディタッチド・マインドフルネス(DM)は繰り返し訓練するよりも、体験的理解を得ることを重視する。つまり、練習するものではなくそのような心のモードがあることに気付いてもらえればOK。
- 状況への再注意法≒注意の分割。社交不安障がいの人は人前で話をするときに首をひねっている人やニヤニヤしている人にばかり注意がいってしまい、ちゃんと聞いてくれている人や頷いている人、特徴がない人が目に入らなくなってしまう(脅威モニタリング)。このように自分を緊張させるものばかり目に入ってくるときに使うのが状況への再注意法。視野を広げ、話をしている場所の広さや人数、男女比、服装の色、温度、風、音など自分にとって危険な物だけではなく色々な情報を(関係ない情報なども)捉えるようにしていく。
- 注意訓練(注意トレーニング・ATT)は中性の音刺激を用いて(自己注目にならないようにする。自分の中の刺激は使わない)、注意コントロールを直接的に訓練する方法。上記2つと違い繰り返し練習できる。マインドフルネス認知療法は呼吸による身体感覚の変化を使うので自分の中の刺激を使う。エイドリアン・ウェルズは身体の情報(自分の中の刺激)を使うと一歩間違えれば自己注目になると考えた。そのため、はっきりとした外の情報を使うようにした。但し、熊野先生曰く、日本人には外の音も身体の情報も変わらないような気がするとのこと。
- ディタッチド・マインドフルネス(DM)のマインドフルネスはモニタリング(観察)そのもの。ディタッチド(ディタッチメント)はモニタリングした結果の反応について距離を置くこと、メタ認知的な視点を持つこと。
- ディタッチド・マインドフルネス(DM)を体験する方法はいくつかある。最も分かりやすいのが自由連想タスク。
- 自由連想タスクとはいくつかの単語を読み上げてもらい、その単語を聞いたときに心がどのような反応をするのかを観察することができるかという練習(詳しくは下記画像参照)。病気の種類によって感じられるものが違う。
- DMとマインドフルネス認知療法の違いは、マインドフルネス認知療法には法則性(無常・苦・無我)に気付くこと、深く理解する事(智慧)を目的にしていたが、DMにはそれがない。もう一つの違いは視点の場所(詳しくは下記画像参照)。マインドフルネス認知療法は視点が自分の中心にあり、私的環境、公的環境を問わず注意が外に向かっていく。DMは視点が自分の中と外の境界線にある。自己注目を病理的な状態でない状態(CASでない状態)で行うため、自己の内側に注意が向かう。
- 注意訓練(注意トレーニング・ATT)はネガティブ思考を制御する(対処する、避ける)ものではない。落ち込みや不安を紛らわすための物ではなく、注意の基礎力(柔軟性)をアップさせるのが目的。避けようとするとCASが働き逆効果。
- 注意訓練を実際に行う時は生活音を使う。3ステップで選択的注意(持続)→注意の転換→注意の分割の順で行う(詳しくは注意トレーニング(注意訓練・ATT)を参照)
- 病気によって苦手なステップが異なる。選択的注意(持続)はうつ病の人が苦手。注意の転換は強迫性障害の人、ADHDの人、社交不安障がいの人が苦手。注意の分割は不安障がいの人、社交不安障がいの人が苦手。希望的観測としては、上記の訓練を積めば症状の改善につながるかもしれない。
- うつ病の人が新聞を読めなくなるのは上記の為。
- メタ・システムへの介入にはメタ認知的信念への介入とメタ認知的プランへの介入がある。
- メタ認知的信念にはポジティブなメタ認知的信念とネガティブなメタ認知的信念がある。
- ポジティブなメタ認知的信念とは心配や反芻は失敗防止や問題解決に役立つ。つまりリフレーミングで挙げていること。
- ネガティブなメタ認知的信念とは心配や反芻をコントロールできないと思い、また、危険な状態であると思っている。更に強迫性障害(OCD)の人は思考は事実と同じぐらい重要だと思っている(例:あいつを殺してやれと思っただけで、実際殺したこととイコールになる)。PTSDの人は記憶は事実と同じぐらい重要だと思っている(例:昔の体験を思い出しているだけなのにいつになったらなくなるのか、また思い出してしまった、自分ではなくなってしまったんだと考えてしまう)
- メタ認知的信念への介入はネガティブなメタ認知的信念から扱う(明示的に扱うのはメタ認知療法のみ)具体的な介入方法は下記参照。
- 支持する根拠と反する根拠を話し合う(言語的再帰属)。反芻思考が止まらないときに本当に止まらないのか、急に電話がかかってきても止まらないのか、電話に出ないのかなど。
- 心配・反芻の先延ばし(1日の遅い時間に、15分程度心配・反芻をするための時間を設定)。5分後悩もうとか1日で心配する時間を事前に決めておきその時しっかり心配しようという方法。寝る前にエクスプレッシブライティングをするのがおすすめな理由がコレ。かなり使えて効果も高い。これが出来たらコントロールできるということ。
- コントロール喪失実験(心配時間を設けて、心配をしてコントロールできない状態になってもらう)。「中途半端に考えるな…!しっかり考えろ…!っておはなし」で紹介したことがコレ。
- うつ病(大うつ病(だいうつびょう))では反芻している自体に対するメタ認知的気づきが弱いので注意トレーニング(注意訓練・ATT)から行う。その後、DMも行う。
- 強迫性障害(OCD)やPTSDでは対象モード(思考や記憶は現実と区別されない)状態であるためDM(ディタッチド・マインドフルネス)から始める(メタ認知的に捉えられることを知ってもらう)。エクスポージャー(暴露療法)は、CASの中断か、思考や記憶と現実の違いを理解するための短時間で良い。つまり考えている事と事実が違うことを気が付いてもらうために実際の題材を使うのが目的のため5分ぐらいあれば十分。
- ポジティブなメタ認知的信念の具体的な介入方法は下記参照。
- 言語的再帰属(ずっと反芻してきて、落ち込んだまま?役立っている?)
- 利点-欠点分析(利点よりも欠点が多くないかを検討)
- 心配・反芻調整実験(する日、しない日を比較してもらう)
- 全般性不安障がいは心配について心配するため雪だるま式に大きくなる。介入は心配についてのネガティブな信念を見つけるために「最悪のシナリオ」を聞くと良い(ここは「ポジティブシンキングの罠」や「WOOP」と同じ。因みに心配の97%は取り越し苦労なんて研究もあったりする)
- トリガー(ふっと思う心配)にDMを適用し、先延ばしする(先延ばしは兎角嫌われがちだが中には有効な先延ばしも存在する)
- 大うつ病に対してメタ認知療法の効果が大きい、早いのは二重に介入しているから。一つは認知療法的にトップダウンのところにメタ認知的信念を変えるという方法で介入しているから。もう一つは認知機能と言われる基礎的な能力に介入しているから。
- 反芻や心配を生み出す脳の働きが分かってきた。デフォルトモードネットワークの働きが関わっている。前頭葉の内側面と頭頂葉の内側面にデフォルトモードネットワークのセンサーがありここが働くと反芻や心配が強くなる。この働きはマインドフルネスの練習や注意トレーニングで抑えられる。デフォルトモードネットワークが起動するとマインドワンダリングが起きる(色々なことが浮かんでくる状態のこと=思考が遊びだす状態のこと。いわゆる「心ここにあらず」な状態のこと)。これがネガティブになっていくのが反芻や心配。因みにうつ病の人はデフォルトモードネットワークが小さい。
次回の講義資料・全講義資料
次回の講義資料のダウンロードページは下記となります。全講義資料のダウンロードページは下記となります。
講義資料まで用意してくれているなんて熊野先生に感謝です…!
個人的考察
以前ご紹介した注意トレーニング(注意訓練・ATT)を筆頭に、過去当ブログでご紹介してきたことがたくさんでてきましたね~。皆さんは覚えていましたか…?因みに注意トレーニングの記事で紹介した研究もエイドリアン・ウェルズ博士のものだったりします。
それと注意トレーニングを実際にしてみたいので音源が欲しい…!って方はこちら(https://hipstersound.com/index.html)がおすすめ。インターネットにつながっていればその場で自分で音源を選んで作れますんでよければお使いください。
話変わって…。注意トレーニングをみて思うのがオーケストラの指揮者なんか超得意そうな気がするんですよね。例えば、ある一人の音がずれていると注目したり、楽器別にみたとき(数人)の演奏がずれていると注目してみたり、オーケストラ全体の音が一体になっているか注目したりなんかこれに非常に近い気がします。
個人的には、注意トレーニングをすると注意力がアップしますんで集中力もアップするような気がします。切り替えもうまくなるんでシングルタスクの使い方も上手くなるような感じがしますんで非常におすすめですね~。