【まとめ】知的障がいの方の平均寿命は本当に短いのか?
今回はこの部分、つまり、知的障がいと平均寿命の関係について見ていきます。
…っとその前に、前提情報として、知的障がいと平均寿命の研究は遅れているのが実情です。
この辺は2015年のランカスター大学の系統的レビューなんかが詳しくて、国レベルで見ても世界的に見ても、知的障がいを持つ方の死亡率や死因などについて積極的に研究されていないんですな。
んで、日本も実はその国の一つだったりします。この分野における日本の研究は非常に遅れておりまして、そもそも研究がほぼなかったりするんですよ。
フィンランドに住む知的障がいのある方を35年間追いかけ平均寿命を調べてみた…!
2000年のヘルシンキ大学の前向きコホート研究によると、フィンランドに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみたそうです。
この研究は、フィンランドの全国人口調査データセットを用いたもので、知的障害を持つ方の平均寿命をチェックしてみたと言うもの。驚くべきはその追跡期間でして、なんと35年間もずーっと追い続けてみたというものなんですよね。
その結果、1年間に換算して60,969人分のデータが手に入ったとのことで、このデータを基に知的障がいの重症度と平均寿命を計算してみたんだとか。
統計処理の結果がどんな感じだったかと申しますと、
- 軽度の知的障がいを持つ方の平均余命は一般集団よりも短いわけではなかった…!
- 軽度の知的障がいを持つ方の30歳までの平均寿命も短いということはなかった…!
とのこと。
従来から言われてきた、知的障がいの方の寿命は短い、特に乳幼児や子ども時代の死亡率が高いってのが見当たらなかったのは意外ですね。
但し、重度の知的障がいの方だと様相が変わっておりまして、
- 重度の知的障がいを持つ方は一般集団と比較して、ほぼ全ての年齢層で死亡率が20%以上高かった…。
とのこと。
重度の知的障がいの方になると、従来から言われている通り寿命がどうしても短くなってしまうみたいですね。因みに男女の違いは60歳以降に現れるみたいなんですが、性別間の寿命の差は小さかったそうです。それと、てんかんや聴覚障害は、知的障がいの重症度に関係なく死亡リスクを上げていたみたい。障がいを複数持っていると寿命は短くなってしまうようですね。
ということで、知的障がいの重症度によって平均寿命は変わるみたいですが、以前の予想よりも長生きな可能性が高く、特に軽度の知的障がいの方だと一般集団と変わらないみたいです。
フィンランドに住む知的障がいのある方を35年間追いかけ原因別の死亡率を調べてみた…!
上記と同じ研究者は原因別の死亡率ってのも調べてくれておりますので、お次はこちらをチェックしておきましょう。
2001年のヘルシンキ大学の前向きコホート研究によると、フィンランドに住む知的障がいのある方の原因別の死亡率について調べてみたそうです。
この研究は、フィンランドの全国人口調査データセットを用いたもので、上記同様、追跡期間が35年間となっております。2歳~97歳までの2,369人が対象でして、実験期間中に亡くなってしまった1,095人のデータ数は1年間に換算して64,539人分だったそうな。
このデータを統計処理した結果、
とのこと。
どうやら心血管疾患(CVD)、呼吸器疾患、ガンでの死亡率が高く、また40歳までの病気のリスクも高かったみたいですね。但し、一般集団よりも男女差が小さく、ガンや外因性リスクも小さかったみたい。また40歳を過ぎたあたりから一般集団と変わらない感じになるみたいですな。
オーストラリアに住む知的障がいのある方の約50年間分のデータで平均寿命を調べてみた…!
2002年のエディスコーワン大学の研究によると、オーストラリアに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみたそうです。
そもそも世界で見てみますと、IQが50未満の子ども達は0.3%~0.5%ほどいるそうで、また50~70の軽度知的障がいの方だと0.2%~4.0%ほどいると言われております。んで、オーストラリアでは、人口の1.7%~1.9%ほど知的障がいの方がいると推定されているそうな。
そもそも世界で見てみますと、IQが50未満の子ども達は0.3%~0.5%ほどいるそうで、また50~70の軽度知的障がいの方だと0.2%~4.0%ほどいると言われております。んで、オーストラリアでは、人口の1.7%~1.9%ほど知的障がいの方がいると推定されているそうな。
しかし、オーストラリアを含むほとんどの国では診断されていない知的障がいの方もいるそうで、この数字はある程度低めに出ている可能性があるらしい。
その中で知的障がいの方の平均寿命を調べた先行研究がいくつか出てきておりまして、例えば、1994年のノースゲートNHS財団トラストの研究や1999年のニューヨーク州精神遅滞・発達障害局の研究によりイギリスやアメリカの知的障がいの方の平均寿命が大幅に延びていたそうです。
ではオーストラリアではどうなのか…?ってことで今回調べてみることにしたんだとか。
まずオーストラリアは6つの州がございまして、その中の西オーストラリア州は人口が都市部に集中しており74%の方がパース周辺に住んでいるそうな。
そして1952年に州政府機関である障害者サービス委員会(DSC)ってのが設立されたらしい。その後1953年から障がいのある方へサービスを提供した際のデータがデータベースに保管されているんだとか。今回はそのデータベースを用いて平均寿命を見てみたそうです。
その結果、9,824人の知的障がいの方のデータがあったそうで、そこから正式な知的障がいの判定を受けていない方のデータを除外し、最終的に8,724人のデータが集まったみたい。
期間は1953~2000年だったんで、約50年間分のデータで平均寿命を見たことになります。これはなかなかの期間ですな。
それではどうだったか結果を見てみましょう…!
- 軽度知的障がいの方は54.7%、中度知的障がいの方は27.8%、重度知的障がいの方は17.5%いた。
- 女性(41.6%)よりも男性(58.4%)の方が知的障がいを持っていることが多かった。これは知的障がいの重症度に関係なく一貫していた。
- 知的障がいの方全体の50%生存率は68.6歳だった(オーストラリアの一般人口における50%生存率は、男性75.6歳、女性81.2歳)
- 知的障がいのある男性の平均寿命は66.7歳だった。知的障がいのある女性の平均寿命は71.5歳だった。つまり男性の方が寿命が短かった。
- 知的障がいの重症度と平均寿命は非常に有意な負の相関があった。
- 軽度知的障がい方の50%生存率は74.0歳だった。
- 中度知的障がい方の50%生存率は67.6歳だった。
- 重度知的障がい方の50%生存率は58.6歳だった。
- 遺伝的疾患の有無と寿命の中央値には有意な負の相関があった。
- 遺伝的疾患がない知的障がいの方の寿命の中央値は72.2歳だった。
- 遺伝的疾患のある知的障がいの方の寿命の中央値は60.1歳だった。
全体的にみれば、一般人口よりもどうしても寿命は短くなってしまうみたいですね。しかし知的障がいの重症度別でみてみると、軽度知的障がいの方は、一般人口と同じみたいですな。
フィンランドの研究と大体同じ結果がオーストラリアでも出た感じですね。
因みに上記の研究ではIQ検査にウェクスラー式知能検査を使っているみたいです。
ウェクスラー式知能検査の場合、
- 重症度:IQ
- 軽度:55~69
- 中度:40~54
- 重度:39未満
って感じで、以前に紹介したICD-10とは若干違うんですな。まぁ、こちらの方がちょっと厳しめに見ているって印象です。
イギリスに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみた…!更に回避可能な死亡要因もチェックしてみた…!
2013年のブリストル大学の研究によると、イギリスに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみたそうです。更に、知的障がいのある方とない方の回避可能な死亡要因を比較してみたんだとか。
ということでまず研究者たちは、イングランド南西部で医師によって診断された4歳以上の知的障がいのある方々の死亡についてチェックしてみたそうな。すると2010年6月1日~2012年5月31日までの間に247人の方が亡くなっていたらしい。また併せて、死亡についての詳しいデータも集めたそうです。次に比較対象として、知的障がいのない方で年齢や性別、死因がほぼ同じ方の死亡調査も行ったみたい。
最後に集まったデータを統計処理し、傾向をチェックしてみたんだとか。
その結果、
- 知的障がいのある方のほぼ4分の1(54人、22%)が50歳未満で死亡していた。
- 知的障がいのない方の50歳未満での死亡率は9%だった。
- 知的障がいのある方の死亡年齢の中央値は64歳だった。
- 知的障がいのある男性の死亡年齢の中央値は65歳だった。
- 知的障がいのない男性の死亡年齢の中央値は78歳だった。
- 知的障がいのある女性の死亡年齢の中央値は63歳だった。
- 知的障がいのない女性の死亡年齢の中央値は83歳だった。
- 知的障がいの重症度が重くなるほど死亡年齢の中央値は低かった。
- 軽度知的障がいの方の死亡年齢の中央値は68歳だった。
- 中度知的障がいの方の死亡年齢の中央値は64歳だった。
- 重度知的障がいの方の死亡年齢の中央値は59歳だった。
- 重度知的障がいの方と複数の障がいを持つ場合の死亡年齢の中央値は46歳だった。
- 質の高い医療が原因の回避可能な死亡は、一般人口(13%)よりも知的障がいのある方(244人中90人、37%)の方が高かった。
う~ん。知的障がいのある男性は一般人口と比較して平均13歳も死亡年齢が早く、女性に至っては20歳も早いんですね。またこれまで見てきた先行研究と違い、このイギリスの研究では、軽度知的障がいの方の死亡年齢の中央値は一般人口に比べ、かなり若かったみたいです。
但し希望もありまして、質の高い医療が原因の回避可能な死亡が一般人口よりも知的障がいのある方に多く見られたみたいなんで、ここを対策することにより、もっと寿命を延ばせる可能性があるということ。まぁ、そもそもそんな差があるのが問題なんだ…!って言ったらそれまでですが…。
因みに回避可能だった原因については、
- 本人のニーズに対して不十分又は不適切な入所施設や生活スタイル
- スタッフに話を聞いてもらえなかったと感じる家族
- 高度な医療ケアと計画における問題
- 本人のニーズの認識とニーズの変化に調整・対応が難しかった問題
- 本人の意思決定能力の評価と本人の医療ケアの意思決定プロセスのズレ
の割合が有意に高かったとのこと。
確かにどれもありそうですね。特に知的障がいの重症度が重くなるほど、本人のニーズをちゃんと把握し変化にも対応するのは難しいでしょうな。
ドイツに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみた…!
2015年のカトリック応用科学大学の研究によると、ドイツに住む知的障がいのある方の平均寿命について調べてみたそうです。
この研究は、2007年~2009年にかけてのドイツの2つの州のデータセットを使ったもので、知的障がいのある方の年齢層別の死亡率と平均寿命を統計処理して出してみたと言うもの。
ということで早速結果を見てみますと、
- ノルトライン=ヴェストファーレン州の男性知的障がい者の平均寿命は70.9歳だった…!
- バーデン=ヴュルテンベルク州の男性知的障がい者の平均寿命は65.3歳だった…!
- ノルトライン=ヴェストファーレン州の女性知的障がい者の平均寿命は72.8歳だった…!
- バーデン=ヴュルテンベルク州の女性知的障がい者の平均寿命は69.9歳だった…!
とのこと。
そしてこれらの結果を他の研究と比較すると、
- 知的障がいのある方の平均寿命が今後も延びる傾向にある…!
ということが分かったんだとか。
障がいのない方よりも平均寿命は低いものの、確実に延びており今後も延びることが予想されるみたいですな。
イングランド公衆衛生サービスが知的障害のある方の平均寿命について調べてみた…!
2017年のイングランド公衆衛生サービスの研究によると、イギリスにおける知的障害のある方の平均寿命について調べてみたそうです。
なんでも、これまで知的障害を持つ方の寿命研究はされていたんですが、イギリスの全国的な調査がなかったんでこの度行ってみることにしたとのこと。
研究は、2010年4月~2014年3月までのCPRD(Clinical Practice Research Datalink)っていうデータベースを用いたそうで、対象期間におけるイングランドの人口のおよそ5%をカバーしているんだとか。
このCPRDによって知的障害の有無に関わらず、全死亡リスク、原因別の死亡リスクといったデータを出して見たらしい。また、医師により知的障害と診断された人も特定し知的障害を持っていない人と比べてみたそうです。
その結果、
- 知的障害を持つ人の死亡リスクは、知的障害を持っていない人よりも有意に高かった
- 知的障害を持つ人の全死亡リスクは3.18倍だった
- 知的障害を持つ人の出生時の平均寿命は、持たない人よりも19.7年も短かった
- 知的障害を持つ人の主な死亡原因は、循環器疾患、呼吸器疾患、ガンだった
- 知的障害を持つ人は、脳血管疾患、血栓静脈炎、肺塞栓症の死亡リスクが3倍を超えていた(つまり血の塊で血管が詰まる形の病気による死亡リスクが高い)
- 知的障害を持つ人の回避可能な死亡原因には、てんかん(死亡の3.9%)、誤嚥性肺炎(死亡の3.6%)、結腸直腸ガン(死亡の2.4%)があった
とのこと。
う~ん。イギリスで大規模に調べてみるとやはり知的障がいをお持ちの方の平均寿命は短い傾向にあったみたいですね。特に出生時や血栓系の病気は注意が必要だと。
知的障がいの方の寿命について系統的レビューを行ってみた…!
2018年のグラスゴー大学の研究によると、知的障がいの方の寿命について系統的レビューを行ってみたそうです。
そもそも知的障がいの方の寿命は一般人口よりも短いと言われておりまして、これまでいくつもの研究で本当かどうか調べられておりました。今回はそれらの先行研究のデータをまとめて大きな結論を出して見ようとなったそうです。
ということでまず研究者たちは、知的障害と寿命にまつわる先行研究をデータベースで検索してみたそうな。すると、19,111件もの研究がヒットしたとのこと。続いてこの中から、基準を満たす質の高い研究をピックアップしていったらしい。
最終的に基準を満たしたのは27件の研究だったそうで、これらのデータを基に系統的レビューを行ってみたんだとか。
では、結果を見てみましょう。
- 知的障がいの方は一般人口と比較して、寿命が20年短かった。
- 但しここ数十年で改善傾向にあった。
- 重度知的障がいや他にも疾患を持っている方は、より寿命が短かった。
- 死亡率は、男性よりも女性の方がばらつきが大きかった。
- 主な死因は、呼吸器疾患、循環器疾患(先天性の疾患が多く、虚血性心疾患が少ない)だった。
- ガンの発症率は低かった。
- 一部の死因については回避可能だった可能性があった(もっと手厚い医療・福祉サービスがあれば回避できた)
- 全ての研究は高所得国で行われたものであり、死因は全然調べていなかった。
う~ん。今まで見てきた研究結果とほぼほぼ同じ結果ですねー。
それと今回個人的に注目したいのはこういった研究が高所得国、つまり先進国ばかりで行われているってこと。つまり、低所得国や低中所得国、高中所得国なんかも混ざるとまた違った結果が出てきそうですし、そもそも高所得の国を対象にしていても医療や福祉サービスが行き届かず結果、寿命が短くなっている可能性があるんですな。
それらを踏まえると、まだまだ全体像をとらえきれていないとも言えますし、その中でも寿命は延びつつある、更に延ばせる可能性もあるとも言えますね。
スウェーデンにおける知的障がいの方の寿命について調べてみた…!
2021年のカロリンスカ研究所の前向きコホート研究によると、スウェーデンにおける知的障がいの方の寿命について調べてみたそうです。
この研究は、スウェーデンの全国民が持つマイナンバーの登録データベースを使ったもので主に2つのコホートを作ってみたと言うもの。
んでまずその2つのコホートってのは以下な感じ。
- コホート1:1980~1991年生まれの軽度知的障がいの若者で構成した。
- コホート2:1932~2013年生まれの軽度、中度、重度の知的障がいの方で構成した。
因みにデータの分析は2020年6月1日から2021年3月31日までの間に行ったそうです。
ではコホート1の結果から見てみましょう。
- 軽度知的障がいの方は13,541人いた(参照コホートは135,410人)
- うち男性は7,826人(57.8%)、女性は5,715人(42.2%)だった。
- 平均死亡年齢は24.53歳だった。
- 追跡調査中に軽度知的障がいの方で亡くなった方は120人(0.9%)だった。
- 追跡調査中に参照コホートの方で亡くなった方は424人(0.3%)だった。
- つまり、軽度知的障がいの方はない方に比べて、死亡リスクが2.86倍(OR2.86)高かった。
- 女性の方(OR6.23)は男性の方(OR1.99)に比べて死亡リスクが高かった。但し、絶対的死亡リスクは変わらなかった(女性0.9%(5715人中53人死亡)、男性0.9%(7826人中67人死亡))
- 原因別の死亡率を見てみると、新生物(OR3.58)、循環系疾患(OR9.24)、神経系疾患(OR40.00)が高かった。
- 神経系疾患は、てんかんについて調整後、リスクがかなり減少した(OR15.61)
スウェーデンの研究では、軽度知的障がいの方は一般人口に比べ死亡リスクが高かったみたいですね。それと男女の違いはない感じみたい。
続いてコホート2の結果を見てみます。
- 軽度知的障がいの方は24,059人、中度から重度の知的障がいの方は26,602人いた(参照コホートは240,590人、266,020人)
- 軽度知的障がいの方のうち男性は13,649人(56.7%)、女性は10,410人(43.3%)だった。
- 軽度知的障がいの方の平均死亡年齢は52.01歳だった。
- 中度から重度知的障がいの方のうち男性は15,338人(57.7%)、女性は11,263人(42.3%)だった。
- 中度から重度知的障がいの方の平均死亡年齢は42.16歳だった。
- 軽度知的障がいの方はない方に比べて、死亡リスクが6.21倍(OR6.21)高かった。
- 中度から重度知的障がいの方はない方に比べて、死亡リスクが13.15倍(OR13.15)高かった。
- つまり、中度から重度知的障がいの方は軽度知的障がいの方に比べて、より死亡リスクが高かった。
- 軽度知的障がいの方について、女性の方(OR7.06)は男性の方(OR5.65)に比べて死亡リスクが高かった。但し、絶対的死亡リスクは変わらなかった(女性7.53%、男性7.47%)
- 中度から重度知的障がいの方について、女性の方(OR16.29)は男性の方(OR11.35)に比べて死亡リスクが高かった。但し、絶対的死亡リスクは変わらなかった(女性19.34%、男性18.93%)
- 軽度、中度から重度の知的障がいの方は、分析した全てのカテゴリーのリスクが大幅に高く、全体的には、中度から重度の知的障がいの方はよりリスクが高かった。
- 但し、てんかんについて調整後、全死亡リスクが軽度知的障がいの方(OR5.43)、中度から重度知的障がいの方(OR8.94)ともに減少した。
以前に紹介した研究同様、やはり知的障がいの重症度が高くなるほど、寿命は短くなってしまうみたいですね。
韓国における知的障がいを持つ方の寿命について調べてみた…!
2022年の韓国国立リハビリテーションセンターの研究によると、韓国における知的障がいを持つ方の寿命について調べてみたそうです。
2020年現在、韓国政府によれば知的障がいを持つ方は217,108人いるそうな。そして一般人口と同様に知的障がいを持つ方の寿命も近年上昇しているらしく、平均寿命は2008年で46.4歳、2018年で55.9歳と毎年0.8歳増加しているとのこと。
そんな韓国でも知的障がいを持つ方の死亡に関する研究はほとんど行われていないそうな。但し、韓国には障がいを持つ方を登録・管理するシステムを導入しているそうで、数少ない国の一つらしい。
そこで今回研究者たちは、全国規模の調査をするべく、韓国の知的障がいを持つ方を対象に寿命についてチェックしてみたとのこと。
実験はシンプルな流れでして、まず最初に2015年末から2019年末までの障がいを持つ方の登録者データを手に入れたそうな。次に、統計庁から死因データを用いて統合し、障がいを持つ方の死因データベースを作ったらしい。最後に死亡率や標準化死亡率を計算し、主な死因を分析したそうです。
その結果、以下のことが分かったみたい。
- 知的障がいを持つ方の死亡率は2015年で794.9、2019年で784.6だった。
- 一般人口の死亡率は2015年で541.5、2019年で574.8だった。
- つまり、知的障がいを持つ方の死亡率は一般人口の死亡率に比べて、約1.4倍も高かった。
- 知的障がいを持つ方も一般人口も男性の死亡率の方が高かった。
- 知的障がいを持つ方のうち、0~59歳の年齢層の死亡者の割合は、2015年で61.98%、2019年で56.32%だった。
- つまり、知的障がいを持つ方のうち、0~59歳の年齢層の死亡者の割合は50%以上を占めていた。
- 一般人口のうち、0~59歳の年齢層の死亡者の割合は、20%未満だった。
- 知的障がいを持つ方のうち、60歳以上の年齢層の死亡者の割合は、2015年で38.02%、2019年で43.69%と増加していた。
- 一般人口のうち、60歳以上の年齢層の死亡者の割合は、2015年で90.58%、2019年で83.48%と減少していた。
- つまり知的障がいを持つ方の寿命が延びていた。
- 知的障がいを持つ方の死亡率は年々増加または減少するという不規則なパターンだった。
- 一般人口の死亡率は2015年で541人、2018年で582人と増加したが、2019年にはわずかに減少していた。
- 上記から、知的障がいを持つ方の標準化死亡率は一般人口に比べて、3.2倍高かった。
- 知的障がいを持つ方の死因のトップ3は、1位循環器疾患(脳血管疾患)、2位悪性腫瘍(消化器系)、3位呼吸器疾患(肺炎)だった。
- 一般人口の死因のトップ3は、1位悪性腫瘍、2位循環器疾患、3位呼吸器疾患だった。
- 知的障がいを持つ方の死因のほとんどは、一般人口よりも死亡率が高かった。但し、悪性腫瘍は、一般人口の死亡率の方が高かった。
- 全ての死因の標準化死亡率は、知的障がいを持つ方の方が一般人口よりも高かった。
まとめると、韓国における知的障がいを持つ方は、一般人口と比較して、死亡率が1.4倍と高く、また平均死亡年齢も低く、寿命も短かったみたいです。但し60歳以上の死亡率も上がっており、寿命も延びておりました。
中国における障がいを持つ方の寿命について調べてみた…!
2023年の浙江大学の研究によると、中国における障がい者の寿命について調べてみたそうです。
中国国家統計局の調べでは、2006年4月1日時点での中国の障がい者数は8,296万人だったそうで、総人口の6.34%を占めていたそうな。また、障がい者がいる世帯は総人口の19.98%を占めていたらしい。2020年の中国の国勢調査によれば中国の人口は14億1,178万人だったそうなんで、これらのデータから推定すると、2020年時点で障がい者数は8,951万人を超えたっぽいとのこと。
中国国家統計局の調べでは、2006年4月1日時点での中国の障がい者数は8,296万人だったそうで、総人口の6.34%を占めていたそうな。また、障がい者がいる世帯は総人口の19.98%を占めていたらしい。2020年の中国の国勢調査によれば中国の人口は14億1,178万人だったそうなんで、これらのデータから推定すると、2020年時点で障がい者数は8,951万人を超えたっぽいとのこと。
一方で中国における障がい者の平均寿命研究はあんまり進んでいなかったんだとか。
例えば2011年の北京大学の研究では、2007年から2010年までの中国の障がい者調査データを使い身体障がい者の平均寿命を調べたものがあり、同研究者が行った2012年の同じデータを使った障がい者の平均寿命を調べた研究によると、56.9歳と推定できたらしい。但し、この研究はサンプル数がわずか23,837人とのことで、中国の人口からみると全容が分からない感じだったそうな。
そこで今回研究者たちは、2015年から2017年までのK省の登録障がい者1,359,812人の国勢調査データを使って障がい者の平均寿命を大規模に調べてみることにしたそうです。
2015年から2017年のサンプル数は、
- 2015年:1,360,233人(登録された障がい者総数の91.85%)
- 2016年:1,500,400人(登録された障がい者総数の96.42%)
- 2017年:1,546,784人(登録された障がい者総数の104.13%)
って感じでして、但し、2015年の調査で性別不明だった障がい者が421人いたそうなんで、2015年の最終的なサンプル数は1,359,812人だったとのこと。
これらのデータを統計処理した結果、以下のことが分かったみたいです。
- 障がい者の平均寿命は全人口よりもはるかに低かった。
- 2015年のK省における障がい者の20歳の時点での平均寿命は、男性が45.2歳(44.7~45.8)、女性が48.1歳(47.6~48.6)だった。
- 上記は全人口の平均寿命よりも男性で15.0歳、女性で16.5歳短いことを意味している。
- 但し、年齢が上がるにつれ、全人口と障がい者の平均寿命の差は小さくなっていた。
- 60歳の時点での平均寿命は、男性が18.1歳(18.0~18.3)、女性が19.3歳(19.1~19.5)であり、全人口よりも男性が4.4歳、女性が6.5歳短かった。
- 20歳の時点で、知的障がい者と身体障がい者は性別に関係なく平均寿命が最も短くなっていた。
- 知的障がい者の平均寿命は男性が44.2歳(43.3~45.2)、女性が46.2歳(45.3~47.2)だった。
- 身体障がい者の平均寿命は男性が44.1歳(43.2–44.9)、女性が47.0歳(46.0–47.9)だった。
- 20歳の時点で、視覚障がい者と言語障がい者は障がい者の中で最も高い平均寿命だった。
- 視覚障がい者の平均寿命は男性が50.6歳(48.9〜52.3)、女性が51.4歳(48.8〜54.0)だった。
- 言語障がい者の平均寿命は男性が51.8歳(48.4〜55.2)、女性が54.2歳(48.9〜59.5)だった。
- 重複障がい者の平均寿命は男性が50.2歳(48.0~52.4)、女性が55.2歳(52.8~57.6)と何故か高かった。
- 知的障がい者の60歳時点での平均寿命は男性が15.7歳(15.2~16.2)、女性が15.5歳(14.9~16.1)と非常に低く、高齢知的障がい者の死亡リスクが高いことを示している。
- 障がいの重症度で平均寿命に大きな差があった。
- 20歳時点での重度障がい者と軽度障がい者の差は男性で19.5歳、女性で19.2歳だった。
- 60歳時点での重度障がい者と軽度障がい者の差は男性で3.8歳、女性で5.0歳だった。
- 20歳時点での重度障がい者の平均寿命は男性で33.7歳(32.2〜35.1)、女性で37.1歳(35.4〜38.8)だった。これは全人口の平均寿命よりも男性で26.6歳、女性で27.5歳も短いことを示している。
- 重度障がい者は若年での死亡率が非常に高く、40歳までに死亡する人の割合は男性で約35.4%、女性で約30.9%、60歳までに死亡する人の割合は男性で約59.7%、女性で約53.4%だった。全人口の死亡率は、40歳までに男性0.09%、女性0.04%、60歳までに男性7.2%、女性3.4%だったのでかなり高いことを示している。
- 但し、軽度障がい者は健常者の結果に近かった。
ちょっと他の障がいの内容も載っていたんで簡単にですが載せておきました。
今回の結果は、先行研究とおおよそ同じ感じですね。また「知的障がいを持っていると「老化・認知症になるのが早い」は本当か?どれぐらい早いのか?」の内容とも合致する部分が多いかと思います。
因みに知的障がい者の平均寿命が全人口よりも短くなってしまう原因について、研究者はいくつかの可能性を上げておりました。
軽くまとめておきますと、
- 知的障がいの方は、痛みや症状、ニーズを伝えるのが難しい場合が多い
- そのため、問題に気付かなかったり、遅れたりすることがある
- ケアや社会的サポートが不十分な場合もある
- うつ病や不安症などのメンタルに問題を抱えている場合もある
って感じでした。
これら要因が平均寿命を下げている可能性があるそうです。
重度知的障がいを持つ方は、IQが35未満の方を言いまして、寝たきりや、サポートにより座ったり、はったり、歩いたりすることが出来る場合が多かったりします。そんな重度知的障がいですが、日本では乳児期に検査し、診断される場合がほとんどです。そして、その後の生存率についてはほとんど報告がないんだとか。そこで今回研究者たちは調べてみることにしたらしい。
この研究は日本重症心身障害福祉協会のデータベースを使ったものでして、こちらには日本の全ての私立・公立施設から毎年重度知的障がいを持つ方のデータが送られ記録されているんだとか。因みにデータは個人が特定できないよう配慮されているそうで、日本の施設に入所している重度知的障がいを持つ方の40%~60%のデータが集まっているらしい。
んで、このデータベースで1961年から2007年の間に119の施設に入所していた16,409人分のデータを使い、
- 今回の対象機関である1961年から2003年のデータのみをピックアップ
- 2003年の死亡者データベースを使う
- バイアスリスクの排除
- 重度知的障がい・最重度知的障がいを持つ方をピックアップ
などしたそうです。
最終的なサンプル数は3,221人だったそうで、これらのデータを用いて統計処理してみたんだとか。
その結果、
- 3,221人のうち2,645人が生存し、576人の方が亡くなっていた
- 追跡不能となった参加者の割合は27.6%だった
- 全参加者の20歳時点での生存率は79%だった
- 座る事が出来なかった方は、座る事が出来た方よりも生存率が低かった
- 座る事が出来なかった方の中では、IQが低い方の方が生存率が低かった(=重度知的障がいを持つ方よりも最重度知的障がいを持つ方の方が生存率が低かった)
- 2歳未満で死亡した乳児と観察期間が2年以下の人を除外した場合で調べてみたが、結果は変わらなかった
- 主な死因は呼吸器疾患と心血管疾患だった
とのこと。
先行研究同様、寿命は短くなってしまうみたいでして死因も同様でした。
更に10歳、20歳、30歳、40歳時点での生存率もチェックしておきますと以下のようになっておりました。
【全死亡と観察期間】
- 10歳:20歳:30歳:40歳
- 91%:79%:72%:64%
【2歳未満で死亡した乳児と観察期間が2年以下を除く】
- 10歳:20歳:30歳:40歳
- 91%:78%:72%:65%
この結果に研究者曰く、
- 日本の公立及び私立の医療施設に入所している重度知的障害者の生存率を推定した。予想通り、生存率は一般人口よりもはるかに低く、身体障害が重度な人ほど低かった。座れるかどうかは生存率にとって重要な因子であり、これはこれまでの報告と完全に一致する結果だった
としています。
重度知的障がいや最重度知的障がいを持つ方々は座位が保てるかどうかが寿命に大きく影響するみたいですね。
個人的考察
これらを見ると、知的障がいの重症度にもよりますが、心疾患、呼吸器系の維持向上を40歳までにしっかりしておけば、寿命は一般集団と変わらない感じになりそう。
ともなれば、やはりポイントは心肺機能の強化となりましょう。そう、皆大好き…?有酸素運動ですね。
この辺については、
でガッツリ深掘りしていますんで、参考にしていただけたらと思います。
因みに知的障がい以外の障がいを持つ方の平均寿命については下記をご覧ください。
因みに知的障がい以外の障がいを持つ方の平均寿命については下記をご覧ください。