アンブレラレビューを見てみよう!」シリーズその104です。
昨日の続きとして、プラセボ効果を調べたRCTのメタ分析・系統的レビューのアンブレラレビューを見ていきます。



精神疾患におけるプラセボ効果についてRCTのメタ分析・系統的レビューのアンブレラレビューを行ってみた…!

2024年のサウサンプトン大学などの研究によると、精神疾患におけるプラセボ効果についてRCTのメタ分析・系統的レビューのアンブレラレビューを行ってみたそうです。
まず2018年のライデン大学などの研究によれば、プラセボとは有効な治療の有効性を評価するための対照として使用される偽の物質のことを言うそうな。そしてプラセボの対照群の参加者は、かなりの症状の改善を経験する可能性があるとのこと。これをプラセボ効果というんですよね。因みにプラセボ効果は1955年の研究にも載っており、なかなかの歴史を持っております。
そんなプラセボ効果は本当にバカにできなくて、例えば、

  • 免疫抑制が起きる…!
  • ドーパミンが放出される…!
  • 痛みが減る…!
  • 脳の活動が変化する…!

って先行研究が出ているんですよ。まさに、病は気から、気の持ちよう、と言えるでしょう。
更にプラセボ効果の大きさは、言語的暗示や条件付け手順を用いることでアップさせることが出来るらしく、学習や期待といった心理的メカニズムが関係しているっぽい。
一方、精神障がいの多様性に関わらず、薬物療法なんかで症状は軽減します。しかし、有意な症状反応を示したり、寛解状態に入るのは一部の患者のみなんですな。更に副作用が出ちゃうこともあったり…。そのため、より効果的で安全な治療法の開発が必要とのこと。
ただ、プラセボ効果があるため、どうしても研究結果に影響を及ぼす可能性があるんですな。例えば、2013年のメタ分析では1970年から2010年までの抗精神病薬のプラセボ効果を、2017年のミュンヘン工科大学のメタ分析では過去60年間のプラセボ効果を見ていますが、どうやら過去40年間の抗精神病薬の試験では、プラセボ効果が増えているのに、薬物反応は一定のままみたい。
こうなるとプラセボをより理解し、治療効果と区別できるようになる必要があると言えます。
そこで今回、様々な精神障がいのRCTにおけるプラセボ効果の大きさを評価しつつ、効果の大きさが異なるのか、反応率の増加との相関関係はどうなのかを初めてアンブレラレビューしてみることにしたんだとか。
まず研究者たちは、2022年10月23日までに発表されている該当のRCTのメタ分析・系統的レビューをMedline、PsycInfo、EMBASE+EMBASE Classic、Web of Knowledgeで検索してみたそうな。すると合計6,108件の研究がヒットしたとのこと。次に被っている物を除外(但し0件だった)、その後、各研究の質をチェックし精査していったらしい。
最終的に選ばれたRCTのメタ分析・系統的レビューは20件でして、総サンプル数は261,730人(中央値5,365人)だったとのこと。
それではこれらのデータをまとめた結果を見てみましょう…!
まずは大枠から。

  • プラセボ効果の大きさは0.23~1.85の範囲で、中央値は0.64だった…!
  • 但し、メタ分析の結果のばらつきが全体的に高かった…。

異質性が高いものの、やっぱプラセボ効果の効果量って結構高いんですねー。
次に各精神疾患に含まれるプラセボ効果サイズを見ていきます。

  • 大うつ病(大うつ病性障害・うつ病:MDD):プラセボ効果は大きかった(g=1.10)が、本物の薬はもっと効果サイズが大きかった(g=1.49)。大うつ病の小児・青年では、プラセボ効果は大きかった(g =1.57)が、セロトニン作動薬(本物の薬)はもっと効果サイズが大きかった(g=1.85)
  • 不安障害:不安障害の成人は、プラセボ効果サイズが障害によって異なった。パニック障害は中程度の効果だった(d=0.57)。全般性不安障害の効果は大きかった(d=1.85)。社交不安障害の効果は大きかった(d=0.94)。別の2つのメタ分析では、小児、青年、高齢者における不安障害のプラセボ効果が大きかった(d=1.03、1.06)
  • ADHD(注意欠陥多動性障害・注意欠如多動性障害):プラセボ効果は中~大きかった(SMC=0.75)。また自己評価においてプラセボ効果サイズと薬・プラセボの差の間に有意な負の相関関係があった(-0.56)
  • 統合失調症:抗精神病薬のプラセボ効果は小~中程度だった(SMC=0.33)。陰性症状に焦点を合わせた場合のプラセボ効果は中程度だった(d=0.64)
  • むずむず脚症候群(RLS):主観的評価ではプラセボ効果は大きかった(g=1.41)。客観的評価では有意に小さかった(d=0.02)
  • 自閉症スペクトラム障害(ASD):プラセボ効果は小さかった(SMC=0.23~0.36の範囲)
  • 強迫性障害:プラセボ効果は小さかった(d=0.32)。但し小児・青年(d=0.45)は、成人(d=0.27)よりもプラセボ効果サイズが大きかった。
  • アルコール依存症:プラセボ効果は大きかった(d= 0.90)
  • 不眠症:プラセボ効果は小さかった(g=0.25~0.43の範囲)
  • 知的障害:プラセボ効果は中程度だった(g=0.47)

上記を見ると、身体障がいを除いた障害種別全体(精神障がい・発達障がい・知的障がい)でプラセボ効果は発生するっぽく、特に精神障がいはやっぱり全体的にプラセボ効果サイズが大きく出たみたいですね。

次はプラセボ効果の増加に関連する相関関係を見てみましょう。

  • 実験実施施設数の増加は、大うつ病、統合失調症、自閉症スペクトラム障害のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。
  • サンプル数の増加は、統合失調症、強迫性障害、パニック障害のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。
  • 出版年度や研究年度が遅いことは、不安障害、統合失調症、アルコール依存症、強迫性障害のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。但し、大うつ病は関係なかった。逆にADHDはプラセボ効果の増加と負の相関関係があった。
  • 若年の年齢は、統合失調症、強迫性障害のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。
  • 実験開始時の障がい・症状の重症度の大きさは、統合失調症、ADHD、アルコール依存症のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。
  • 実験期間や追跡期間の延長は、大うつ病のプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。但し、統合失調症、強迫性障害はプラセボ効果の増加と負の相関関係があった。
  • 神経刺激試験の効果サイズは、大うつ病、双極性障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)、ADHDのプラセボ効果の増加と正の相関関係があった。

上記の関連性はプラセボ効果の増減と関係あったみたいです。
それと、一つの障がいでのみ見られたプラセボ効果の増加に関連する相関関係もありまして、

  • 大うつ病:固定の投与量ではなく、柔軟な投与量がプラセボ効果の増加と関連していた
  • 統合失調症:罹病期間の増加がプラセボ効果の減少と関連していた
  • 統合失調症の陰性症状:治療グループの数が多さがプラセボ効果の増加と関連していた
  • アルコール依存症:治療回数・投与回数がプラセボ効果の増加と関連していた
  • ADHD:選択的報告バイアス(研究結果を複数報告するが、その時、最もインパクトのある結果をメインに(選択的に)発表(報告)することを言う。これによりこの研究は意味のある、すごい研究だぜ…!感をアピールする)のリスクの低さがプラセボ効果の増加と関連していた
  • 自閉症スペクトラム障害:割付の隠蔽(コンシールメント)バイアス(参加者を各グループに分ける際、グループ振り分け担当者(割り付け担当者)が参加者の情報を知っていると、効果が出やすそうな参加者を介入群に組み入れるなどができてしまうことを言う(意識・無意識に関わらず)。そのため、参加者の情報が分からないまま(隠蔽)、グループ分け(割り付け)する)のリスクの低さがプラセボ効果の増加と関連していた

とのこと。
確かにいずれもありそうですね~。

ということで、障がいによってプラセボ効果の大きさに、かなりのばらつきがあるみたいなんですが、ざっくりまとめてみると、以下のような感じになるかと思います。

  • プラセボ効果大:全般性不安障害、社交不安障害、大うつ病、アルコール依存症、むずむず脚症候群(主観的評価)
  • プラセボ効果小:強迫性障害、不眠症、自閉症スペクトラム障害、むずむず脚症候群(客観的評価)、統合失調症

また、プラセボ効果の大きさ・反応率が、多くの障がい(大うつ病、双極性障害、ADHD、自閉症スペクトラム障害)で実際の治療の効果の大きさ・反応率と相関していたのもすごいですな。
但し大事なポイントは、

  • プラセボよりも実治療が常に優れていた…!

ってこと。
つまり、上記障がいは根本的な治療の反応性の大きさにばらつきがある可能性を示しているんですな。
このことについて研究者曰く、

  • おそらく疾患の自然経過は反応性の重要因子であり、重症度の自然変動が大きい疾患では、プラセボ(および実治療)効果の大きさも大きくなると考えられる

とのこと。
確かに有り得る理由ですね。



個人的考察

それと残念ながら、このアンブレラレビューでは、ストレス関連障害、摂食障害、行動依存症、双極性障害の躁病において、適格な系統的レビューがなかったんだとか。この辺は今後の研究に期待って感じでしょうねー。
いずれにしてもプラセボ効果がかなり大きく、上手く利用していきたいのは間違いないかと。



参考文献